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寺田的コラム

ホクレンDistance Challenge

2020.07.27 / TEXT by 寺田辰朗

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写真提供:フォート・キシモト

関西の大学出身選手主体の大阪ガスに青学大出身ルーキー
ニューイヤー駅伝でも躍進したチームが5000m2つの組でトップに

 7月4日に行われたホクレンDistance Challenge士別大会。東京五輪マラソン代表の前田穂南(天満屋)の5000m自己新や、田中希実(豊田自動織機TC)の1500m日本歴代2位など、女子の話題が大きく取り上げられた。

しかし男子でも、選手個々に見れば自己新など奮闘した選手が多かった。男子5000mでは独自のチームカラーを持つ大阪ガスが、2つの組でトップを占めて注目を集めた。

●6人が関西の大学出身者。ニューイヤー駅伝でも躍進した大阪ガス

 男子5000mでは大阪ガス勢の活躍が、女子の宮田梨奈(九電工)と同じようにちょっとしたサプライズだった。C組でルーキーの中村友哉(青学大卒)が13分45秒76で1位を占めると、B組でも野中優志が13分43秒92でトップを取った。中村は高校3年以来4年ぶりの13分台、野中は約15秒と大幅に自己記録を更新した。

 予兆はニューイヤー駅伝にあった。大阪ガスの長距離は2012年から強化に力を入れ始め、3シーズン目の15年ニューイヤー駅伝で復帰したが35位、16年大会39位と振るわず、17〜19年は関西予選を突破することすらできなかった。それが今年は15位と大健闘。外国人選手を起用しないチームでは最高順位だった。

 大阪ガスは外国人選手不在ということだけでなく、関東の大学出身選手も少ない。ニューイヤー駅伝の7人のメンバー中6人が、関西の大学出身選手だった。高校上位選手の大半が、箱根駅伝に出場できる関東の大学に進学する。大阪ガスのようなメンバー構成のチームは他にない。

 そうなった理由の1つはニューイヤー駅伝の成績が悪く、関東の学生を勧誘しても来てもらえないこと。もう1つは大阪ガスがセカンドキャリアを重視し、現役選手にも週に2回は9:00〜17:40のフルタイム勤務をさせていることも理由だった。関西出身で、将来的に地元で働き続けたい選手が入社していた。

 そのメンバーと環境でも、400 m五輪3大会出場の小坂田淳監督と渡邉コーチの指導で、徐々に結果が出始めた。「意識の高い選手が入ってきて練習にも高い意識で取り組み、それを見た先輩選手たちも負けないように頑張った。良い連鎖が起きている」(野中)ことでチーム力は上昇した。

●エースに成長した野中と高校時代の自己記録を更新した中村

 渡邉浩二コーチは「5区までに波に乗れたことと、スピード養成のための練習に重点的に取り組んだこと」を好成績の要因に挙げる。

 そのとき3区で区間11位、7人抜きを見せたのが野中だった。2月の全日本実業団ハーフマラソン(21.0975km)では1時間00分58秒と、3分近く自己記録を更新した。

「それ以前は練習は積めても結果に結びつけられなかった」と野中。「筋肉量が少なく、脚が攣りやすいタイプでした。全日本実業団ハーフが大きな自信になりました」

 野中は関学大出身。箱根駅伝に出場はしていなくても、実業団入り後に駅伝を利用しながらしっかり強化すれば、20kmも走れるようになることを実証した。

 一方、箱根駅伝優勝メンバーの中村は、大学3年時まで結果を残せず関東の実業団チームから勧誘されなかった。「結果が出始めたのは4年の夏以降ですが、大阪ガスはその前に声をかけてくれました。大阪は僕の地元ですし(大阪桐蔭高出身)、地元企業で競技を続けられるのはありがたかった」

 大学4年間5000mの自己記録を更新できなかったのは、箱根駅伝の20kmの距離で力を伸ばすことに主眼を置いたトレーニングをしてきたからだという。10000mでは28分31秒68と学生トップクラスの記録を出し、4年時の全日本大学駅伝は6区区間2位、箱根駅伝は7区区間4位と駅伝でもチームに貢献した。

「非公認で14分00秒で走っていたので、5000mでもベストを出せる感触はつかめていました。入社して短い距離のメニュー、(400 mのスプリットタイムが)68秒より速く走るメニューが多くなりました。スピード強化の結果です」

 士別のレース後に青学大の同期たちから言われた言葉は、「やっと正式に出たね」だった。

 有望新人の“関東からの加入”に野中は、「もちろん箱根駅伝優勝は素晴らしいことですが、僕はあまり関東にとらわれる気持ちはなくて、やるべきことをやったら同等に戦っていけると思っています。しかし中村は勝負強さがありますし、優勝チームの選手は勝ち癖を持っている。そういった部分は学んで取り入れたい」

 実業団の土俵に乗った以上、野中が言うように関西出身・関東出身と分けて論じるべきではないのかもしれない。だが今の大阪ガスには、東西が融合して大きなエネルギーが生まれそうな雰囲気がある。

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