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寺田的コラム

【日本選手権展望1日目(10月1日)】

2020.09.30 / TEXT by 寺田辰朗

女子やり投の北口が見せる世界レベルのアーチ
男子やり投は新井vs.ディーンの“ファイナリスト”対決

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写真提供:フォート・キシモト

 今年の陸上競技日本一を決める日本選手権が10月1〜3日、新潟市のデンカビッグスワンスタジアムで開催される(長距離種目は12月4日大阪開催。混成競技は実施済み)。コロナ禍による社会状況への配慮で、今年11月中までの競技結果は五輪選考に関係しない。だが試合数が制限された今季、選手の体調もモチベーションも上がっている。記録的な期待が高い選手や、激戦が予想される種目を日毎に紹介していく。

●北口の新助走が予想以上の完成度

 女子やり投日本記録(66m00)保持者の北口榛花(JAL)の新助走が、思った以上のスピードで進化している。

 8月23日のゴールデングランプリ(以下GGP)の優勝記録は59m38だったが、9月19日の全日本実業団陸上は63m45まで記録を伸ばした。今季世界10位と国際レベルの記録である。

 昨年までの助走も今年の新助走も、トータルの歩数は16歩で変わらないが、局面毎の歩数を変更した。保持走(やりを肩の上で持って通常の走りに近い走り方)を8歩から10歩に増やし、クロス(投げの動きを行いやすいように、直前数歩を脚をクロスさせる走り方)は8歩から6歩に減らした。
「前向きに走るのと横向きに走るのでは、横向きで走る方が圧倒的にスピードは落ちます。保持走の歩数を増やして、助走をスピードアップしたい」

 実際、北口の助走スピードは明らかに速くなった。

 しかしクロスの時間が短くなることで、投げの局面への準備をする動きが大きく違ってくる。もともと器用ではない北口にとって、その変更は大変なことだった。練習でもぎこちない動作でやりは飛ばない。前の助走に戻したらどうか、というアドバイスも受けた。

 だが、東京五輪が1年延期されたことを利用して、大きな改良に踏み切る北口の決意は揺らがなかった。

 全日本実業団陸上までの4週間で、どう変わったのか。
「GGPでは助走を頭で考えないといけない状態でしたが、そこからは脱して、最近の練習では意識しないでも速く走れるようになってきました。GGPの反省で、やりを引いた状態にセットする過程を意識して修正していきました」

 北口にとっては日大4年時だった昨年投げた66m00、64m36、63m68に続いて自己4番目の記録。新しい助走で投げた自己最高記録である。
「1試合目のときよりも、確実に成長した自分を出せたと思っています。今回は5回目に足りないところを気づきましたが、日本選手権では最初からそれをできるようにしたいです」

 新助走が完成するにはもう少し時間がかかるだろう。だが日本選手権の1回目から63m台が出せたら、65m以上も期待できる。

●ディーンの8年ぶり優勝か、新井の7連覇か

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写真提供:フォート・キシモト

 男子やり投はディーン元気(ミズノ)と新井涼平(スズキAC)の、今季29歳になる2人が激突する。

 ディーンは早大3年時の12年に日本選手権に優勝し、その年のロンドン五輪では決勝(ファイナル)に進んで9位と入賞に迫った(当時は10位だったが2位だった選手が失格)。その後は故障が多くなり、その影響で助走技術に狂いが生じてしまった。日本選手権優勝からも、国際大会代表からも遠ざかっている。

 そのディーンが今年のGGPで復活した。6投目に84m05(今季世界13位)を投げ、12年に出した84m28に迫ったのだ。フィンランドで行ったトレーニングで、助走の接地時の脚の反射速度を速くすることに成功し、助走の躍動感が戻った(復活のプロセスは8月25日に掲載した記事で詳しく触れたので参照してほしい)。

 一方の新井は、国士大時代は78m21が自己記録だったが、卒業後1年目の14年に86m83の日本歴代2位と一気に記録を伸ばした。翌15年の世界陸上北京大会9位、16年リオ五輪11位と連続してファイナルに進出した。日本選手権も14年から昨年まで6連覇している。

 しかしリオ五輪後に捻りを強調した新しい技術に取り組んだことで、首を痛めてしまう。腕などに痺れも出て、14年から3年続けた84m以上を17年以降は出せていない。日本選手権の優勝記録もここ2年は80mに届かないでいる。

 故障の影響で動きが狂ってしまったのはディーンと同様だが、それでもシーズンベストが80m83だった18年を底に、記録は上向いている。

 ディーンが80m台を投げていた12〜13年は新井がまだ70m台で、新井が80m台を投げ続けた14〜19年はディーンが70m台だった。今年のGGPは前述のようにディーンが84m05で優勝したが、新井も81m02で初めて2人が同一の試合で80m以上を投げ合った。

 GGP後のディーンは記録だけでなく、勝負についても感想を話した。「5回目に新井君が81mで被せてきた(逆転された)。新井君のおかげで6回目に84mを投げられました。勝負って、やはり楽しいですね」

 2人に期待されているのは、GGP以上のハイレベルの空中戦だ。

●予選から目が離せない男子100m

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写真提供:フォート・キシモト

 大会初日のトラックでは、予選・準決勝が行われる男子100mが最大の注目種目だ。

 今季の実績から桐生祥秀(日本生命)とケンブリッジ飛鳥(Nike)が優勝候補の双璧と見られている。桐生はGGPに優勝し、10秒04(+1.4)を筆頭に今季10秒0台を4レースで出している。ケンブリッジはGGPでは0.02秒差で桐生に敗れたが、8月29日のAthlete Night Games in FUKUIでは10秒03(+1.0)で雪辱。桐生に0.03秒差をつけた。

 昨年9秒98の小池祐貴(住友電工)は試合勘が戻っていないのか、今季は10秒19(+1.0)にとどまっている。ラウンドが多い日本選手権は、レース勘を取り戻す確率が高くなる。

 日本インカレ優勝の水久保漱至(城西大4年)は200mに絞る予定だが、200m優勝候補の飯塚翔太(ミズノ)は相乗効果を狙って100mにも出場する。17年世界陸上準決勝進出の多田修平(住友電工)や、昨年の世界陸上4×100 mR銅メダルの2走を務めた白石黄良々(セレスポ)らも、10秒0台を期待できる。

 2強の今季の走りを見ると、準決勝で9秒台が出ても不思議ではない。その2強に誰が、予選と準決勝で迫ることができるか。決勝は2強だけに注目すればいいのか、2人に割って入る選手が現れるのか。予選、準決勝をしっかりと見ると予想できる。

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