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寺田的コラム

ホクレンDistance Challenge第2戦深川大会④

2020.07.11 / TEXT by 寺田辰朗

東京五輪男子マラソン代表の中村が10000mで想定に近い走り
富士通勢が駅伝リベンジに向け順調なスタート

 深川大会(7月8日)の男子10000mB組には、東京五輪男子マラソン代表の中村匠吾(富士通)が出場。28分49秒45でB組3位に入った。
自己記録の28分05秒79とは差があったが、練習の流れから想定していた「28分40〜50秒」(富士通・高橋健一駅伝監督)内で走って見せた。
富士通勢では5000mA組の松枝博輝が13分26秒25の自己新で7位(日本人1位)と好走。10000mC組でも鈴木健吾が28分23秒89の自己新で組トップと健闘した。
昨シーズンは東日本実業団駅伝でのアクシデントにより、ニューイヤー駅伝出場を逃した富士通。今季のリベンジに向け、チーム全体が盛り上がりを見せている。

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写真提供:フォート・キシモト

●終盤も崩れなかった中村の走り

 中村匠吾はレース後のオンライン会見で、自身の走りを謙虚に振り返った。
「今日は28分40秒くらいが目標でした。早い段階できつくなってしまい、後半は我慢のレースになってしまいましたね」

 しかし、いつものように背筋を伸ばした中村の走りを、深川のトラックで見ることができた。マラソンを意識し始めた大学3年頃から取り組み始めたフォームである。
「背中をしっかりと動かすことで、接地のタイミングで力が入らないことを意識しています。脚に力が入って42.195kmを走ると、どうしても疲労が大きくなる」

 練習の状態からトラックのスピードが出せないことはわかっていたが、中村の特徴は深川でも現れていた。

 快走した藤木宏太(國學院大)には差を付けられたが、中村が崩れて差が広がり続けることはなかった。終盤にペースダウンした選手たちを抜き、気づけば3番目でフィニッシュしていた。

 状態が良くないのは、練習で追い込んできたことの裏返しだろう。目指す試合が何度も変わり、練習の変更を繰り返してきた影響も出たのかもしれない。

 出場予定だった3月の世界ハーフマラソンの、10月への延期が2月に決まった(中村は出場辞退)。4月のトラックレースに目標を切り換えたが、それも3月に中止が決まった。
緊急事態宣言が出るとトラックが使えなくなり「スピードよりもじっくり距離を踏む練習」に切り換えた。
そして9月の海外マラソンに照準を合わせたが、最近になって出場が難しい状況になっている。トラックのスピードが戻っていないのはやむを得ない。

 指導する駒大の大八木弘明監督によれば、マラソンは12月か来年2月に、国内大会を走ることになりそうだという。
「2時間7分、8分くらいの感覚をつかむ」ことが狙いとなる。チームが目標にしている駅伝も利用してマラソンに合わせて行く。
中村が東京五輪への仕切り直しの第一歩を、深川で記した。

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写真提供:フォート・キシモト

●ラスト1周をしっかり切り換えた松枝

 男子5000mA組は注目の学生である川瀬翔矢(皇學館大)が2000mで後れ、ただ1人アフリカ選手たちの集団に入ってレースを進めたのが松枝博輝(富士通)だった。
175cmの身長以上に大きく見える腰高でダイナミックなフォームが、1500mでも3分38秒12(日本歴代4位)の走りを可能にしている。

 1周63〜65秒のペースを維持していたが、3600mからは68秒台にペースダウンし、アフリカ勢に引き離された。
「外国勢が速いペースで行くことはわかっていたので、いかについて行き、勝負ができるかを考えていました。勝負に絡めなかったことが課題です」

 だが2周半を68秒台で踏みとどまり、残り1周は57秒6までペースを上げた。いっぱいまで出し切っても、ラストでしっかりと切り換える。国際大会でも重要になる自身の特徴を発揮し、強さをアピールした。

 昨年の東日本実業団駅伝ではアンカーの7区へ起用された。
6区のアクシデントで17位に終わり、ニューイヤー駅伝への連続出場を「29」で途切れさせた当事者になった。今年は前半区間でスピードを生かす走りをして、チームを優勝の流れに乗せる役割を果たすはずだ。

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写真提供:フォート・キシモト

●マラソンで成長中の鈴木がトラックで自己新

 10000mC組ではあったが鈴木健吾がトップを取り、28分23秒89と自己記録を6秒以上更新した。1周68〜69秒台だったペースを7200mから65秒台に上げ、独走態勢を築いた。
8000m以降は67〜68秒台に落としたが、勝負どころでペースを上げた走りは、7位と健闘した昨年のMGC終盤で勝負に出たシーンを彷彿させた。

 正確なデータは入手していないが、163cmの身長からするとストライドも出ている選手。それに勝負どころでは小気味良いピッチが加わる。MGCでも深川でもそれが見られた。

 しかし今年3月のびわ湖マラソンでは30km以降でペースダウンし、12位(日本人7位)と見せ場を作れなかった。
「42.195kmを走りきる力がない、体ができていないことを改めて思い知らされました。ウエイトトレーニングも本格的に始め、コロナで試合がない間に練習を見直しました。練習も色々と試してみて、充実した内容になったと思います」

 昨年の東日本実業団駅伝では、メンバー入りできなかった自身も敗因になったと認める。
ニューイヤー駅伝の連続出場が止まったことで、「チームの練習に緊張感がある」と言う。
「富士通はトラックのトップ選手が多いのですが、その人たちに食らいつくようになりました。自然と目指すところが上がっています。その雰囲気を利用して自分もトラック、駅伝、マラソンとつなげていきます」

 ここまで紹介した3人以外でも新人の浦野雄平が、深川大会5000mで13分36秒13と大幅に自己記録を更新。日本人2位と健闘した。
士別大会では不調に苦しんできたキャプテンの横手健が、5000mで13分49秒03と復調を示した。今季は出遅れているが昨年5000mで13分26秒70で走った坂東悠汰もいる。
さらには3000m障害で16年リオ五輪と18年アジア大会代表だった塩尻和也、同じく17年世界陸上ロンドン大会3000m障害代表だった潰滝大記と、トップランナーがずらりと揃う。

 ニューイヤー駅伝の出場が途切れたことで、チームの士気が上がっている。11月の東日本実業団駅伝、12月の日本選手権、来年1月のニューイヤー駅伝と、富士通勢の活躍が期待できると深川で確信できた。

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