寺田的コラム
【全日本実業団陸上@熊谷最終日②】
2020.09.23 / TEXT by 寺田辰朗
200m優勝の飯塚と、走高跳2m31の真野が日本選手権へ万全の体勢
5000m大会新の坂東は駅伝にも強い意欲

全日本実業団陸上最終日(第3日)は9月20日、埼玉県の熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で行われた。男子の大会新記録は4種目で誕生した。走高跳優勝の真野友博(九電工)が2m31、5000m4位(日本人1位)の坂東悠汰(富士通)が13分22秒60、110mハードル予選の金井大旺(ミズノ)が13秒38(+1.7)、3000m障害3位(日本人1位)の山口浩勢(愛三工業)が8分25秒34をマークした。また男子200m優勝の飯塚翔太(ミズノ)の20秒47(+1.2)、女子走高跳優勝の津田シェリアイ(築地銀だこ)の1m85など、今季日本最高も誕生した。
●飯塚が100mと200mの相乗効果に自信

飯塚翔太が200 mに20秒47(+1.2)の今季日本最高をマークし、2位に0.39秒もの差をつけた。
「20秒4〜5台が出ればと思っていました。走り(の流れ)はよかったのですが、前半のスピードをもう少し上げたいですね。今回のリズムと同じで60mまでをもう少し上げられれば、タイムにつながると思う」
今季は以下のように、200mと100mに交互に出場してきた。
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▼静岡県選手権(8月1・2日)
200m予選 20秒70(-0.5)
100m1位 10秒13(+2.0)
▼ゴールデングランプリ(8月23日)
200m1位 20秒74(+0.6)
▼富士北麓ワールドトライアル(9月6日)
100m1位 10秒25(-0.9)
▼全日本実業団陸上(9月20日)
200m1位 20秒47(+1.2)
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ゴールデングランプリの記録が今ひとつだったが、全体的に記録が低調だった大会だ(高い湿度や、慣れない全天候舗装の影響が指摘されている)。富士北麓ワールドトライアルの100mも、タイムは落ちたが風を考慮すれば静岡県選手権よりも高く評価できる。
飯塚は100mと200mの走り方の違いを、「100mはスタートから勢いよく飛び出して、加速段階で脚を(少しコンパクトに)しっかり回して、後半になったら動きを少し大きくしてゴールまで行きます。200mでは逆に前半は刻みすぎないように大きく走って、ゴールまで大きな動きで走りきります」と説明する。
もともと身長に対して、ストライドが小さいコンパクトな走りが飯塚の特徴だ。それもあって、特に200mでは大きな動きを意識して、ストライドを1cmでも大きくしようと取り組んでいる。
「100mのあとに200mに出ると、100mのように重心が低い走りで脚の力に頼ってしまうことが多いのですが、今日は重心を少し高めにして走りを少し大きくして、後半まで持ちました。日本選手権までは両方をイメージして練習して、変化を出せるようにして2種目に挑みます」
別のイメージではあるが、両種目を走ることの狙いは「両方のレース展開を混ぜたイメージで走れれば、お互いに伸びる」からだ。「その完成度が上がってきている」ことを全日本実業団陸上で感じられた。
2週間後の日本選手権に向け、飯塚の準備が万全に近づいている。
●真野は昨年からの新助走で日本歴代4位

男子走高跳の真野友博も日本選手権で、衛藤昂(味の素AGF)と戸邊直人(JAL)の2強に挑戦する準備が整った。
全日本実業団陸上は昨年、世界陸上代表だった2強は出場していなかったが、2m28の自己新で優勝した。今年は2m31の日本歴代4位タイと、さらに力をつけたことをアピール。屋外の自己記録では2m32の戸邊と2m30の衛藤の間に割って入った。2m30台の試合数ではまだ大きな差があるが、勢いでは2強を上回っている。
「昨年の日本選手権は記録なしに終わったので、そのリベンジを兼ねて、2m30以上を跳んで優勝したいです」
昨年から助走歩数を9歩から11歩に増やしたことで、高いスピードを安定して出せるようになったという。
「最初の3歩を補助助走的に入ってスピードに乗せ、次の3歩を最後の5歩に入りやすいようにバウンディング的に走ります。そして今日は、最後の5歩の駆け上がりが良かったです」
ただ、全日本実業団陸上では失敗試技も多く、2m31のクリアは13本目だった。適用期間外ではあるが、東京五輪標準記録の2m33への挑戦は、疲労のあるなかでの跳躍になってしまった。
「2m33は意外と高さを感じませんでした。疲労が出ないように合わせられれば跳んでいける」
昨秋以降の実績で真野もダークホースには挙げられていたが、14年以降の6シーズン、日本選手権の優勝者欄には衛藤と戸邊の名前しかない。真野が3人目の男になる可能性が、全日本実業団陸上で一気に上がった。
●アフリカ勢のハイペースに対応した坂東

男子5000mは坂東悠汰が13分22秒60の大会新で4位に食い込んだ。アフリカ勢の先頭集団でただ1人レースを進めたが、190cmの身長がより大きく感じられる走りだった。
「1周何秒のペースとか考えず、アフリカ勢にくらい付けるところまで付いて行こうと思って走りました」
1周目が60秒と速い入りだったが「どこかで落ち着くだろうから、冷静にリズムを合わせよう」と対応した。2800mまでは63〜64秒台のハイペースを維持したが、2800mでアフリカ勢5人に離されると67秒台にペースダウンした。
だが、そこで坂東は踏みとどまった。68秒、69秒とペースが落ちていくと思われたが、67秒台をキープした。ラスト1周は56秒7(筆者計測)までペースアップ。3000mでは6番手だったが、フィニッシュでは4位に順位を上げていた。
「3000〜4000mでタイムを落とした点は課題ですが、ラスト1周も切り換えられましたし、納得の自己新です」
自身の自己記録(13分26秒70)だけでなく、17年と19年の日本選手権優勝者である松枝博輝(富士通)が持つ13分24秒29の富士通チーム記録も更新した。
2月にドイツとニュージーランドに遠征。帰国後に故障をして2カ月弱、ジョグもできなかったという。本格的な練習再開は「夏前」だった。走れない間の地道なリハビリトレーニングで、故障前よりも強くなる内容を行ったのだろう。
それでも大会前、高橋健一監督は「13分50秒を切れれば」と話していた。そこまで高い設定タイムの練習はしていなかったということだろう。坂東の潜在能力の高さを改めて示した。
12月の日本選手権でも優勝候補の1人に挙げられるが、その前に、昨年17位でニューイヤー駅伝に進めなかった東日本実業団駅伝(11月3日)を走る。坂東は昨年4区区間2位と好走したが、チーム全体に甘さがあったという。「確実に通過ではなく、優勝する気持ちで走ります」
東日本実業団駅伝も今大会と同じ、熊谷市で開催される予定だ。二度の熊谷の走りで日本選手権に向けて弾みを付ける。
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