寺田的コラム
ホクレンDistance Challenge第1戦士別大会展望
2020.07.04 / TEXT by 寺田辰朗
陸上競技も全国規模の大会が始動!
女子5000mに五輪マラソン代表の前田が出場
世界陸上ドーハ5000m代表だった田中が1500mで快走の予感
ホクレンDistance Challenge士別大会が7月4日、北海道士別市の士別市陸上競技場で行われる。
ホクレンDistance Challengeは男女トラックの中・長距離種目が中心に行われ、初夏の北海道内を転戦する。出場選手のレベル差は大きくナンバーワンを決めることよりも、涼しいコンディションを味方に記録を狙ったり、各選手がそれぞれの意味づけをして出場する大会だ。
今年のシリーズには東京五輪マラソン代表選手やトラックのトップ選手も多数出場する。
そして新型コロナ感染拡大防止による自粛期間が明け、初の全国規模の陸上競技界となる。

写真提供:フォート・キシモト
●スピード強化中の前田に積極レースの期待
女子5000mA組に東京五輪マラソン代表の前田穂南(天満屋)が出場する。武冨豊監督は電話取材に「練習は普通にできている。15分40秒台では行ければ」と、今の状態と記録的な予測を話してくれた。
前田は同じ東京五輪マラソン代表の鈴木亜由子(JP日本郵政グループ)や、リオ五輪マラソン代表だった福士加代子(ワコール)のようにトラックのスピードがあるわけではない。タイプとしてはスタミナ型で、自己記録は2年前に士別大会で出した15分38秒16だ。
武冨監督が15分40秒台と言ったのは、優勝記録が15分30秒台に入らない可能性を考慮しているからでもある。これは他の種目も同様だが、新型コロナ感染拡大防止策の自粛期間による練習不足を考慮して、ペースメーカーが付く種目であっても、あまり速い設定にはしていないからだ。
前田は3月24日に東京五輪の1年延期が決まると、9月のベルリン・マラソンに出場することを決めた。世界のトップクラスが集まり、前田自身も一昨年の2018年に出場している大会だ。
しかしベルリン・マラソンも中止になり、現時点ではマラソンへの出場は白紙状態。
当面はハーフマラソン、10000m、5000mの自己記録更新を目標にしていく。
「ホクレンを連戦するのはスピード強化が狙いです。
1人になっても前田は、積極的に前へ行く走りをすると思います」
9月にマラソンを走ってきた過去2年は(18年ベルリン、19年MGC)、7月のホクレンDistance Challengeは、本格的なマラソン練習に入る前のスピード強化だったが、今季は例年よりも長い期間を使って課題のスピード強化ができる。
武冨監督は「普通の練習を少し速い動き」で行っているという。
つまり自己新を出す力は付いているかもしれないのだ。
18年アジア大会10000m代表だった堀優花(パナソニック)も士別大会5000mにエントリーしている。
2月の全日本実業団ハーフマラソンを腰の痛みで途中棄権していて、この大会も「7割くらいの状態」(安養寺俊隆監督)だという。
3年連続クイーンズ駅伝区間賞の堀が万全なら独走に持ち込むことも可能だが、士別では前田が、ペースメーカーのW・ジェロティッチ(九電工)とともにレースを引っ張りそうだ。

写真提供:フォート・キシモト
●田中が1500mで4分10秒切りに挑戦
記録的なレベルも高くなりそうなのが女子1500mだ。昨年のドーハ世界陸上5000mで決勝に進み、15分00秒01(日本歴代2位)で14位と健闘した田中希実(豊田自動織機TC)が期待できる。
豊田自動織機の長谷川重夫監督は電話取材に、「本人は4分10秒を切りたい、と話しています」と話してくれた。
1500mの日本記録は長谷川監督の指導した小林祐梨子が、2006年に出した4分07秒86。
歴代2位は杉森美保の4分09秒30(05年)で、4分10秒を切った日本人は2人しかいない。田中の自己記録は4分11秒50だが、最近の練習で4分13秒台で2回走ったという。
3人目の大台突破は秒読み段階かもしれない。
4分07秒06の記録を持つH・エカラレ(豊田自動織機)は、「次の3000mへの刺激」(同監督)という位置づけで、4分12〜13秒のタイムを想定している。
おそらく4分10秒を狙えるペースで田中とエカラレが競り合い、最後に抜け出した方が4分10秒を切る、という展開になるのではないか。
田中と同様、5000mで東京五輪標準記録を破っている廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ)も、士別大会の1500mに出場する。
高橋昌彦監督によれば貧血の影響で、「少し苦しい。練習がそこまでできていない」という。昨年も7月の時期に貧血だった。
「ホクレンでは勝負よりも1500m、3000m、5000mと1戦1戦調子を上げて行くことが目的です。
夏はしっかり練習をこなせる状態に持っていくことを優先して、秋以降に調子を上げ、12月の日本選手権に合わせていきます」
ルーキーだった昨年も夏まではじっくり練習して、秋以降に記録を上げていった。
標準記録を破っているので、長期的に調子の波を上げられれば問題ない。そのスタートが士別大会という位置づけだ。

