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寺田的コラム

【全日本実業団陸上この種目に注目③ 110mハードル】

2020.09.17 / TEXT by 寺田辰朗

男子110mハードルは金井vs.髙山の新旧日本記録保持者対決
史上初の13秒2台ワンツーの可能性も

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写真提供:フォート・キシモト

 全日本実業団陸上が9月18〜20日、埼玉県熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で開催される。男子110mハードル(20日)の日本のレベルは、過去最高の状態になっている。昨年、髙山峻野(ゼンリン)が13秒25(+1.1)まで日本記録を引き上げ、今年は8月23日のAthlete Night Games in FUKUI(福井)で金井大旺(ミズノ)が13秒27(+1.4)と0.02秒差に迫った。その2人が熊谷でも火の出るような戦いを演じそうだ。

●金井が技術的に手応え

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写真提供:フォート・キシモト

 今季の金井大旺は日本歴代2位を3回出している。8月2日の法大競技会で13秒34(+0.3)、同23日の福井予選で13秒33(+2.0)、そして決勝で13秒27(+1.4)。その間、ゴールデングランプリ(GGP)でも13秒45(-0.4)で優勝している。髙山にもGGP、福井の決勝と2連勝中で、全日本実業団陸上でもV候補筆頭だ。

 今季の好調は、課題解決に取り組んできた成果だった。上半身と下半身の連動が良くなり「質の高い練習をしてもハムストリングや下半身への負荷が小さくなった」こと、その結果として長期的に質の高い練習が継続できていること、ウエイトトレーニングの充実などが挙げられる。

 最終的にはハードル間の走りが良くなった。「挟み込みの動きができ、インターバルを自然に刻める」ようになっている。遠くから踏み切って、着地後はインターバルの走りに素早く移動できる。その結果余力が大きくなり、後半での逆転も可能になった。

 福井では「今日は少し足りなかったですけど、また次回、狙っていきたい」と、日本記録更新に意欲を見せていた。その舞台が熊谷となる可能性は十分ある。

●日本の110mハードル最高レベルに達した昨シーズンの髙山

 昨シーズンの髙山峻野は、日本の110mハードル史上最高といえる活躍だった。

 日本タイ記録を2回、日本新記録を2回マークし、日本人初の13秒2台突入を果たした。

 世界陸上ドーハ大会では、予選で13秒32(+0.4)の五輪&世界陸上日本人最高をマーク。準決勝では13秒58(+0.6)で落選したものの、中盤でハードルに接触するまでは、日本記録時を上回るハードル通過タイムで走っていた。予選の13秒32は予選全体で5番目のタイム。決勝進出が目の前にあった。

 だが今季の髙山は7月上旬に左肩を痛め、練習が十分にできていない。福井のレース後には「今年はケガを治して冬期練習に入っていきます。来季に向けてしっかりレースを積んでいきたい」と話した。今季の活躍はあきらめたようなコメントだが、髙山の場合、自身にプレッシャーをかけない意図もある。
「13秒6台」が目標だった福井では、13秒34(+1.4)と想定を大きく上回った。全日本実業団陸上で13秒2台を出しても、誰も驚かないだろう。

●現役復帰した13秒40の増野、
元日本記録保持者の恩師に並んだ13秒39の石川

 この種目の日本記録は、2004年アテネ五輪で谷川聡(現筑波大監督)が出した13秒39がずっと残っていた。

 その記録に肉薄したのが増野元太(メイスンワーク)だった。17年の日本選手権で13秒40(±0)をマークし、世界陸上ロンドンでは準決勝まで進んだ。故障が多くなり18年シーズン後に引退したが、今シーズンから現役復帰している。

 シーズンベストは福井で7位だったときの13秒62(+1.4)だが、翌週の富士北麓ワールドトライアルでは13秒69(+1.3)で優勝した。ブランクからの復帰は、同じ北海道出身の寺田明日香(パソナグループ)と同じ。ブランク前の記録を超えてくる可能性はある。

 谷川の日本記録を更新したのが金井だった。18年の日本選手権で13秒36(+0.7)と14年ぶりの日本新をマーク。そこから日本の110mハードルが大きく動き始めた。

 19年は髙山の大躍進があり、金井が「髙山さんにしっかり勝つことで世界が見えてくる」と話すほど、日本のハードラーを勇気づけた。

 今季はレース後半に強い石川周平(富士通)も、福井で13秒39(+1.4)の日本歴代4位タイと好走した。筑波大時代から指導を受けている谷川監督の記録に並んだのである。

 過去最高の盛り上がりを見せる男子110mハードルは、絶対に見逃せない。

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