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寺田的コラム

ホクレンDistance Challenge第1戦士別大会②

2020.07.21 / TEXT by 寺田辰朗

駅伝女王の日本郵政は底上げが進んでいることをアピール
前田に先着した九電工・宮田とは?

 7月4日に行われたホクレンDistance Challenge第1戦の士別大会。東京五輪マラソン代表の前田穂南(天満屋)の5000m自己新や、田中希実(豊田自動織機TC)の1500m日本歴代2位などが大きく報道された(このFacebookでも紹介済み)。そんななか昨年のクイーンズ駅伝優勝チームのJP日本郵政グループは、3000mで3選手が自己新をマークした。東京五輪マラソン代表の鈴木亜由子ら主力がまだ調子を上げていないが、中間層の底上げが進んでいる。また5000mでは、前田と競り合い先着した宮田梨奈(九電工)が注目を集めた。

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写真提供:フォート・キシモト

●日本郵政は3選手が自己新

 昨年のクイーンズ駅伝優勝の日本郵政は、士別大会3000mに出場した3選手が自己新で走った。3位の大西ひかりが9分09秒30、5位の菅田雅香が9分15秒41、7位の宇都宮恵理が9分17秒25。大西は「自己新記録は狙っていなかったのでうれしいです」と話す一方、「最後に離されてしまったことは、悔しさが残りました」と課題を感じていた。

 日本郵政はエースの鈴木亜由子と鍋島莉奈の2人が士別大会には出場していなかった。東京五輪マラソン代表の鈴木は故障からの回復途上で、網走大会3000mに出場予定の鍋島も故障明けの状態だ。東京五輪5000mの標準記録を破っている廣中璃梨佳も、貧血のため士別大会1500mは4分22秒97の5位と振るわなかった。

 しかし鈴木、鍋島は例年、夏の国際大会でダメージが大きくても、クイーンズ駅伝本番には間に合わせる。そして鈴木が区間賞を取るほど絶好調でなくても、総合力で駅伝を戦い2度の優勝を果たしている。

 昨年は1区の廣中が区間賞でスタートすると、2区の菅田、3区の鈴木が連続区間2位で前半を独走。だが5区区間賞の実績を持つ鍋島が故障で欠場していた。高卒ルーキーの大西に5区は荷が重いと思われたが、大西が区間4位と予想以上の走りを見せたことで、日本郵政は後半も持ちこたえた。2位のダイハツに5秒差で2回目の優勝を飾った。
「昨年は夏の時点では、メンバーに入れればいいかな、と思っていました。5区と聞いたときにはビックリしましたが、与えられた区間で自分の走りをしないといけないのが駅伝です。心の準備はしてクイーンズ駅伝に臨みました」

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写真提供:フォート・キシモト

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写真提供:フォート・キシモト

●大西の自己新の裏に新たなトラック練習

 心の準備をしたつもりでも、緊張で走りが狂うケースは多い。その点大西は“やらないといけない”という気持ちが強すぎると、走りが固まることが多いとわかっていた。「チャレンジャーとしてのびのび走った」ことが区間4位の走りになった。ルーキーでもメンタル面のコントロールに成功したのである。

 日本郵政は今季の新人採用がなかったため「チーム内の役割は変わっていない」と話すが、「何区であっても心の準備、体の準備をしていく」という覚悟は昨年よりもできている。

 昨年のホクレンDistance Challengeは3000m2試合、5000m1試合に出場して、3000mは2レースとも9分30秒台だった。昨年11月以降に5000m15分35秒63、10000m32分35秒64と明らかに力がついた。
「以前はメニューをこなすことに必死でしたが、今は最初から突っ込むのか、イーブンで走りきることを意識するのか、最後を上げるのか、色々なパターンを試せるようになりました」

 トラックを使用した練習ができるようになってからは、高橋昌彦監督が距離とタイムの組み合わせで多くのスピード変化のパターンを試すようになった。高橋監督は「選手たちもその方が飽きないで、集中力を切らさずにできます。目的を理解してやれば効果が上がります」と狙いを説明する。

 今年はコロナの影響で目的別に合宿に行くことができず、チーム全体がまとまって練習した。例年は自己新まで状態が上がらないホクレンDistance Challengeで、自己記録更新選手が3名も出た。
「駅伝で良いときは秋から中堅選手たちの状態が上がって結果に現れますが、今年はそれが7月からできている。例年より良い流れになっています」(高橋監督)

 女王チームの底上げが進んでいることを、競技会本格再開早々にアピールした。

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写真提供:フォート・キシモト

●前田に競り勝ったノーマーク選手

 女子5000mA組では宮田梨奈(九電工)が、五輪マラソン代表の前田穂南(天満屋)に15分34秒22で競り勝った。前田がトラック型の選手ではないことに対し、宮田は高校では中距離選手だったスピードがある。最後の直線で宮田が競り勝ったこと自体は不思議ではないが、知名度に大きな差があったため、ちょっとしたサプライズになった。

 宮田は鹿児島女高から昨年入社。クイーンズ駅伝は6区区間12位と目立たなかったが、今年1月の北九州選抜女子駅伝1区では格上選手たちを抑えて区間賞を獲得していた。
「練習ができていて、3000mのタイムトライアルでは9分9秒で走っていました」と藤野圭太監督。「日本選手権の標準記録(15分36秒00)を切ってほしかったので、行けるところまで行くように言って送り出しました。(五輪代表に勝って)自信になったと思います」

 一昨年のクイーンズ駅伝ではエースの加藤岬が、アキレス腱の痛みで3区途中棄権。昨年も14位とシード権を取れなかった。加藤はマラソンの五輪代表へ挑戦の意思を最後まで見せていたが、断念せざるを得なかった。

 その加藤も昨年6月に復帰し、今年2月の全日本実業団ハーフマラソンでは1時間11分台まで戻ってきた。士別大会では16分18秒57の9位。「アキレス腱に不安はありますが、このまま距離を踏めていけばマラソンにもまた挑戦できる」と藤野監督。

 若手とベテランの足並みが揃えば九電工は、10月のプリンセス駅伝でも優勝争いに加わってくる。

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