寺田的コラム
ホクレンDistance Challenge第2戦深川大会展望②男子編
2020.07.08 / TEXT by 寺田辰朗
男子10000mA組には3区区間賞の西山、B組には五輪マラソン代表の中村が出場
5000mは佐藤、松枝、田中の13分20秒台トリオがスピードを競う
ホクレンDistance Challenge深川大会が7月8日、北海道深川市の深川市陸上競技場で行われる。男子10000mB組にはマラソン東京五輪代表の中村匠吾(富士通)が出場する。その10000mA組では西山雄介(トヨタ自動車)らニューイヤー駅伝で活躍した選手や、伊藤達彦(Honda)ら学生駅伝で大活躍した新人の走りに注目が集まる。また5000mにはトラック種目で何度も世界陸上&五輪代表を経験している佐藤悠基(日清食品グループ)、17・19年の日本選手権優勝者の松枝博輝(富士通)、昨年の日本リスト1位(13分22秒72)の田中秀幸(トヨタ自動車)ら実績十分の選手たちがエントリーした。

写真提供:フォート・キシモト
●10000mの注目は区間賞の西山と新人の伊藤
男子10000mにはマラソン五輪代表の中村匠吾(富士通)が出場するが、最もタイムの良い選手が走るA組ではなくB組にエントリーした。富士通の高橋健一駅伝監督は「試合の感覚を取り戻すための出場です。28分30〜40秒くらいを視野に入れています」と、この大会にはピークを合わせていない。
当初は秋の海外マラソン出場を計画していたが、現時点では難しい状況になっている。だが、東京五輪前にマラソンを1本走ることは決めている。冬の国内のマラソンも候補になってきそうだ。
男子10000mにはA組に西山雄介(トヨタ自動車)、C組に大隅裕介(JR東日本)とニューイヤー駅伝区間賞選手がエントリーした。
入社3年目の西山は、それ以前はメンバーにも入れなかった選手。だがスピード区間といわれる3区区間賞で自信をつけ、「練習では自分から積極的にペースを作るようになりましたし、(週に2〜3回行う)ポイント練習ではしっかり追い込んでいます。練習を外すこともなくなりましたね」と、佐藤敏信監督も成長を認めている。
この種目のターゲットタイムは28分00秒。「自己記録(28分16秒41)は切ってほしい」と佐藤監督は言うが、区間賞タイムの37分39秒を10kmに換算すると27分41秒。追い風の吹く区間だが、距離は13.6kmと15kmに近い。10000mで27分台も十分期待できる。
大隅は1区選手の中でも5000mの持ち記録が低かったが、「勝負強さ」(大島唯司監督)で区間賞を獲得した。
現在も好調というほどではないが、中国電力エースの岡本直己や、士別大会5000mで自己新を出した近藤秀一(GMOインターネットグループ)、MGC7位の鈴木健吾(富士通。昨年の深川大会C組1位)らに勝てば、勝負強さはホンモノだ。
男子10000mでは新人選手にも注目したい。
注目の一番はA組の伊藤達彦(東京国際大→Honda)か。全日本大学駅伝2区区間賞、箱根駅伝2区では区間新の相澤晃(東洋大→旭化成)と競り合い、従来の日本人区間最高を上回った。
Hondaの小川智監督は「28分20秒は十分狙えます」と期待する。「ハイペースでも、スローでも、どんな展開にも対応できる選手です。ラストも切れます」
西山をはじめ、ニューイヤー駅伝最長区間の4区で区間賞を2回(3区と4区)取っている市田孝(旭化成)、マラソンでも結果を出し始めたスピードランナーの河合代二(トーエネック)、士別大会5000mで自己新を出したばかりの定方俊樹(MHPS)、びわ湖マラソン日本人トップの作田直也(JR東日本)ら、実業団の先輩選手たちにどこまで通用するか。
同じHondaの土方英和(國學院大卒)も注目ルーキーだ。出雲全日本大学選抜駅伝のアンカーで3人を抜き、逆転勝利の立役者となった。3月の東京マラソンでは2時間9分50秒とサブテンも達成。
「マラソン後に休ませたので、昨年と比べて状態がどうなのか、チェックをする」(小川監督)目的での出場になる。潜在能力が発揮できればB組のトップ争いができる。

