寺田的コラム
【全日本実業団陸上@熊谷2日目①】
2020.09.20 / TEXT by 寺田辰朗
20km競歩世界陸上ドーハ金メダルの山西が、
鈴木雄介の5000m競歩日本記録を更新
レース後の一問一答に現れた山西の競技観

全日本実業団陸上第2日が9月19日、埼玉県の熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で行われた。雨に見舞われる悪コンディションとなったが、男子5000m競歩では20km競歩の東京五輪代表、山西利和(愛知製鋼)が18分34秒88の日本新で優勝。
鈴木雄介(富士通)が15年に出した18分37秒22を更新した。山西は昨年の世界陸上ドーハ大会20km競歩の金メダリストで、鈴木は20km競歩の世界記録保持者。鈴木は50km競歩の世界陸上金メダリストでもある。合宿で一緒にトレーニングをする先輩レースウォーカーの持つ記録を1つ更新した。レース後のオンライン会見での山西の受け答えを、テーマ毎に整理して紹介する。
●高橋とのマッチレースに

スタート直後に山西が飛び出し、最初は高橋英輝(富士通)、野田明宏(自衛隊体育学校)、丸尾知司(愛知製鋼)の3人が山西に食い下がって集団を形成した。しかし1200mから山西と高橋の2人のマッチレースになり、2400m付近で山西がリードを奪い始めた。
——今日のレースプランとして、どんな展開を考えていましたか。
山西 まず自分の良さをきっちり生かすため、速いペースで、1km3分40秒前後のタイムを目安にレースを進めました。そのなかで高橋さんや他の選手の方たちが、どう絡んでくるかで、スパートのタイミングを判断しようと思っていました。
——高橋選手を引き離してからも、何度か後ろを確認していましたが?
山西 高橋さんはラストのキレがあるので、射程圏内にいると油断できませんから、差を確認しながら歩きました。
——雨はどう影響しましたか。
山西 それほど大きく崩れなかったと思います。コンディションが悪くても、ある程度の結果にはまとめられるのが自分の良さです。雨で少し気温が下がったのはよかったかもしれません。
——1000m毎のスプリットが3分43秒、3分43秒、3分42秒、3分45秒で4000m通過が14分53秒でした。
山西 そのくらいのタイムは常に意識はしていたというか、頭の片隅にはありました。そこを見ながらラストをどのぐらいで行けば記録を出せるか、を見ていました。ラスト1000mに入ってペースが(1周1分29秒台から1分31秒台に)落ちてしまった。そこは今後の課題だと思います。
●尊敬する鈴木雄介の日本記録を更新

男子競歩の五輪種目は20km競歩と50km競歩で、5000m競歩は国内でも行われる機会は多くない。それでも日本記録の18分37秒22は、鈴木雄介が20km競歩の世界記録(1時間16分36秒)を出した15年に出したもの。鈴木の18分37秒22は世界歴代では13位だが、歴代4位は18分27秒34で大きな差はない。つまり、鈴木のタイムを更新すれば世界トップレベルということになる。
——山西選手にとって初めての日本記録として、鈴木選手の記録を破った感想は。
山西 1つ破ることができたということで、自信にはなりました。本当に多くの方たちに支えられて出すことができたのだと思います。雄介さんとも練習をたくさん、一緒にやらせていただいたおかげで出せた記録です。その一方で3秒しか更新できなかった。今の競歩界のレベルなら、いつでも誰でも越せてしまうような記録です。次はもうちょっと出せるように頑張ります。
——フィニッシュでは昨年の世界陸上(20km競歩金メダル)と同じように、ほとんど喜びを見せていませんでした。
山西 18分30秒くらいなら今の地力があれば、コンディションさえ整えられたらおそらく出る。それは練習段階でわかっていました。想定の範囲内で、その記録が出たことに対して喜びはありません。17分台や世界記録(18分05秒49)を出せたら嬉しかったと思いますが、極端に良かったということはありません。
——世界陸上ドーハから1年が経ちましたが、自身の技術的な進化をどこに感じていますか。
山西 東京五輪が延期になって、3~6月はコンディションを整えるところに時間を費やして、技術的に大きく進歩したところはありません。19年が好調のシーズンでしたが、そのオーバーホールやメンテナンスに時間がかかりました。そのなかでも基本的な体の動かし方、機能的な部分を洗い出す時間をとることができたので、今後、技術に生かせてくるでしょう。
——今の強化が20km競歩のどういう局面に結びつきますか?
山西 20km競歩のペースで楽に歩くことをトレーニングでやってきた結果、今回の5000mでもペースの余裕を出せました。5000mのための練習でなく、20kmのアプローチで結果的に余力が出ています。その練習過程でこのタイムを出せたことは一定の手応えがあったといえます。今の取り組みの方向性が正しいとわかったので、さらに一歩、二歩とベースアップするためにどんな取り組みをしていったらいいか、考えて行きます。
●東京五輪のその先まで
昨年の世界陸上ドーハの金メダルで東京五輪代表が内定していた山西だが、東京五輪の来年への延期が3月に決まった。五輪でも金メダル候補に挙げられていただけに、肩すかしを食らった形になったと思われた。
——他の競技のメダル候補には、心の整理に時間がかかった選手もいました。
山西 僕はそれほど大きなものはなかったのかな、と感じています。1年延期であって、五輪がなくなったわけではありません。年齢的にもその1年が致命的になる年齢でもありません。
——他競技では東京五輪の中止も前提に、その先も見据えてやっていこうとする選手もいます。
山西 東京五輪に対するアプローチとして、そこだけを見ていたら東京は勝てません。東京五輪の先の世界陸上や、パリ五輪くらいまで勝ち続けるくらいの強化方針を立てていくことが、東京で勝つための近道です。コロナや延期という話になる以前から、そのスパンで考えていました。
——20km競歩はどの程度のタイムまでイメージできていますか。
山西 (鈴木さんの)世界記録は十分、射程圏に入るかな、と思っています。1時間15分秒がイメージできるような、できないようなところです。今、自分のコンディションや天候次第で最大限に想定できるタイムです。そこから先が勝負になってきます。今の取り組み肝になっていくと思います。
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