寺田的コラム
ホクレンDistance Challenge第4戦千歳大会①
2020.07.19 / TEXT by 寺田辰朗
3000m障害の三浦が大学初戦で8分19秒37。
日本歴代2位、学生新、U20日本新と記録ずくめの快走
男子5000mでは遠藤が日本歴代7位、吉居がU20日本新、石田が高校新
ホクレンDistance Challenge第4戦千歳大会が7月18日、北海道千歳市の青葉陸上競技場で行われた。陸上関係者全てを驚愕させる記録が男子3000m障害で誕生した。今春、順大に入学したばかりの三浦龍司(順大1年)が8分19秒37で、P・キプラガット(愛三工業)に競り勝った。この記録は日本記録に0.44秒差と迫る日本歴代2位。8分25秒8の学生記録を41年ぶりに、8分31秒27のU20日本記録を37年ぶりに更新する歴史的なタイムだった。また、コロナの影響で世界陸連が適用期間外にしているが、8分22秒00の東京五輪参加標準記録も上回った。

写真提供:フォート・キシモト
●岩水の日本記録ペースを再現
三浦龍司(順大1年)は昨年、30年間破れなかった高校記録(8分44秒77)を8分39秒37と更新した。今季の学生ルーキーのなかでも期待の高かった1人だが、いきなり五輪標準記録を上回るとは誰も予想していなかった。
三浦本人も例外ではなかった。
「練習で良いタイムも出ていたので、自己記録は超えて8分30秒台前半、良ければ20秒台を出したいと考えていましたが、まさか20秒を切れるとは思っていませんでした」
1000m通過が2分48秒(非公式計時。以下同)、2000mが5分41秒。岩水嘉孝が03年世界陸上パリ大会の予選で8分18秒93の日本新を出したとき、1000m通過は2分47秒5、2000mは5分40秒7だった。当時24歳だった岩水がパリで走ったスピードを、18歳の三浦が千歳で再現していた。
「久しぶりのレースで不安がありましたが、中盤にかけて余裕がありました。中盤を上手く乗りこえられたので、スパートまでもっていけました」
岩水は世界陸上の予選で外国勢と競り合って、最後の1000mを2分38秒2とペースアップをした。それに対し三浦は同学年で、昨年のインターハイでは完敗したキプラガットと競り合うことで、U20選手では考えられない終盤の走りをやってのけた。
●3000m障害選手を多数育成してきた順大で
入学して3カ月半。ベースは高校(京都・洛南高)時代にできていたと見るべきだろう。そこに順大の新しいトレーニングや、コロナ禍による通常とは違った練習が加わった。
「3月に入寮しましたが、(4月に入って)すぐに解散して、自宅での練習期間があって、また(5月中旬に)順大に来て、できなかったメニューをしました」
自宅練習期間には高校時代にやっていなかった「距離を踏む習慣を付けた」(長門俊介駅伝監督)という。そして順大に戻ってきてからは、レースに直結するスピードとハードリングを組み合わせたメニューも行った。
三浦は「1000m障害3本」というメニューのタイムが、高校時代より手応えがあったという。
「高校でも2分50〜55秒で3本行うことができましたが、今回は2分45秒設定で行い、3本目は2分36秒で、それも少し余裕をもって走ることができました」
順大では塩尻和也(現富士通)が16年のリオ五輪に現役学生で出場した。当時順大の2年生。塩尻も高校歴代2位(当時)記録を出して順大に進み、将来を期待された選手だったが、2年目でオリンピックは難しいと思われていた。
実際、五輪標準記録は切ることができず、一連の五輪選考が終了後に標準記録突破者の数が規定の人数に達しなかったため、世界陸連のインビテーションという形で出場することができた。長門駅伝監督は当時のことを、「オリンピックは無理かもしれないという見方もありましたが、狙わないことには始まらない」と振り返る。挑戦を続けた結果だった。
その塩尻に憧れ、塩尻と一緒に練習できる機会も期待できることも、順大に進んだ理由だった。「練習を見たら、塩尻より行く」と長門監督は予想していたが、「標準記録までは予測できませんでした」という。
三浦は塩尻とは対照的に、五輪標準記録を破ることには成功したが、コロナ禍の影響で適用期間外になった。半分は不運なことだが、五輪を大学2年で迎えることは、塩尻と同じになった。力を付けたり覚悟を決める期間が長くなったことは、若い選手にはプラスのことだろう。
順大は箱根駅伝でも名門校。塩尻は2区の日本人最高記録も出すなど、駅伝と両立した。三浦も箱根駅伝予選会に出場するつもりで入学したし、山下りの6区を走るイメージも持っていた。
だが、今年12月の日本選手権は、「箱根仕様でなく、しっかりと合わせる」(長門駅伝監督)。日本記録保持者の岩水、歴代3位の小山隆治、さらには山田和人、塩尻、仲村明と8分30秒を切った選手数は順大が断トツに多い。仲村は現在、順大でコーチを務め、岩水や塩尻を指導した。
どこの大学よりも3000m障害選手を育てるノウハウを持っている順大が、三浦の東京五輪出場を全力でバックアップしていく。

写真提供:フォート・キシモト
●新記録好記録続出の千歳大会
千歳大会では3000m障害以外でも新記録、歴代上位記録が続出した。
男子5000mでは高校生と大学1年生が快走。B組の石田洸介(東農大二高)は13分36秒89で走り、佐藤秀和(当時仙台育英高)が04年に出した13分39秒87の高校記録を塗り替えた。A組で走った吉居大和(中大1年)は13分28秒31で、佐藤悠基(当時東海大1年。現日清食品グループ)が05年に出した13分31秒72を更新した。
当時“ダブル佐藤”と並び称された2人の記録が、同じ日に破られたことになる。
2人とも千歳大会では取材リストに入っていなかったためコメントを聞くことはできなかったが、石田は士別大会(7月4日)にも出場して14分03秒47になったときに高校記録更新へ意欲を見せていた。
士別では3000mを8分10秒のハイペースで通過したが、残り2000mでペースダウン。「高校記録のためにはラスト2000mが大事です。次はそこをしっかり走れるようにしたい」と話していた。
千歳大会の3000m通過は8分16〜17秒。士別大会より遅かったが、残り2000mを5分20秒と速いペースで押し切り高校新記録を達成した。
吉居は深川大会B組でトップを取り、13分38秒79とU20歴代5位タイで走っていた。
中大の藤原正和監督は「先のある選手なので」と、1年時から無理矢理引き上げるような指導は控えている。それでも「軸がしっかりしてブレなくなりました、メンタルも強いです。素直に人の話に耳を傾けますし、レースになれば人が変わって勝ち気になる」と心身ともトップレベルに育つ期待が持てることを強調する。
「在学中にいかに12分台に近づくか。卒業後にさらに上積みができるようにするのが4年間の仕事になります」
5000mではシニアでも、男子の遠藤日向(住友電工)が13分18秒99(日本歴代7位)の日本歴代7位を、女子では一山麻緒(ワコール)が15分06秒66の日本歴代8位をマークした。
陸連の河野匡長距離・マラソン強化プロジェクトディレクターは、「コロナの状況で力を蓄えてくれて、この大会に合わせてくれた。(記録を出した)選手全員にMVPをあげたいくらい」だと大会を総括した。
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