寺田的コラム
ホクレンDistance Challenge第3戦網走大会①
2020.07.16 / TEXT by 寺田辰朗
服部と一山、男女のマラソン東京五輪代表が10000mで狙い通りの自己新
「マラソンの着地点が高くなりそう」と河野ディレクター
ホクレンDistance Challenge網走大会が7月15日、北海道網走市の網走市営陸上競技場で行われた。
女子10000mでは一山麻緒(ワコール)が31分23秒30の2位、男子10000mでは服部勇馬(トヨタ自動車)が27分56秒32の4位。男女の五輪マラソン代表2人がともに自己新記録をマークして日本人トップを占めた。
女子5000mは田中希実(豊田自動織機TC)が15分02秒62で優勝。4位(日本人2位)の萩谷楓(エディオン)も15分05秒78と、適用期間外ではあるが東京五輪標準記録の15分10秒00を上回った。
田中は昨年すでに15分00秒01と標準記録を突破している。
また女子5000mと10000mで五輪標準記録を破っている新谷仁美(積水化学)は、この日は久しぶりに1500mに出場。4分20秒14の4位と15年ぶりに自己記録を更新した。

写真提供:フォート・キシモト
●マラソンのフォームで27分台の服部
服部勇馬(トヨタ自動車)がまた一段階、成長の跡を示した。
男子10000mA組で27分56秒32の4位。東洋大4年時の2015年にマークした28分09秒02の自己記録を5年ぶりに更新した。
「今日は27分台を出すことが1つの目標でした。そのタイムを出すことができ、満足しています」
元旦のニューイヤー駅伝で5区を走り、脚を痛めた。
網走大会は6区カ月半ぶりの実戦で、コロナ禍によりトラック練習も十分にできなかった。レース勘が懸念されたわけだが、まったくの稀有に終わった。
「不整地や土のトラックでの練習はスピードは出しにくいのですが、トラックと同じ設定タイムで行い、負荷をかけました」
五輪&世界陸上10000m入賞5回のB・カロキが、今季トヨタ自動車に加入。「一緒に練習して、スピードへの抵抗心をなくすようにしていた」という。
今回の10000m自己新が、マラソンにどう結びつくのか。
「今日の動き(フォーム)は、10000mに対応することだけを考えたものではありません。そのランニングフォームでマラソンを走ることを考えたものです。そのままマラソンに生かせる動きでした」
服部はコロナ禍で合宿などに行けない期間は、仕事のスキルを身につけるチャンスと考え、いつも以上に仕事にも打ち込んだ。
「早く走りたい、大会に出たい気持ちがわき出てきて、普通に大会に出ることがどれだけ幸せだったのか、改めて実感しました。試合が再開されたら失敗はしたくありませんでしたし、絶対に次につながるレースをしたいと思っていました」
服部は社会状況と自身の置かれた立場をしっかり認識でき、どう行動し、どんな発言をすべきか判断できる選手である。
東京五輪が1年延期されたことも、絶対に無駄にはしない。その点は100%信頼できる。

写真提供:フォート・キシモト
●一山の5000m通過タイムに深川大会との違いは
女子10000mで31分23秒30の自己新。一山麻緒(ワコール)の走りからも、その充実振りが伝わってきた。
7日前のホクレンDistance Challenge深川大会10000mでは、同じ東京五輪マラソン代表の前田穂南(天満屋)に7000m付近から引き離された。
31分34秒94の自己新で優勝した前田に対し、一山は32分03秒65の2位。「自己記録(31分34秒56=19年12月)のときよりしっかり練習ができていました。自己新では走りたかった」とレース後に首をひねった。
網走大会では優勝したM・ワンジル(スターツ。
昨年の世界陸上ドーハ大会10000m4位)に5000m手前から引き離されたが、5000mを15分30秒と、深川大会より19秒も速く通過した。主催者が公表したコメント映像では触れられていないが、深川大会は好調の前田に対し気持ちの面で引いた部分があったのかもしれない。
それに対して網走大会はより積極的に走ることを意識し、5000mを15分30秒(以内)で通過することにこだわったように見えた。
1000m毎のタイムは5000mまで3分6秒前後のハイペースで走り、6000mまでは3分13秒に落ちてしまったが、6000m以降は2秒ずつペースを上げ、最後の1000mは3分3秒とこの日の最速ラップを刻んだ。
後半で粘り、さらにはキレも増していった走りに、1週間前とは違う強さを感じられた。
「深川大会は悔しい走りになりました。今回こそ自己新を出すぞ、と走った大会で出すことができてうれしいです。深川では後半でペースダウンしてしまったので、今回は1人でも押して行くぞ、と1周1周を大切に走りました」
前田に続き一山と、マラソン五輪代表がスピード強化に成功している。
1年後の東京五輪も期待できるが、日本勢が苦手とされてきたスピード・マラソンへの挑戦も楽しみになってきた。
●コロナ禍をスピード強化の好機に
マラソン五輪代表勢の多くが「スピード強化」の目的でこの時期を過ごし、ホクレンDistance Challengeにもその確認の意味で出場している。士別大会女子5000mでは前田が15分35秒21と自己記録を約3秒、深川大会10000mでは約39秒更新した。そして網走大会では服部が約13秒、一山が約11秒、ともに10000mの自己記録を更新した。
マラソン五輪代表の自己記録更新率は50%。正確なデータがあるわけではないが、かなりの高確率だ。日本陸連の河野匡長距離マラソン強化プロジェクトディレクターは「そのままマラソンに生かせそうな感覚を持って、10000mの自己新を出している」と感じている。
服部が話したように、マラソン強化のためのトラックという大前提は、全員がもって取り組んでいる。
「マラソンのトレーニングの中でスピードが付いている。つまり持久的要素が、上手くスピードにも変換できていることを示しています。マラソンの着地点が高くなりそう」(河野ディレクター)
服部は昨年9月のMGC2位で五輪代表を決めたが、MGCで3位だった大迫傑(ナイキ)が今年3月の東京マラソンで、2時間05分29秒の日本新を出したことに大きな刺激を受けた。
以前の取材に「2時間7〜8分台でも優勝すれば良い、という考え方をしていましたが、大迫さんの走りを見て2時間5分台へ挑戦することへの意欲が大きくなった」と話していた。そのモチベーションがあったから、コロナ禍の状況でもスピード練習に積極的に取り組むことができたのだろう。
女子は日本記録の2時間19分12秒を野口みずきが出した2005年以来、日本選手の2時間20分未満は途絶えている。野口、渋井陽子、高橋尚子が2時間19分台を出したのはすべて海外の高速レースだが、コロナ禍によって海外マラソンに出場する機会はしばらくないかもしれない。
だが、それによってじっくりスピード練習に取り組める今が、2時間20分突破の力をつける好機になっている。網走大会は日本マラソン界のスピード強化が進んでいることを示す場となった。
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