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寺田的コラム

【TBSクイーンズ駅伝展望コラム9本目・前日区間エントリー】

2020.11.22 / TEXT by 寺田辰朗

日本郵政は1・3・5区に廣中・鍋島・鈴木、積水化学は1・2・3区に佐藤・卜部・新谷
日本郵政は2区終了時、積水化学は4区終了時のリードが重要に

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写真提供:フォート・キシモト

 前日(21日)の監督会議後に、有力チームの監督たち数人に話を聞くことができた。優勝候補筆頭はJP日本郵政グループで衆目の一致するところで、積水化学が3区でリードすることも既定路線と言われている。面白いのは1区が日本郵政、3区は積水化学、5区は日本郵政と、強い選手がはっきりしていること。日本郵政は3区が何秒のリードでタスキを受けるのか、積水化学は5区が何秒のリードでスタートできるのかがポイントになる。区間によって立場が入れ替わる点が、今年のクイーンズ駅伝最大の焦点だ。
 
ダークホースとしてデンソーが浮上している。代表経験はないが1・3・5区にトラックで好調な選手を配置し、4区では前回区間賞のゼイトナ・フーサン(21)が流れを変える走りが期待できる。

●3区の新谷に対し40秒リードしたい日本郵政

  優勝候補筆頭に挙げられている日本郵政は、以下のオーダーを組んできた。
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1区(7.7km):廣中璃梨佳(19)
2区(3.3km):菅田雅香(19)
3区(10.9km):鍋島莉奈(26)
4区(3.6km):宇都宮恵理(27)
5区(10.0km):鈴木亜由子(29)
6区(6.795km):大西ひかり(20)
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 5区が前回同様大西、6区が鈴木ではないかという声もあったが、ほぼ予想されていた通りのオーダーに落ち着いた。
 
1区の廣中でリードすることは、他チームの指導者たちも認めている。昨年は区間2位に20秒差をつけた。今年は前回より大きくなると高橋昌彦監督は見込んでいる。
「どのくらいの差で3区に渡せるかが1つ、ポイントになる」と高橋監督は言う。
「鍋島がどのくらいの速度で逃げ、新谷さんがどのくらいの速度で追い上げるか。3分ちょっとのペースで押してくるのでしょうが、鍋島が30秒くらいのアドバンテージでもらったら、追いつかれるのは後半になります。そこは並走しないといけないところです。引き離されたら、(12月4日の)日本選手権でも勝負になりません。鍋島本人は貯金を使い果たしてしまいそうだと言っていますが、私は鍋島が最後はリードするイメージも持っています」
 新谷がプリンセス駅伝3区区間新レベルの走りをすれば、クイーンズ駅伝でも3区の区間記録を1分近く更新する。客観的に見れば30秒のリードでは、鍋島も区間記録を大きく更新しない限り逆転され、差を広げられる計算になる。
 1区の廣中が積水化学の佐藤早也伽を40秒以上引き離し、2区でもその差をキープできたとき、日本郵政は3区でも逆転を許さない可能性が出てくる。
 
では3区終了時に積水化学が何秒のリードをすれば、後半の戦いが伯仲するのだろうか

●5区の鈴木に対し1分リードしたい積水化学

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写真提供:フォート・キシモト

積水化学は以下のようなオーダーで、予定通り1〜3区はプリンセス駅伝と同じメンバーを起用してきた。この3人が安定した強さと、その区間の距離への特性を持っているということだ。
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1区(7.7km):佐藤早也伽(26)
2区(3.3km):卜部蘭(25)
3区(10.9km):新谷仁美(32)
4区(3.6km):木村梨七(18)
5区(10.0km):森智香子(27)
6区(6.795km):野村蒼(21)
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 4区以降については、秋になって急激に調子を上げてきた木村を4区に、10kmの距離にも積極的な姿勢を見せている副キャプテンの森を5区を、「後半区間候補選手では一番練習で良い」(野口英盛監督)という野村をアンカーに起用した。
 野口監督は「2区が終わって日本郵政に40秒離されていると、新谷が追いつくのが中盤から後半になります。それよりも早く前半で追いつければこっちが有利になる」とタイム差について言及した。
 
