寺田的コラム
【全日本実業団陸上この種目に注目④男女5000m競歩】
2020.09.17 / TEXT by 寺田辰朗
東京五輪代表や世界陸上メダリストが多数出場する男女5000m競歩
世界陸上金メダルの山西とスピードの高橋が日本記録に挑戦

写真提供:フォート・キシモト
全日本実業団陸上が9月18〜20日、埼玉県熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で開催される。東京五輪代表が多数出場するのが男女5000m競歩(19日)である。男子には20km競歩代表の山西利和(愛知製鋼)と高橋英輝(富士通)、50km競歩代表の鈴木雄介(富士通)の3人がエントリー。女子には20km競歩代表の岡田久美子(ビックカメラ)と藤井菜々子(エディオン)が出場する。高橋と山西は、鈴木の持つ18分37秒22の日本記録に挑戦するという。
●内田コーチが語る山西のレースプラン
コロナ禍の影響で海外遠征はもちろん、公道を使う競歩大会の多くも中止になった。多くの選手が半年ぶり以上の試合出場となる。昨年の世界陸上ドーハ20km競歩金メダリストの山西利和も、2月の日本選手権20km競歩以来のレースに臨む。
だが6月からは「チーム合宿にも何度か行かせてもらっています」と内田隆幸コーチは言う。内田コーチは20km競歩世界記録保持者の鈴木の高校時代や、リオ五輪50km競歩銅メダルの荒井広宙(富士通)の大学時代を指導した競歩界の名伯楽だ。高校、大学時代から山西にアドバイスをしていたが、愛知製鋼入社(2018年)を機に正式コーチとなった。
全日本実業団陸上の目標は「18分30秒」だと内田コーチ。日本記録は鈴木が持つ18分37秒22で、20km競歩の世界記録を出した15年シーズンに出したタイムだ。
しかし、5000m競歩の日本記録保持者になること自体が目的ではない。五輪種目の20km競歩にどう生かすか、を考えてのことだ。
「最後の5kmを18分台で歩いたら世界も着いてこられないだろうと、山西と強化方針を相談しています。全日本実業団陸上では残り2000mをバーンと上げていきたい。そこができれば日本記録は破れると思います」
内田コーチはラスト2000mを、7分00秒前後を想定している。3000m通過は11分35秒、400 m(トラック1周)毎は1分31〜33秒でレースを進めることになる。
「ただ、歩型が崩れたら何にもなりません」と内田コーチは強調する。競歩は警告を3人の審判(近年の国際大会は4人)から出されたら失格してしまう。警告を1〜2枚出されたら思い切り歩けなくなり、レース戦術にも大きく影響が出るのだ。
その歩型において現在、世界で一番警告を出されにくい選手と言われているのが鈴木である。
「どんなにスピードを上げても警告をとられないフォームで歩かないと意味がありません。鈴木と同レベルに、東京五輪までに世界一の歩型にならないとダメなんです」
この種目の難しさであり、面白い部分だろう。
●スピードの高橋が山西の対抗馬

写真提供:フォート・キシモト
日本記録保持者の鈴木は「慢性疲労」(本人)の状態が続き、エントリーはしているが出場の最終決断は直前になるという。50km競歩でリオ五輪銅メダル(五輪競歩日本人初メダル)、17年世界陸上銀メダルの荒井も、左足甲の炎症による準備不足で欠場する。
山西に対抗できるのは高橋英輝だろう。20km競歩のリオ&東京五輪代表で日本選手権は昨年まで5連勝し、スピード競歩の象徴的な選手だ。
一時は日本代表として「自分が結果を出さなければ」という力みが国際大会で見られたが、山西や昨年の世界陸上6位の池田向希(東洋大)が台頭し、肩の力が抜けてきた。右脚大腿骨を疲労骨折した影響で、姿勢に傾きが生じて歩型に若干の不安が生じていた時期もあったが、ここにきて修正できている。
富士通の今村文男コーチは「山西選手を目標にしながらレースを組み立て、18分30秒を出せれば」と、こちらも日本記録を想定している。ラストのスピードで日本選手権に勝ち続けた高橋。山西との勝負はヒートアップしそうだ。
山西と高橋以外では、50km競歩で3人目の東京五輪代表を目指す丸尾知司(愛知製鋼)と野田明宏(自衛隊体育学校)、20km競歩で代表経験豊富な藤澤勇(ALSOK)の好調ぶりが伝えられている。2強にどこまで食い下がれるか。
●岡田vs.藤井。女子も東京五輪代表同士の争い
女子5000m競歩も岡田久美子(ビックカメラ)と藤井菜々子(エディオン)、東京五輪代表同士の争いになる。
岡田は昨年5月にこの種目で20分42秒25を出したのを皮切りに、6月に20km競歩の1時間27分41秒、12月に10000m競歩の42分51秒82と日本新を連発した。その間、10月の世界陸上ドーハ20km競歩で6位に入賞。女子競歩五輪&世界陸上過去最高順位タイの成績を残し、東京五輪でメダルを狙えるところまでステップアップした。
自己新記録(=日本新記録)は当然狙ってくるだろう。イーブンペースで歩き通すなら、1周1分39秒が目安になる。山西のように最後の2000m、1000mでペースアップするなら、1〜2秒遅いペースでも問題ない。
藤井も昨年の世界陸上で7位に入賞したが、最後の1kmで岡田に引き離された。「世界大会に懸ける思いの強さを見せつけられました」と以前の取材に答えていた。
15年から日本のトップを歩き続け、年下の選手たちに親身にアドバイスをしてくれる岡田のことは、ずっと尊敬し続けて来た。だが「レースになればライバルです。遠慮しないで勝ちに行きます」と、同じ大会に出るときは気持ちを高めていく。対する岡田も、近年は藤井のことをライバルとして強く意識している。
熊谷女高出身の岡田にとって開催地の熊谷は地元であり、昨年この種目の日本新を出した場所でもある。全日本実業団陸上は、絶対に負けられない。
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