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寺田的コラム

ホクレンDistance Challenge第4戦千歳大会③

2020.07.21 / TEXT by 寺田辰朗

女子5000mはマラソン東京五輪代表の一山が大幅自己新で1位
前田は自己新も10位。マラソン代表2人の直接対決は1勝1敗に

 昨年9月のMGC優勝で東京五輪女子マラソン代表を決めた前田穂南(天満屋)と、MGCは6位と敗れたが今年3月の名古屋ウィメンズマラソンに優勝して代表を決めた一山麻緒(ワコール)。2人が7月のホクレンDistance Challengeでそれぞれ3試合に出場した。戦績は以下の通りである。

              前田           一山
士別大会(4日) 5000m  2位(15分35秒21)
深川大会(8日)10000m 1位(31分34秒94)  2位(32分03秒65)
網走大会(15日)10000m             2位(31分23秒30)
千歳大会(18日) 5000m 10位(15分31秒51)   1位(15分06秒66)

 前田は3試合とも自己新をマークしたが、深川大会で圧勝した一山に千歳大会では大差で完敗した。一方の一山は深川大会で32分かかったが網走大会で自己新と好走し、千歳大会では前田に雪辱した。

 マラソン代表2人がスピード強化という同じ目的でトラックレースに出場したが、成績には“個別性”が現れた。

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写真提供:フォート・キシモト

●対照的な表情だった2人

 千歳大会5000mで一山は15分06秒66と、自己記録を約17秒も更新した。「今日は鹿児島県の高校生(C・バイレ=神村学園高)が引っ張ってくれて、走りやすかった。15分20秒を切れたらいいな、と思っていたので、思っていた以上の走りができました。自己新を出せてとてもうれしい」と喜んだ。

 深川大会で敗れた前田を、どう意識していたのか?という問いに次のように答えている。
「今日は海外の選手について走ることしか考えていませんでした。すごく良いペースで引っ張ってくれました。本当にありがとうございます、という感じです。普段からご指導いただいているスタッフにも感謝したいです」

 前田のことを意識するより、自身のテーマに徹して走ったことを強調した。

 一方の前田も3試合連続で自己新だった。マラソンで日本のトップレベルに成長後では初めてのことだ。
「自己ベストを更新できてよかったのですが、15分30秒を切りたかったので、悔しさもあります。スタートから流れに乗って行こうとしましたが、思ったより突っ込んで(速いペースで入って)しまい、後半きつかったですね」

 記録的なところを話したが、一山に敗れたことに多少の悔しさもあったのかもしれない。

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写真提供:フォート・キシモト

●千歳大会前に30km走も行っていた前田

 千歳大会は2人の間に、約25秒の差があった。5000mで日本選手権4位のスピードを持つ一山と、ロード型(持久型)の前田の違いも現れたが、2人の連戦の流れの違いも影響していた。

 前田は2戦目の深川大会10000mで31分台の自己新を出すことが一番の目的で、そこで予定以上のタイムで走り一山を圧倒した。武冨監督はホクレンDistance Challenge出場の目的は果たしたと考え、千歳大会は無理に出場しなくてもいい、という選択肢を提示した。深川大会と千歳大会の間の練習で、トラックに比べればペースが大きく違う30km走も行っていたのだ。

 だが前田自身に15分20秒台を出したい気持ちと手応えがあり、出場に踏み切った。ペースがもう少し遅ければ対応できたと思われるが、1000m毎が3分00〜03秒は前田にとっては速すぎた。

 その状況で自己記録を更新したことは、一定の評価をしてしかるべきだろう。

●網走大会で見違える走りを見せた一山

 一方の一山は深川大会にはピークが合わず、網走大会と千歳大会に合った。

 深川大会で32分かかったときは、「自己記録(31分34秒56)のときより良い練習ができていたのに」と首を傾げた。それが次の網走大会では約40秒もタイムを縮めてきた一山。走りが大きく変わった理由を「初戦は悔しかったのですが、良い刺激が入って次につながった」と説明した。千歳大会も「(網走大会で)良い刺激が入ってそのまま走れたのがよかった」と、2戦連続自己新を達成した。

 もう1つ考えられるのは、網走大会の前半を15分30秒と深川大会より19秒も速く通過したことで、速いリズムに対応するスイッチが入ったことだ。15分30秒は5000mの自己記録と6秒しか変わらない。それでも10000mを走りきったことで、千歳大会5000mの大幅な自己新ペースにも余裕が生まれた。

●1年後の東京五輪までそれぞれの道を

 こう考えると千歳大会の25秒差は2人の“個別性”が現れた結果で、それほど不思議なことではない。

 重要なのは、2人がホクレンDistance Challengeで自己新を連発したことを、マラソンにどうつなげていくかだが、2人とも東京五輪前にどのマラソンを走るか表明していない。

 一山は千歳大会レース後に「うーん。やっぱりマラソンも、今日みたいな気持ちの良い走りができたらいいかな、と思います」とテレビの代表取材にコメントした。これはインタビュアーの「我々はどうしても五輪代表2人に注目してしまいますが、結果的に前田選手に先着したことをどう思いますか」という問いに対する答えだった。

 つまりトラックの勝敗よりもマラソンが重要である。そのマラソンでも相手を意識することより、自分の走りをすることが結果的に好成績につながる。そう一山は言いたかったのだろう。

 マラソンでも2人がそれぞれの道を走った結果が、1年後の札幌で現れる。

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