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寺田的コラム

【クイーンズ駅伝2020展望コラム8回目】

2020.11.22 / TEXT by 寺田辰朗

距離が延びて注目の1区、前回区間賞の廣中が今年も区間賞候補筆頭
ダイハツ松田、ワコール安藤、エディオン萩谷、積水化学・佐藤らがどこまで
廣中に食い下がるか

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写真提供:フォート・キシモト

 前日(21日)の監督会議後にオーダー表(スタートリスト)が発表された。1区に
は前回区間賞の廣中璃梨佳(19・JP日本郵政グループ)を筆頭に、松田瑞生(25・ダイハツ)と安藤友香(26・ワコール)のマラソン2時間21分台コンビ、5000mで15分05秒78の日本歴代7位を持つ萩谷楓(20・エディオン)、プリンセス駅伝1区区間賞の佐藤早也伽(26・積水化学)、15年の世界陸上5000m代表だった鷲見梓沙(24・ユニバーサルエンターテインメント)、14年アジア大会10000m銅メダルの萩原歩美(28・豊田自動織機)と、3区に匹敵するエース級が揃った。
 宮城県開催になり10年目。年を追う毎に1区を重視するチームが増え始めていた。
上りがあり、タイム差がつきやすいからだが、今年は第1中継所の変更により1区が従来の7.0kmから7.6kmに変更され、重要度がより大きくなった。

●廣中の連続区間賞は前評判では確定的

  ほとんどの指導者が廣中の強さが1つ上だと認めている。昨年は上り坂が終わった5km手前でペースアップし、一昨年の3区区間賞選手の渡邊菜々美(21・パナソニック)に20秒差をつけた。今季の廣中は5000mで14分59秒37の日本歴代3位をマーク。駆け引きなどをいっさいしない選手なので、地力がアップした分、駅伝のタイムも上がる。
 日本郵政の高橋昌彦監督は「(ペースを上げるタイミングは)本人に任せています。でも練習を見たら、今の廣中には着かない方がいいと思いますよ」と、かなりの手応えを感じている。
 昨年は5km通過が15分33秒だった。今年もそのくらいのタイムなら、ぎりぎり何人かの選手がつくかもしれない。だが残りの距離が0.6km長くなった分、同じタイムでもリスクが大きくなる。15分33秒より少しでも速ければ、2~3kmの上りで廣中を追う選手はいなくなるのではないか。前日の各指導者たちの話を総合すると、その可能性が高い。
 優勝を争う積水化学の野口英盛監督は、「廣中さんが相当行くと思う」と予想している。
「廣中さんに誰かがつけば、他の選手も追うと思いますが、誰も行かなければ第2集団ができて、展開次第では1分差がついてしまうかもしれません。そこをどう対応すべきか。このあと1区の佐藤と話し合って戦略を決めます」
 3区の新谷仁美(32)でトップに立ちたい積水化学の佐藤が、1区でどんな走りをするか。廣中が区間2位や、優勝を争うチームに何秒差をつけるか。1区は優勝候補チーム間のタイム差に注目してテレビ観戦したい。

●松田を1区に起用してきたダイハツ

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写真提供:フォート・キシモト

前回2位のダイハツが、1区にエースの松田瑞生を起用してきた。昨年1区区間8位で走り、大学時代からこの区間を得意としてきた大森菜月(26)がケガで間に合わなかった。