ただ、新谷の3区で「できれば1分リードしたい」という。そのためにはもう少し小さな差で2区を終えたい。1区の佐藤、2区の卜部蘭の頑張りが必要ということになる。
 前半が1分リードで4区に渡れば「木村がいい。昨年の下田平(渚・ダイハツ)と同じくらいのタイムでは行く。そこは自信があります。日本郵政の宇都宮ともトントンで行けるはず」とルーキーに期待する。昨年の下田平は11分18秒で区間7位、日本人では区間トップだった。
 つまり野口監督は5区の森に、日本郵政の鈴木に対し1分のリードでスタートさせたい、と考えている。「その差があれば追いつかれても終盤になり、森がついて行くことができる」。そして調子の良い野村でアンカー決戦に持ち込む。
「ウチが2区までに離したいのに対し、日本郵政は4区までに離したい。そこの考え方は同じだと思います。どちらが先手を取れるか、でしょうね」
日本郵政の廣中、鍋島、鈴木、積水化学の佐藤、卜部、新谷が注目されているが、彼女たちが走る区間以外でも、予定より10秒速く走れば戦局を変えられる可能性がある。どの区間でもヒロインが誕生する可能性があるということだ。

●五輪マラソン代表が3区を走る天満屋とワコール。トラックのタイムが傑出しているヤマダ

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写真提供:フォート・キシモト

 逃げる積水化学と追う日本郵政。レース展開的にもその2チームが注目されやすいが、その間隙をついて上がってくるチームが現れないとも言い切れない。
 天満屋は1区の三宅紗蘭(21)が故障明けで不安もあるが、三宅が快走すれば全体的に力のある選手がそろっているので、優勝争いに加わってくる。3区の東京五輪マラソン代表の前田穂南(24)は「優勝を目指して取り組んできました。チーム一丸となって全力で取りに行きます」と力強く言い切った。
 ワコールも3区に東京五輪マラソン代表の一山麻緒(23)を起用。1区の安藤友香(26)が出遅れなければ、一山で上位固めができ、今季の成長株の5区・谷口真菜(21)で勝負に出られる。
 一山は「明日はチームの目標を達成できるように、初めからガンガン行きます」と、こちらも力強かった。クイーンズ駅伝公式ガイド記載の目標は「1位」。最低でも38歳の福士加代子の入社後最高順位である3位以内をプレゼントしたいようだ。
 チームの順位とは別に、前田と一山の並走が見られたら五輪への雰囲気が一気に盛り上がる。
 トラックの平均タイムでは、ヤマダホールディングスが日本郵政に匹敵するレベルだ。
 1500m全日本実業団陸上2位の田?優理(19)が、1週間前の5000mで15分34秒52の自己新。森川賢一監督は「下りが走れる選手で、距離も6kmまでは耐えられる」とアンカーに起用してきた。
 同じレースで市川珠李(22)が15分38秒95の自己新を出して、4区に起用された。チームの総合力がわかる4区日本人選手のシーズンベストでは、参加チーム中最高だ。
 その結果、15年世界陸上代表だった西原加純(31)を2区に起用できた。1区の清水真帆(25)は日本選手権1500m6位と今季は大舞台でも実績を残し、11月3日に強風下で走った5000mでは西原、田?に先着した、2区終了時点で日本郵政や積水化学と競り合っている可能性がある。
 日本郵政に対しては言及しなかったが、積水化学に対しては新谷に引き離されても「1分半くらいなら5区の石井(寿美・25)で返せる。3区で2分差でも6区で勝負に持ち込める」と森川監督は珍しく強気になっている。

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