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寺田的コラム

ホクレンDistance Challenge第3戦網走大会展望

2020.07.14 / TEXT by 寺田辰朗

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写真提供:フォート・キシモト

3000m日本新の田中が5000mでも“記録”に挑戦
女子10000mには五輪マラソン代表最後の1枠を争った一山と松田が対決

 ホクレンDistance Challenge網走大会が7月15日、北海道網走市の網走市営陸上競技場で行われる。今大会には観客200人も入場できることになった。女子5000mには田中希実(豊田自動織機TC)が出場する。
士別大会1500mで日本歴代2位、深川大会3000mで日本新をマークし、網走大会では日本人2人目となる14分台、展開次第では日本記録(14分53秒22)にチャレンジする。
女子10000mでは一山麻緒(ワコール)と松田瑞生(ダイハツ)がエントリーした。東京五輪マラソン代表最後の1枠を争った2人が、トラックに舞台を移して対決する。

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写真提供:フォート・キシモト

●3種目連続自己新で勢いをつけて挑む5000m
 今、最も記録的な期待が高い選手が20歳の田中希実(豊田自動織機TC)だろう。昨年の世界陸上ドーハ大会は5000mで14位。大舞台で15分00秒01の日本歴代2位をマークした。
 幅広い種目を走ることが田中の特徴で、今月4日の士別大会は1500mで4分08秒68の日本歴代2位、8日の深川大会は8分41秒35の日本新とホクレンDistance Challengeで快記録を連発してきた。
12日の兵庫県選手権は専門外の800 mで2分04秒66の兵庫県新、日本歴代22位と勢いは止まらない。
 1500mのスピードが5000mに生きるし、5000mの持久力が1500mに生きる。そして「今は得意な距離」と田中自身が言う3000mで日本新を出したことで、網走大会の3000m通過タイムをある程度予測できる。
昨年のドーハでは8分59秒台の通過だったことを踏まえ、田中は日本新翌日の取材で次のように話していた。
「網走では8分55〜57秒くらいの通過かな、と思っています。昨年3000mは8分48秒38でしたが、周回を間違えて2周残っているのに、最後の1周だと思って走ってしまいました。それがなかったら8分43秒くらいまで出せていた感触があります。今回の8分41秒35で2秒前進しました」
 深川の3000mでは最初から最後まで先頭を走り、1000〜2000mは抑えるなど、自分の走りやすいペースに持ち込んだ。
網走でも持ち記録では田中が外国勢よりも10秒以上良い。1000m3分を切るペースで行くアフリカ勢が現れない限り、田中が網走でもトップを走り続けるだろう。
 田中を指導するのは、実業団で3000m障害を走っていた経験を持つ父親の健智氏だ。「欲張りすぎず、まずは自己新記録が最大目標です」と言う。
「その流れであわよくば日本記録も、という展開もあるかもしれませんが、意識しすぎたらブレーキがかかってしまいます。競技会が再開され、走れることの喜びを噛みしめながら走ってくれたらいい。種目を毎試合変えているので1回1回、フレッシュな気持ちで走れるでしょう」
 田中の言うように3000m通過が8分55〜57秒だった場合、14分53秒22の日本記録を出すには残り2000mを5分55〜58秒で走る必要がある。ドーハではそこを6分01秒かかっていた。
5分55〜58秒はスピードもスタミナも、つまりはスピード持久力が昨年以上に必要となるが、今の田中なら可能性はあるだろう。