 本来3区を走るべき選手、という自覚が松田はあるのだろう。前日会見では「1区はタフなコースで、走れる選手がいなかったことが(自身が起用された)一番の理由です。最初で最後の1区。タイムはわかりませんが、私がダイハツ・チームの流れを作ることだけを考えています」と元気よく話していた。
 松田も上りに関しては強く、1区のコースに適性はある。優勝した今年1月の大阪国際女子マラソンでは、30km過ぎの上りの部分でスパートして優勝した。大会後に「このコースは一番疲れているところで上りに入るのですが、しんどくなったときの上りは負けません」と勝敗を分けたポイントとして挙げていた。
 だがダイハツの山中美和子監督によれば、国内のメジャーマラソンのコース中にある上りより、クイーンズ駅伝1区の「2.5~3km過ぎにある上りは傾斜が急」だと言う。
「3km以降の上りはときどきあるくらいの上りで、平地と変わらないフォームで行けるのでダメージはないのですが、その手前の坂はフォームを変えないといけません。いかにゆとりをもって、ダメージなく走れるか、ですね」
 ダイハツは大森をケガで欠き、昨年6区区間賞の吉本ひかり(現コーチ)が引退した。1区の流れで3区まで上位をキープしたい。
 3区の細田あい(24)は前回、5位で区間2位だった選手。夏は松田と競り合う練習もできていたが、9月にケガをしてしまい、その後の練習は昨年よりも抑え気味の内容になったという。
 大会2週間ほど前の取材では「長い区間を任されたら最低限、次の人が走りやすい位置でタスキを渡す。そういう駅伝らしい走りをします」と抱負を語ってくれた。
 ダイハツは昨年、後半3区間の合計タイムは全チームで一番だった。今年は苦戦が予想されるが、4区の下田平渚(22)は期待できそうだ。昨年も11分18秒で区間7位、日本人では区間トップと好走して2人を抜き、5区の細田が走りやすい位置でタスキを渡した。
「初出場でしたが緊張より、やっと走れるわくわく感の方が大きかったです。設定より12秒良いタイムで走ることができましたが、ハイペースとは感じませんでした。練習は去年よりも確実にできています。今年は11分10秒が設定タイムです」
 169cmの大型ランナーが、今年もダイハツの流れを変える走りをしそうだ。
 5区の竹本香奈子(24)は「夏以降今までにないトレーニングの量をこなしてきましたし、練習でも最初に仕掛ける積極性がある」、6区の水口瞳(24)は「下りが得意でラストも伸びる」と山中美和子監督が期待する。
 松田が作る上位の流れと、後半選手の積極的な走りが噛み合えばダイハツは、来年以降の優勝を狙う地固めができる。

●スピードの萩谷、スピード持久力の安藤、経験の萩原らが“打倒・廣中”候補

 廣中が区間賞候補筆頭であることは間違いないが、勝負事である以上、絶対とは言い切れない。
 スピードではエディオンの萩谷が廣中に対抗できる一番手だ。沢柳厚志監督は「区間5位以内で、チームの8位以内につなげられたら、という目標です。萩谷は昨年まで1500mがメインでしたから」と控えめだ。だが今年7月に5000mを15分05秒78の日本歴代7位で走り、自己記録では廣中と6秒差しかないのである。
 懸念されるのは8月に右脚のふくらはぎに痛みが出て、9月の 全日本実業団陸上を欠場したこと。だが、それがなければプリンセス駅伝は10km区間への出場も考えていたという。5km以上の距離への適性がないわけではなさそうだ。数回の(週に2~3回行う負荷の大きい)ポイント練習をしただけで出場したプリンセス駅伝では、6区で区間賞と快走した。潜在能力が高い選手であることは確かである。
 スピード持久力があるのは安藤だ。マラソンの2時間21分36秒は日本歴代5位で、今年3月の名古屋ウィメンズで一山麻緒(23・ワコール)が2時間20分29秒を出すまで現役選手最高タイムだった。独特の高速ピッチ走法は、上りに力を発揮する可能性が十分ある。
 14年アジア大会10000m銅メダルの萩原を指導する豊田自動織機の長谷川重夫監督は、「経験が役立つ区間」と話す。
「距離が0.6km延びたことで、上って下ってまた上る部分が加わりました。前回までのコースのどこで一番苦しんだかをわかっている選手の方が、その経験をもとに新コースを攻略しやすいはずです」
 萩原なら廣中の背中が見える位置で、攻めの走りができると見ている。
 大会が近づくにつれてダークホースに挙げられるようになったデンソーは、1区に矢野栞理(25)と矢田みくに(21)の“2本の矢”のうち、矢野を起用してきた。松元利弘監督は「上りは2人とも強いのですが、スパートのキレが矢野の方があります。
距離が0.6km延びましたし、ラスト400~500mで4~5秒違ってくるのでは」と起用理由を説明する。
 天満屋は1区を三宅紗蘭(21)に託した。故障明けではあるが、前回の5区区間賞選手で、今季5000mで15分29秒18の自己新をマークした。武冨豊監督は「2分差でつないでくれたら」と、かなり低い目標を話している。不安の方が大きいが、良い方に転べば期待できるということだろう。天満屋の三宅1区は、優勝を狙った起用法と受け取るべきかもしれない。
 史上最高ともいえる豪華メンバーがそろった1区。それを評判通りに廣中が勝ちきれば、12月の日本選手権5000mでは日本記録(14分53秒22)の更新もできる。激戦になれば廣中以外にも、来年の東京五輪代表候補が誕生することになる。

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