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寺田的コラム

【全日本実業団陸上この種目に注目② 女子100mハードル】

2020.09.16 / TEXT by 寺田辰朗

女子100mハードルはダブル日本新も期待 追い風参考ながら
福井で青木12秒87、寺田12秒92と日本記録以上のタイム

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写真提供:フォート・キシモト

 全日本実業団陸上が9月18〜20日、埼玉県熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で開催される。女子100mハードルは日本新記録誕生が、時間の問題と言われるようになった。昨年12秒97と日本人で初めて13秒を破った寺田明日香(パソナグループ)と、8月のAthlete Night Games in FUKUI(以下福井)で追い風参考ながら12秒87を叩き出した青木益未(七十七銀行)。2人の対決からどんな大記録が誕生するだろうか。

●勢いに乗る青木

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写真提供:フォート・キシモト

 勢いの青木益未と高度安定の寺田明日香。今季の2人の特徴である。
 青木は8月23日のゴールデングランプリ(以下GGP)では13秒09(+0.3)の自己新を出したが、13秒03の寺田には差があった。7月の東京選手権でも鈴木美帆(長谷川体育施設)に敗れるなど、不安定さも感じられていた。

 だがGGP翌週の福井では、予選で13秒08(+1.7)と自己記録を0.01秒更新すると、決勝では寺田に先着して12秒87(+2.1)でフィニッシュした。昨年、日本人初の12秒台を達成した寺田の日本記録は12秒97だが、公認範囲の風速は+2.0mまでだ。
「2.1かあと思いましたが、ここはすごく風がいいので、そういうこともある。仕方ありません。自分がこのレベルで走れることの方がうれしかった」

 今季から男子110 mH日本記録保持者の髙山峻野(ゼンリン)と同じ、金子公宏コーチの指導を受け始めた。ハードリングも走り方も変え始め、東京選手権は新しい技術での初戦ということもあり、ハードルに脚をぶつけてしまったのだ。

 青木は高校1年時にインターハイ100mに優勝したスプリンターで、自己記録は大学2年時にマークした11秒68。日本のハードル選手の中では11秒63の寺田と双璧をなす。今季は100mの自己記録を出すくらいのスプリント力を感じているという。

 GGPでスプリント力とハードリングがかみ合い始めたが、それでも細かいところで狙った動きができなかった。福井の予選ではインターバルの走りが間延びしてしまい、踏み切り位置がハードルに近くなった。
「決勝前のアップは前に振り上げないで真下に降ろす動きを作って、(刻むことに対して)積極的に走れました」

 元々、女子短距離合宿などで各種測定を行うと、パワー系の種目では日本トップクラスの数値が出る選手だった。パワー、スピード、ハードリングが100mハードルに結びついてきた。
「今回の記録を自信にして次も、寺田さんと競った中で寺田さんの日本記録(12秒97)を更新し、12秒84の東京五輪標準記録も超えられたら」

 青木の勢いが熊谷でも続いていれば、かなりの確率で日本新が誕生しそうだ。

●12秒9台が安定し、次の段階を目指す寺田

福井では青木に敗れたが、寺田も決して悪くはない。GGPの13秒03は自身の日本記録に0.06秒差で、福井では予選12秒92(+2.3)、決勝12秒93(+2.1)。悪くないどころか、100mハードル史上最高レベルを維持している。

 今季の寺田は陸上競技に復帰した昨年から、さらに技術を改良している。より遠くから踏み切り、ハードルの真上を通過するときはもう、ジャンプの頂点から下降局面に入っていることを目指している。そのためにリード脚のヒザが曲がった状態で、ハードリングをするようになった。

「復帰した頃はヒザが伸びて、そのまま降ろしていました。海外のトップ選手の多くはひざが曲がっているんです。ヒザが伸びている動きは、ピヨーンと前に振り出しているところで一度、自分の感覚が切れてしまう。勢いでその動作になっているのであって、自分がコントロールしきれていません。それがロスにつながっています」
 福井の予選ではそこが不十分で、決勝で修正を試みたが「走り急いでしまって、予選よりも崩れて走っていた」と分析している。

だが今季は、その課題を残しながらも13秒0〜12秒9台を続けている。次のステージが確実に見えているようで「12秒8〜7台を安定して出すことを目標にできます」と、悔しさの中でも前を向いていた。

 ハードル種目は、ハードルを越えるタイミングの違いで、見ていて差がわかりやすい。だが福井の映像を見ると、2人はほとんど同時にハードルを越えている。動画をハードル毎に止めて確認してやっと、5台目くらいまで寺田がリードしていたこと、その後は10台目まで並んでいることがわかった。

 だが、肉眼で両者の差は判別できない。そのくらいの激戦が熊谷でも展開されるだろう。激闘が終わったとき、2人とも日本記録を更新している。その可能性もありそうだ。

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