●好調の佐藤に松田、一山を加えた三つ巴の争いか
 女子10000mには今年のマラソン2大会で上位に入った4選手が出場する。1月の大阪国際女子マラソン優勝の松田瑞生(ダイハツ)、3月の名古屋ウィメンズマラソン優勝の一山麻緒(ワコール)、2位の安藤友香(同)、5位(日本人3位)の佐藤早也伽(積水化学)が網走を走る。名古屋日本人4位の細田あい(ダイハツ)は欠場する。
 なかでも好調なのが佐藤で、士別大会3000mで9分05秒57、深川大会5000mで15分26秒66と自己新を連発している。
野口英盛監督は「網走の10000mで自己新(31分59秒64)を出すための3000mと5000mでした」と明かす。どちらのレースも後半、終盤で狙った通りにペースアップができている。
 注目は五輪マラソン代表最後の一枠を争った一山と松田の対決に集まるが、今季のレース実績では佐藤が一歩リードしている。
 松田は大阪国際女子マラソンに2時間21分47秒で優勝。MGCファイナルチャレンジ派遣設定記録の2時間22分22秒(自身が18年ベルリン・マラソンで出したタイム)を破り、3人目の代表争いから抜け出した。
 だが3月の名古屋で一山が2時間20分29秒で走り五輪代表に決定。松田は代表候補選手(代表3選手が出られなくなったときに交替する)に選ばれた。
名古屋直後は気持ちの整理がつかず、代表と代表候補選手の会見では涙を見せた。
 その後はトラックに目標を切り換えてきた。コロナ禍の影響で練習場所を高地から低地に変更したこともあり、例年より「スピード水準を上げて走れている」(山中美和子監督)という。かなり良い状態に仕上がっているようで、山中監督は自己記録の31分39秒41に近いタイムを出せると予測する。
 日本選手権10000mでも17年、18年と2連勝した選手。最後の競り合い(特にラスト100m)になれば強い。マラソンの代表候補だが、10000mでの五輪代表入りも狙って行く。網走大会の課題は「後半を1人でも(1周)75〜76秒で押して行くこと」(同監督)だが、勝負になったら負けられない。
 一山は深川大会10000mでは32分03秒65で、同じ五輪マラソン代表の前田穂南(天満屋)に30秒近い差をつけられた。
「自己記録(31分34秒56)のときより良い練習ができていたので、もう少しタイムを出したかった」と、自身の走りが納得できない様子だった。
 練習で追い込み過ぎた可能性もある。レースを1本走り、調子が上向く可能性はあるだろう。「今日できなかったことを次のレースでやれたら」と、網走に意欲を見せていた。
 この種目のターゲットタイムは31分55秒。A・ニャボケ(日立)がペースメーカーを務めるが、ケニア代表で30分35秒75の記録を持つM・ワンジル(スターツ)が先行する可能性もある。
日本選手はニャボケについて5000mを16分前後で通過するだろう。
 佐藤も松田も自身が後半でペースを上げていくことをテーマとしている。
一山も、トラックで五輪を狙うと深川大会後に明言した安藤も、それぞれの課題を持って網走大会に臨む。勝負優先の大会ではないが、それぞれの課題をクリアした結果、かなりの好勝負が展開される予感がする。

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写真提供:フォート・キシモト

●男子10000mで井上と服部が27分台に挑戦
 女子1500mには新谷仁美(積水化学)、卜部蘭(同)の2選手が出場する。
新谷は昨年の世界陸上10000m11位、今年に入ってハーフマラソンDefinition日本記録を更新した。
2月のニュージーランド遠征では5000mで15分07秒02の自己新も出した。卜部は昨年の日本選手権800 m・1500mの2冠ランナーで、今年2月のニュージーランドの1500mでは、田中希実に0.26秒競り勝った。
 だが2人が拠点とする東京では、緊急事態宣言中のトレーニングがほとんどできなかった。2人を指導するTWOLAPS TCの横田真人ヘッドコーチは次のように説明する。
「新谷は身体的な疲れもあったし、本人のモチベーションも上がらなかったので、一度リセットして秋以降に記録に挑戦していきます。卜部は練習こそ継続していましたが、昨年の日本選手権ほど状態は上がっていません。網走は2人とも4分15秒くらいで走れたら十分です」
 卜部の自己記録は4分14秒52なので、万全でなくても自己記録に迫る力は付いている、ということだろう。
新谷の1500mの自己記録は高校3年時の05年に走った4分22秒75。練習不足でも、15年ぶりの自己新は出ると思われる。
 男子10000mでは東京五輪マラソン代表の服部勇馬(トヨタ自動車)と、18年アジア大会マラソン金メダルの井上大仁(MHPS)に注目したい。
トヨタ自動車の佐藤敏信監督も、MHPSの黒木純監督も、現在のテーマは「スピード強化」で一致している。
「6月下旬から合宿の許可が会社から出て、(地元の)田原と菅平で練習ができました。
勇馬の10000m自己記録は入社してコンマ何秒まで迫りましたが、大学のときに出した28分09秒02なんです。最低でも自己記録を、できれば27分台を出しておきたい」(佐藤監督)
 井上はアジア大会後の18年11月に、10000mでも27分56秒27と自身初の27分台をマークした。
ニューイヤー駅伝4区でも2年連続区間賞と、スピードランナーといえるような走りを見せている。今年3月の東京マラソンでは、そのスピードを生かし30kmを1時間28分28秒という驚異的なハイペースで通過した。
「今年は10000mの日本記録も狙うつもりでいます」と黒木監督。だが、現時点ではそこまで状態が上がっていないため、28分切りを網走大会の目標としているが、当日の井上自身と気象コンディション次第では、27分40秒台も望めるかもしれない。
 2人の他では、深川大会5000mで13分37秒28の自己新を出した田澤廉(駒大2年)への期待値が上がっている。
深川大会後には10000mで東京五輪を目指すと明言した。28分13秒21の自己記録更新は当然として、27分台突入も期待できる。
 また、日本記録保持者の村山紘太(旭化成)もエントリーしている。昨年は故障で5月の日本選手権を最後に試合から遠ざかり、今年1月の全国都道府県対抗男子駅伝で復帰。士別大会5000mが久しぶりのトラックレースだった。
 士別では14分01秒83でB組10位。
網走の10000mA組に出場するのは、士別で刺激が入って状態が上がっているということだろう。再起を懸けたシーズンに注目したい。

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