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寺田的コラム

ゴールデングランプリ陸上&新国立競技場の主役たち⑩
髙山峻野&金井大旺

2020.08.21 / TEXT by 寺田辰朗

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写真提供:フォート・キシモト

男子110mハードルは髙山vs.金井の新旧日本記録保持者対決
史上初の複数13秒2台の争いも期待

 今、男子110mハードルが史上最高レベルで盛り上がっている。
8月23日に新国立競技場で開催されるセイコーゴールデングランプリ陸上2020東京(GGP)では、日本記録保持者の髙山峻野(ゼンリン)と前日本記録保持者の金井大旺(ミズノ)が対決する。
今季の2人の成績は、髙山が東京選手権で13秒54(-1.1)、金井が法大競技会で13秒34(+0.3)。金井が日本歴代2位を出して0.20秒リードしているが、風の影響を考えれば互角の結果と見ていい。後半に強い石川周平(富士通)も、2人の争いに加わる可能性を持つ。
日本記録の更新や、史上初の日本人2選手の13秒2台の争いが期待できる。

●世界陸上で髙山が出した“最速タイム”

 種目として過去最高レベルにある110 mハードルだが、個人で見ても髙山の活躍は110 mハードル史上最高といえるのではないか。

 6月2日の布勢スプリントで13秒36(+1.9)、同30日の日本選手権でも13秒36(-0.6)と日本タイを連発。日本選手権では2位の泉谷も13秒36の日本タイだった。7月27日の実業団・学生対抗でついに13秒30(+1.9)の日本新をマークすると、8月17日のAthlete Night Games in FUKUIで13秒25(+1.1)と日本人初の13秒2台に踏み込んだ。
9月1日の富士北麓ワールドトライアルでも13秒29(+1.4)と、13秒2台が“一発”でないことを実証してみせた。

 髙山は当時の取材で、以下の項目を新記録連発の要因として挙げている。
「走力アップとパワーアップが大きく出力が上がり、そこに(ハードル用の技術で)地面と噛み合ったのだと思います」
「今思えば、以前も良かったときは重心が高かったのですが、GGPの後から重心を1cmくらい高くするイメージを持つようにしました」
「腕をたたんで(開かずに)ハードルを跳ぶ。福井ではそれができて、踏切位置や接地位置も一直線上にできてロスなく走れました」

 そして9月の世界陸上ドーハ大会で海外日本人最高、五輪&世界陸上での日本人最高記録となる13秒32(+0.4)をマークして予選を突破。予選全体でも5番目というタイムで、準決勝突破が期待できた。

 準決勝では前半が素晴らしい走りだった。5台目の通過タイムは6秒60で、富士北麓の13秒29のときより0.10秒も速かった。髙山の走った準決勝3組は風が+0.6で、たまたま決勝も同じ+0.6だったが、決勝の8人と比べても2番目に速い通過タイムである。

 しかし6台目でリード脚(右脚)の太ももが、ハードルに「乗り上げた」(髙山)状態になって大きく減速。13秒58で決勝進出という大魚を逃した。
「3台目までは力を全く使わず行けて、そこで体感したことのないようなスピードが出て、その後(徐々に)さばききれなくなりました」

 日本陸連が測定したデータでは、2〜3台のハードル間タイムは1秒00。髙山にとって自身最速だったが、おそらく日本のハードル選手としても最速のタイムが出ていた。

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写真提供:フォート・キシモト

●スプリント、ハードル技術とも手応え十分の金井

 その髙山に対抗できる力を、今季の金井はつけている。
8月2日の法大競技会で13秒34(+0.3)の日本歴代2位を出した。フィニッシュでは「13秒4台が出たかな」と感じたが、予想以上の正式タイムだった。同じ日に100mでも10秒41(-0.6)と、大幅な自己新で走っている。

 110mハードルの自己新は、レース展開的に言えば「5台目までが上手く行った」ことが要因だった。
6台目以降は徐々に踏切位置が近くなり、「9、10台目で失速した」が、ビデオから算出したハードル間のタイムでは「7〜8台目までは1.03〜1.04秒が安定して出ていた」と言う。

 金井は冬期の間に、「意識しなくても踏み切り位置が遠くなる」ことに取り組んだ成果が出ているという。
「12.5〜12.8mのインターバルを5歩のピッチを刻むメニューを行うことで、強制的に踏み切り位置を遠くしました」

 それがタイムに直結しているが、スプリント力が上がっていることも背景として大きい。肩甲骨を上手く使うことで上半身と下半身の連動性を高め、「質の高い練習をしても太ももや下半身への負荷が小さくなった」という。

 GGPの目標として具体的なタイムではなく、「思い通りの技術で10台を走り抜ける」ことを挙げる。
「まだ1試合だけなので言い切っていいのかわかりませんが、前半はスピードが出ていると思います。昨年はブレーキ動作を含んだような踏み切りになって、失速率が大きくなっていましたが、今年はブレーキ動作を抑えられる動きになっているので、後半も大きく落ちないはずです。言語化するのが難しいのですが、骨盤から踏み切るというか、骨盤を前傾させて、ハードルをスルッと抜けていく感覚で10台を走り抜けるのが理想です」

 法大競技会では5台目までその走りができていた。5台目以降もインターバルを上手くさばいて踏み切り位置が近くならなければ、13秒2台を実現させることができそうだ。

●東京選手権で見せた13秒2台への準備

 視聴者が映像から、数センチの踏み切り位置の狂いを判断するのは難しいが、窮屈そうな踏み切り方になっているか否かで、見分けがつくかもしれない。

 そこがわからなくても、髙山と金井の火の出るような競り合いを見るだけでも価値がある。金井が13秒36の日本新を出した18年の日本選手権は、1台目から2人がほぼ同時にハードルを越え続け、7台目は同タイムだった。

 昨年は髙山の力が明らかに勝っていたが、GGPでは8台目が同タイムの競り合いで、金井が0.04秒先着した。

 髙山は今年7月の東京選手権がシーズン初戦。
予選、準決勝はスタートを意識的に抑えてタイムは良くなかったが、「後半は上手くまとめられて、全体の流れはよくできた」という。
決勝は後半型の石川を前半で離そうと「力を使ってでも飛び出した」ことも影響して、中盤以降で体が開いてしまった。

 それでも13秒54(-1.1)と、向かい風を考えたら合格点のタイムを出した。1m以上の追い風なら13秒3台が出ていたかもしれない。
「条件が良くないなか、思った以上のタイムが出ました。そこはうれしかったです」

 100%の結果ではなかったが、「地面を踏んでしっかり力を伝えられた」と、技術的な感触も確かめた。

 GGPの目標については「しっかりと後ろの方を、ちょろちょろ走りたい」と冗談でごまかした。低い目標を口にすることで、自分にプレッシャーをかけないのが髙山のスタイルなのだ。

 金井は技術的な部分に集中するため、髙山は独自の考え方をするため、ともに目標タイムは設定していないが、2人とも13秒2台への準備はできていると見ていいだろう。

 ハードルがあることで1台毎に、レース状況が明確にわかる種目だ。8月23日、110mハードル史上最高の競り合いを新国立競技場で見ることができる。

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