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寺田的コラム

【全日本実業団陸上この種目に注目⑤ 
男子円盤投&日本記録保持者】

2020.09.18 / TEXT by 寺田辰朗

男子走高跳の戸邊、女子やり投の北口ら日本記録保持者が次々に登場
男子円盤投の堤は思い出の競技場で再び日本新を

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写真提供:フォート・キシモト

全日本実業団陸上が9月18〜20日、埼玉県熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で開催される。今年の特徴は日本記録保持者が多数登場すること。なかでも今季、日本記録を更新して好調なのは男子円盤投の堤雄司(ALSOK群馬)だ。熊谷は2017年に、38年ぶりの日本新を投げた場所でもある。思い出の競技場で再び日本記録を更新できるだろうか。男子走高跳2m35の戸邊直人(JAL)、女子やり投66m00の北口榛花(JAL)など、昨年世界レベルの日本新をマークした2人も注目される。

●堤が3年前の歴史的な記録に挑戦

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写真提供:フォート・キシモト

 堤雄司が思い出の場所に帰ってくる。
 17年の熊谷は関東選手権だった。トップ選手にとっては記録会的な位置づけの大会になるが、そのときは“特殊事情”的な部分があった。

 川崎清貴が1979年に投げた60m22が、五輪種目としては最古の日本記録としてずっと残っていた。堤は17年7月22日の国士大競技会で60m37を投げたが、競技場の設備が公認条件を満たしていなかったため、幻の日本記録となってしまった。
 だがそれから1カ月もしない8月22日に、熊谷で幻の日本記録も上回る60m54を投げ、正真正銘の日本記録を樹立した。その日は1投目に60m34が出て、2投目も60mを越えたが自身がサークルから出てしまってファウル。36人が出場していたため試技順が回ってくるまで長時間待たなければならないが、堤の集中力が切れることはなく、3投目に歴史的な記録を投げて見せた。

 集中力が切れなかったのは、幻の日本記録のこともあったが、試合へのスタンスを変えたこともプラスに働いた。それ以前の堤は日本選手権など大きい試合に強く、13年ユニバーシアードでも8位に入賞。当時の海外日本人最高の58m43も投げていた。
 それに対して小さな競技会では、「ここで記録を出してもな」という意識がどこかにあった。それを改め17年シーズンからは、どんな小さな競技会でも万全の準備と調整をして臨むようにした。
 18年は腰の痛みがあり、日本選手権では湯上剛輝(トヨタ自動車)に敗れ、その試合で日本記録も更新された。18年シーズン後に手術に踏み切り、昨年は日本選手権のタイトルを奪還。今年3月には62m59を投げ日本記録も奪い返した。

 今の堤は技術的にも、3年前よりも一段階成長している。以前は円盤を長く持ち続ける投げ方だったが、「円盤を離す位置を少し早めにしながら、体を右に預けながら円盤を流していく投げ方」に変えている。
 風や雨の影響が大きい種目だが、天候さえ良ければ3年前の歴史的な記録を越えてくるだろう。

●日本記録保持者とライバルたちの戦い

今大会には堤以外にも、日本記録保持者が多数エントリーした。
 男子では走高跳の戸邊直人、棒高跳の澤野大地(富士通)、走幅跳の城山正太郎(ゼンリン)、砲丸投の中村太地(ミズノ)。女子では100mの福島千里(セイコー)、棒高跳の我孫子智美(滋賀レイクスターズ)、やり投の北口榛花(JAL)らだ。

 <注目③>で紹介した男子110mハードルの髙山峻野(ゼンリン)と女子100mハードルの寺田明日香(パソナグループ)、<注目④>で紹介した男女5000m競歩の鈴木雄介(富士通)と岡田久美子(ビックカメラ)も日本記録を持つ。
 だが、日本記録保持者の圧勝が予想されている種目は少ない。<注目③>で紹介したように男女ハードルは金井大旺(ミズノ)と青木益未(七十七銀行)が、Athlete Night Games in FUKUIで日本記録保持者に先着した。髙山と寺田も2位で続いているので、今大会で雪辱したり、日本記録を出したりする可能性はある。この男女ハードルのように、“日本記録保持者vs.ライバル”の激戦が予想されている種目が多い。

 男子走高跳では日本記録(2m35)保持者の戸邊と、ゴールデングランプリ(以下GGP)に勝った衛藤昂(味の素AGF)の優勝争い。GGP2位の真野友博(九電工)も加わってくる可能性が高い。
 棒高跳は日本記録(5m83)保持者の澤野と、GGP優勝の山本聖途(トヨタ自動車)の対決。力をつけている澤慎吾(きらぼし銀行)も侮れない。

 走幅跳は日本記録(8m40)保持者の城山と、昨年の世界陸上代表だった津波響樹(大塚製薬)の対決になりそう。8mジャンパーの山川夏輝(東武トップツアーズ)と小田大樹(ヤマダ電機)も、そこに加わってくる力がありそうだ。

 砲丸投は日本記録(18m85)保持者の中村と、18m29の今季日本最高を投げている森下大地(ウィザス)の対決か。そして女子やり投は日本記録(66m00)保持者の北口と、昨年62m88を投げている佐藤友佳(ニコニコのり)の世界陸上代表同士の争い。
 北口は東京五輪の1年延期により、助走を大きく変える決断をした。トータル16歩は変わらないが、保持走を8歩から10歩に増やし、クロスは8歩から6歩に減らした。
「前向きに走るのと横向きに走るのでは、横向きで走る方が圧倒的にスピードは落ちます。保持走の歩数を増やして、助走をスピードアップしたい」

 GGPは59m38で優勝したが、まだまだ完成の域には遠い段階だろう。GGPでも佐藤とは1m43、宮下梨沙(モンベルランエンタープライズ)とも1m87の差だった。ライバルたちにとって全日本実業団陸上は、北口に勝っておきたい大会だ。

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