写真提供:フォート・キシモト

写真提供:フォート・キシモト
●5000mは世界ランキング日本人トップの松枝が中心
5000mは実績十分の選手たちが揃った。
そのなかでも昨年の日本選手権優勝者の松枝博輝(富士通)は、世界ランキングが現在47位と最も高い。東京五輪に出場するには国内選考を勝ち抜くことと、標準記録の13分13秒50を破るか、世界ランキングを上げておくことが必要になる。
男子5000mは五輪出場人数が42人なので、世界ランキングでもその数字が目安になる。エチオピアやケニアが4人以上上位にいるので、実際にはもう少し下の世界ランキングでも出場できると思われる。
世界ランキングは記録と順位の2本立てでポイントが付く。記録によるポイントはどの大会で出しても同じだが、順位ポイントは大会の格(ABC…と分類されるが種目によって数は異なる)によって決められている。
しかし世界的なコロナ渦の影響で、今年11月までは競技会に出場してもポイントは付かないことになった。12月以降の成績が東京五輪に関わっていく。高橋監督は「12月以降に上げていける準備をする期間になります。それまでは13分30秒くらいの力を維持していけばいいのでは」と見ている。
この種目には12分59秒44を持つR・キムニャン(日立物流)を筆頭に、13分10秒台の外国人選手も3人出場する。彼らに最後まで着こうとすると余力はなくなってしまうが、力を出し切った状況でもスピードを切り換えられるのが松枝の特徴だろう。
それができる選手は国際大会でも順位を上げられる。
深川大会のターゲットタイムは13分35秒。最後のスパート次第で、高橋監督の期待する13分30秒に届くかもしれない。
松枝は1500mでも3分38秒12と日本トップレベルの記録を持つが、田中秀幸(トヨタ自動車)と的野遼大(MHPS)も中距離のスピードがある。1500mは田中が3分39秒98、的野が3分42秒15。田中はニューイヤー駅伝の6区で区間賞2回とスピード持久力もある。的野は士別大会1500mでハイペースに挑み、後半失速したが3分44秒26で日本人トップは確保した。
上記3人は順大出身で田中は松枝の3学年、的野は1学年先輩になる。順大出身者にスピードランナーが多いのは、箱根駅伝だけでなく、中距離種目の強化にも力を入れているからだろう。深川大会の5000mは“順大OB祭り”の様相を呈するかもしれない。
●新人の浦野にも13分30秒切りの期待
5000mにも“注目新人”が出場する。
昨年、出雲全日本大学選抜駅伝に優勝した國學院大の躍進を、10000mに出場する土方とともに支えた浦野雄平(富士通)がエントリーした。土方はスタミナ型でマラソンまで走ったが、浦野はスピード型。高橋監督は「練習では松枝とも遜色ない。深川でも同じくらいで走ってくれたら」と期待する。
富士通は昨年、入社1年目の坂東悠汰が学生時代の13分40秒台から、13分26秒70まで5000mのタイムを大きく伸ばした。浦野も学生時代は13分40秒台で、坂東と浦野は卒業前の2月に、日本選手権クロスカントリー10kmの部で優勝した共通点がある。「浦野にも坂東パターンを期待しています」(高橋監督)
その一方で、ベテランの佐藤悠基(日清食品グループ)も出場する。世界陸上、オリンピック、アジア大会のトラック種目代表経験があり、13分13秒60の日本歴代5位の記録を持つ。近年はマラソンを中心に走ってきたが、10000mでも昨年、MGC2カ月前に28分08秒34で走っている。今年10月に開催予定の世界ハーフマラソンが当面の目標になるが、深川大会をどう走るか注目される。
5000mではB組の高卒新人、吉居大和(中大1年)も注目されている。昨年のインターハイ3位(日本人1位)で、全国高校駅伝は3区で仙台育英高の優勝に貢献。今年1月の全国都道府県対抗男子駅伝1区では区間新記録を樹立し、3月には10000mで28分35秒65と、学生でもトップレベルに入るタイムで走っている。
エントリーのための資格記録1・2位の長谷川柊(カネボウ)、田村友佑(黒崎播磨)らが新人を簡単には勝たせることはないが、吉居の勢いは侮れない。
同じB組にはMHPSの高卒新人で、400 mでは的野以上のスピードを持つ林田洋翔や、36歳の高井和治(九電工)もエントリーしている。
ホクレンDistance Challengeには、得意とする距離や年齢など、幅広い選手層の選手が出場する。多くの選手の競技人生が交錯する大会として注目すべきだろう。
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