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寺田的コラム

ホクレンDistance Challenge第4戦千歳大会翌日

2020.07.22 / TEXT by 寺田辰朗

マラソン五輪代表の前田は今、どんなプロセスの中にいるのか?
ニューイヤー駅伝4連勝中の旭化成は西村新監督体制に

 千歳大会(7月18日)の翌日、天満屋の武冨豊監督と三宅紗蘭(天満屋)がTBSの取材に応じてくれた。武冨監督には前田穂南(天満屋)のホクレン3戦の総括や最近のトレーニング、今後のマラソンに向けての期待度を話していただいた。

前日5000mで15分29秒18の自己新をマークした三宅には、昨年のクイーンズ駅伝5区区間賞によって、自身がどう変わったかを取材した。2人の話から判明した天満屋のチーム状況についても紹介したい。

 また、ニューイヤー駅伝4連勝中の旭化成・西村功新監督にも、新体制のスタートについて語っていただいた。

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写真提供:フォート・キシモト

●「(前田は)理想的なフォームになってきました」(武冨監督)

 前田の前日の走りについて、武冨豊監督は次のように話した。
「深川大会(8日)の10000mが終わって、30km走もやって、前日に1000mはやりましたが、調整らしい調整はしないで臨みました。2000m通過も3000m通過も自己新相当のタイム。あんなに速いレースはしたことがありません。その中で自己新を出しましたから、力はついています」

 30km走を年間を通じて行うのは天満屋の特徴だが、ホクレンDistance Challengeという全国大会を短期間で転戦する中でも行っていたのには少し驚かされた。網走大会男子10000mで「マラソンにそのまま生かせる動き」で27分台を出した服部勇馬(トヨタ自動車)と同じように、前田もマラソンにつながる走りで自己新を3試合続けた。
「ピッチが速くなり、腰の上下動もなく安定しています。その中で脚の返しが速くなり、理想的なフォームになってきました」

 練習ではこれまで、他の選手と一緒に走ることが多かった。だが2月の青梅30kmで優勝した後は、さらにペースを上げる練習を行うため1人で走ることも多くなっている。

 30km変化走(5km毎などでペースを変えて行う負荷の高いメニュー)はマラソン練習でよく行うメニューだが、それを3000mで行った。短い距離でもスピードを高めたことが、千歳大会の速いタイムでの通過を可能にした。

 すでに昨年から、前田のことを「メダルを狙える選手」と期待してきた武冨監督。最近の練習状況やホクレンDistance Challengeの結果から、ペースメーカーがつかない国際大会でも、そのペース変化に対応できる手応えを感じている。

 2年前の夏に五輪代表を決めた前田が、1年前の夏も順調に走り続けている。

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写真提供:フォート・キシモト

●5区区間賞の三宅が前田に迫る選手に成長

 昨年のクイーンズ駅伝で天満屋は4位。スピード型選手が多く出場する3区で、スタミナ型の前田が区間3位で7人抜きを見せた。それに劣らない好走を見せたのが5区の三宅紗蘭で、10位から5人を抜いて5位に浮上。区間2位を12秒も引き離して区間賞も獲得した。

 取材前日の千歳大会5000mでも15分29秒18の自己新で、前田に2秒少し先着した。今年1月の全国都道府県対抗女子駅伝の9区(10km)でも1秒勝ったことがある。前田のことを「ロードはもちろん、トラックでも雲の上の存在」と尊敬の眼差しで見るが、トラックと駅伝の距離なら確実に迫っている。
「区間賞は自信になりましたし、上の方で勝負できる感覚をつかめたレースになりました。もっと上の舞台で勝負していきたいです」

 前田やMGC3位の小原怜(天満屋)、昨年の世界陸上代表だった谷本観月(天満屋)は米国合宿中でいなかったが、昨年末に行った練習中の30km走では「以前よりもペースを上げても、余裕を持って走れた」という。

