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寺田的コラム

【全日本実業団陸上この種目に注目!⑥男子やり投】

2020.09.18 / TEXT by 寺田辰朗

ロンドン五輪代表のディーン元気がGGPで復活の84mスロー
男子やり投は80m台5人のハイレベルの争い

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写真提供:フォート・キシモト

 全日本実業団陸上が9月18~20日、埼玉県熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で開催される。
 男子やり投はディーン元気(ミズノ)の一投に注目が集まる。8月23日のゴールデングランプリ(以下GGP)で84m05と復活を遂げ、今大会でも大会記録(81m73)の更新を目標に掲げる。12年ロンドン五輪代表だったディーンも含め、昨年大会新で優勝した小南拓人(筑波銀行)ら、80m台の自己記録を持つ選手が5人出場する。大アーチの応酬が期待できる。

●6回の試技を有効に使って投げた84m

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写真提供:フォート・キシモト

 ディーン元気の復活劇はいきなりだった。
 GGPは5回目まで、1回目の79m88が最高記録。2番目の記録は5回目の75m44で、記録を伸ばす兆候はなかった。それが最終6回目にいきなり84m05と、自己記録の84m28に迫ってみせた。

 「1投目を気持ち良く入れて、冬にやって来たことが上手くできました。2投目以降は、スピードや力の入れ方を上げたらどうなるか、テンションを上げたらどうなるか、体の反応を見ながらコントロールして投げていました」
 技術的なポイントとした点を、どのくらいの助走スピードなら実行できるか。そのスピードの上げ方も、コメントにあるように力の入れ方やテンションの上げ方で、どう調整できるかを見ながら投げていたのだ。
 そして5回目は助走を少しゆっくり走り、クロスでスピードを上げていく。そのやり方で好感触をつかみ、6回目も同じリズムで行き、そこから思い切って投げることで8年ぶりの84m台を投げたのである。

 いきなりの復活劇だった印象は、シーズン毎のベスト記録からも受けた。ロンドン五輪で10位と健闘した12年に84m28、翌13年も80m15を投げた。だが14年以降は、16年だけ79m59を投げているが、それを除けば75m30から78m00の間で推移した。80mを一気に超える兆候はなかったのだ。

 だがその点においても、ディーンは周到にトレーニングを行ってきた。昨夏のフィンランドでの練習で手応えをつかみ、冬期は4カ月間、フィンランドチームと一緒にトレーニングを行った。
 それまでは、ケガを繰り返す中で、「べたべた走る慎重な助走」になってしまい、その助走からなかなか抜け出せなかった。フィンランドはプライオメトリクス(筋肉の伸張と収縮の切り替えをより早く行い、筋力をパワーに変えるためのトレーニング。ボックスジャンプなどが代表的なメニューになる)を、やり投に応用する研究が進んでいる。そのトレーニングに取り組むことで、助走接地時の反射速度の遅さを改善した。

 前述のように、GGPではまだ助走スピードを抑えている。助走速度をGGPよりも上げて、技術的なポイントを押さえられたら85m以上も実現できそうだ。そのスピードを与えられた試技の回数の中で模索する。熊谷でもGGPと同様、最終投てきまでディーンから目が離せない。

●小南は全日本実業団陸上で2年連続快投

 ディーンの独壇場となる可能性もあるが、大会記録(81m73)前後の優勝記録なら、他の80mスローワーたちにもチャンスはある。
 打倒ディーン候補の筆頭が2連勝中の小南拓人(筑波銀行)だろう。一昨年の全日本実業団陸上で自身初の80m台となる80m18を投げると、昨年7月の実業団・学生対抗で81m11、9月の全日本実業団陸上で大会新の81m73と記録を伸ばした。とにかく全日本実業団陸上では強いのである。

 実業団・学生対抗で2度目の80m台を投げたとき、小南は次のように話した。
 「最初の80m台は(やりが)なぜ飛んだのかわかりませんでしたが、今回はポイントを押さえて、その60~70%ができました。助走からクロスに入る局面で、腕だけでやりを引かないという部分です。急ぐと手だけで引いてしまうんですが、そこを今日はちょっと調整できました」
 今年も8月10日の北上フィールド競技会で優勝したときに、80m55と自身4回目の大台を投げている。技術的なところが安定してきているのではないか。

 81m73の日本歴代6位タイ、今季日本リスト2位の寒川建之介(奈良陸協)には勢いがある。ディーンと同様、今シーズン前の冬期はフィンランドでトレーニングを積んだ。7月の奈良県選手権の5投目で自身初の大台を投げると、8月のGGPでは78m55の自身セカンド記録で小南には勝っている。
 長谷川鉱平(福井県スポーツ協会)は16年に81m55の自己ベストを投げ、翌年も80m85と2年連続で大台をマーク。今季も北上2位のときに78m12を投げた。
 崎山雄太(愛媛陸協)は昨年10月の国体に、80m14の自己新で優勝した。ディーン、小南、寒川、長谷川の全員に勝っている選手だ。
 GGP5位の小椋健司(栃木県スポーツ協会)は昨年79m36、石山歩(ティラド)も一昨年79m44と大台に迫っている。
 
 コンディションに恵まれれば、3~4人が80m以上を投げ合う空中戦が期待できそうだ。

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