写真提供:フォート・キシモト
●男子3000mでは期待の遠藤が中心
男子3000mは遠藤日向(住友電工)が注目される。
2月に米国の室内で7分47秒99、7分49秒66と好タイムを連発した。
3000mの室内日本記録は大迫傑(ナイキ)が持つ7分45秒62。日本記録も大迫で7分40秒09だ。
遠藤は米国を拠点にトレーニングを続けている選手。新型コロナ感染拡大の影響で室内連戦後に帰国し、「公園などで人がいない時間に練習はしてきましたが、競技場が使えないので完璧ではない」と渡辺康幸監督は電話取材に話した。
当初の予定では5000mで東京五輪代表を狙い、6月開催予定だった日本選手権直前まで、米国でトレーニングを積む予定だった。
士別大会の3000mには、MGC4位でマラソンの東京五輪4人目の代表である大塚祥平(九電工)、元々スピードランナーだがMGC13位とマラソンでも健闘している河合代二(トーエネック)、大迫と同じP・ジュリアン氏の指導を受けることになった鬼塚翔太(横浜DeNA)、3000mSCの打越雄允(大塚製薬)と、色々な種目の選手が異なる目的をもって出場する。それがホクレンDistance Challengeの特徴でもある。
遠藤も「千歳の5000mに合わせている」(同監督)ため、3000mの日本記録までは難しいが、今回の日本選手の中では力が一枚上だろう。実業団チーム所属のケニア人選手も4人出場する。速いペースで進む外国人集団に遠藤が付くのか、日本人選手の集団から得意とするラストスパートで差をつけるのか。遠藤のレース展開に注目したい。
男子5000mは箱根駅伝3区で驚異的な区間新を出したY・ヴィンセント(東京国際大)がペースメーカーを務めるが、13分30秒を切るペースにはならないようだ。終盤まで集団が崩れない可能性もある。
日本人トップ候補は戸田雅稀(サンベルクス)だろう。
昨年の日本選手権1500m優勝者で、5000mは13分36秒42とそこまで速いタイムは持っていないが、ラストの強さはかなりのものがある。
対抗できるのは茂木圭次郎(旭化成)と田村友佑(黒崎播磨)の2人。
昨年の九州実業団駅伝1区では、2人でハイペースに持ち込んだ。
ラスト勝負なら戸田が有利になるが、速い展開、またはロングスパートなら九州コンビに勝機がある。
黒崎播磨の澁谷明憲監督は電話取材に「13分40秒を狙えるだけの練習はできている」と話し、田村に期待を寄せる。
コロナ渦による自粛期間に入って練習期間は十分取れると想定し、ロードを使った練習は5月までしっかりとできた。そして6月から競技場が使えるようになり、黒崎播磨の外国人選手と一緒に「これまであまりやって来なかった速い動きの練習」も行ってきた。
「初戦なので5000mの途中のきつさにどれだけ耐えられるか。練習でやってきたことを試合で出すことができたら…」
澁谷監督ははっきり言わなかったが、日本人トップも狙えるということだろう。
高校生の石田洸介(東農大二高)も好調が伝えられている。
先頭集団で実業団勢と肩を並べて走るだろう。
自己記録は13分51秒91。最後まで優勝争いに加われば、13分39秒87の高校記録更新も可能性がある。
男子1500mには、この種目のU20世界記録(3分28秒81)を持つR・ケモイ(小森コーポレーション)、自己ベストが3分32秒97のS・ジャスティス(Honda)が出場する。ケモイも日本国内のレースではそれほど速い展開にはしないので、3分35秒前後の優勝タイムが予想できる。
日本勢の期待は3分41秒65を持つ河村一輝(トーエネック)と、昨年の日本選手権4位で3分42秒15を持つ的野遼大(MHPS)。
的野は練習もしっかり積めてきているようで、「3分30秒台を出したい」と、堤忠之コーチを通じてコメントした。
新型コロナ感染拡大防止策の影響で、初戦から記録を期待するのは難しいかもしれない。
だが、それを嘆いても何も始まらない。
士別大会から始まる“ウィズコロナ”のシーズンで、長距離選手たちに何ができるのか。
温かい目と、少しの期待を持って見続けていきたい。
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