 マラソンの日本代表も「目指せたら」と視野に入れている。当面の目標は、個人では12月の日本選手権10000mで「入賞争いに加わっていく」ことだ。

 武冨監督は現在のチーム状況を「例年より充実している」と言う。
「昨年のクイーンズ駅伝を走った小原、谷本、松下(菜摘)に加えて、今年入った選手も同じ練習ができるようになりました。前田、三宅の2人に引っ張られて良いリズムで走れています。両輪がしっかりしているので、他の選手は区間をイメージして練習しやすい」

 他チームに比べ高校・大学でトップクラスだった選手は少ないが、毎朝のジョグを集団で速いペースで行うなど、毎日の地道な練習でチーム全体の底上げを行っている。クイーンズ駅伝2度目の優勝は「厳しいですよ。強いチームに強い選手が入っていますから」と監督は控えめだが、昨年がそうだったように、駅伝が近くなると選手たちから「優勝」の声が上がってきそうだ。

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写真提供:フォート・キシモト

●選手との対話を強調する旭化成・西村新監督

 20人以上の五輪代表を輩出してきた名門・旭化成に、今年4月新監督が誕生した。西村功監督が最初に選手たちに話したのは、宮崎県青島での合宿中だった。
「(4連勝中の)ニューイヤー駅伝の連勝はもちろんだが、旭化成にとって駅伝は通過点だ。マラソン、個人でも結果を出すことが旭化成というチームには求められている」

 旭化成は昨年9月のMGC(代表2人が決まるマラソン五輪最重要選考レース)には1人も出場できず、ファイナルチャレンジでも上位に食い込めなかった。

 現在も市田孝・宏の双子兄弟や、ニューイヤー駅伝6区で区間賞の小野知大、5000m・10000mとも日本歴代2位記録を持つ鎧坂哲哉、そして大物新人の相澤晃(東洋大卒)らが故障中、または故障明けでレースに出られない状態だ。

 多難の船出になるが、このタイミングで監督が交代したことの意味は、選手たちは嫌でも理解することになる。新監督は派手な標語などは使わず、当たり前のことを厳(おごそ)かに口にした。選手たちは再度、やらなければいけないことを胸に刻み込んだだろう。

 ホクレンDistance Challengeでは村山紘太が、網走大会10000mで28分13秒84と好走。昨シーズン後半を故障で棒に振った10000m日本記録保持者が復調の兆しを見せた。「本人の気持ちもグッと上がっている」と西村監督も期待する状態になってきた。

 茂木圭次郞は5000mを連戦し士別大会8位(13分45秒48)、深川大会12位(13分37秒38)だった。西村監督は「記録を狙って良い大会なので、積極的に先頭集団についてほしかった」と注文もつけたが、「順調に練習は積んでいます。結果的に目標タイムはクリアしてくれた」と、一定の評価を与えている。

 日本代表を何人も輩出してきた旭化成において、西村監督はそこに名を連ねていない。ニューイヤー駅伝出場も1回だけだ(91年大会2区区間3位。チームは優勝)。「あとはほとんど補欠でした」と、現役時代は地味な役回りだった。

 その新監督が強調するのが「選手と話し合う」ことだ。
「少し結果が出ないからと修正ばかり繰り返すのでなく、一貫性をもってやっていくことも必要だと感じています。今はこういう練習もある、と選手たちも情報を持っていますが、旭化成にも十分なノウハウがあります。新しいものを取り入れるとき、どういう形で取り入れるのがいいか、しっかり話し合っていきたい。スタッフがいくらメニューを出しても、選手が理解してくれなかったら消化不良を起こすだけですから、話し合ってお互いが納得する形で進めたいですね」

 ニューイヤー駅伝の5連勝は、個人がそれぞれの目標に向けて頑張る過程で自ずと達成する。個人とチーム、新監督の指導方針が結果に現れてくるのはこれからだ。

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