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寺田的コラム

ホクレンDistance Challenge第4戦千歳大会②

2020.07.20 / TEXT by 寺田辰朗

遠藤が2試合目の5000mに合わせて日本歴代7位の快走
全試合出場の田中はテーマを変更して4連勝

 4大会が行われた今年のホクレンDistance Challenge。網走大会(7月15日)10000mで27分台を出した服部勇馬(トヨタ自動車)や、千歳大会(同18日)3000m障害で日本歴代2位を出した三浦龍司(順大1年)のように、1レースに合わせて結果を出した選手がいた。一方、田中希実(豊田自動織機TC)のように4連戦し、そのすべてで優勝した選手もいる。女子マラソン五輪代表の一山麻緒(ワコール)と前田穂南(天満屋)はそれぞれ3戦し、直接対決となった深川大会(同8日)10000mは前田が、千歳大会5000mは一山が勝った。遠藤日向(住友電工)は士別大会(同4日)の3000mに続き、千歳大会5000mでも日本人トップ。13分18秒99とレベルの高い走りを見せた。

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写真提供:フォート・キシモト

●後半2000mのペースアップで2人目の国内レース13分20秒突破

 男子5000mのレベルが上がり、東京五輪出場が現実的な目標になってきた。

 千歳大会では遠藤日向(住友電工)が13分18秒99で日本人トップの2位に。大迫傑(ナイキ)が15年にマークした13分08秒40とはまだ10秒以上の開きがあるが、この種目は海外で記録が出ることが多い。国内日本人最高は07年に三津谷祐(トヨタ自動車九州)がマークした13分18秒32だ。遠藤のタイムは国内で日本人が出した2番目の記録になる。

 室内日本記録の13分27秒81を昨年2月に出している遠藤。千歳大会では「ひとまず13分25秒」を目標としていたが、13分20秒突破も意識して、「(1000m毎を)単純に2分40秒で押して行く」ことを考えていた。

 1周(400 m)平均64秒になるが、スタートすると65秒前後の周回が多くなった。「3000m通過が8分05秒で少し焦りましたが行くしかない」と、外国勢と松枝博輝(富士通)のいる集団の中で、ポジションを上げて行った。

1000m 2分42秒7
2000m 5分23秒5(2分40秒8)
3000m 8分04秒8(2分41秒3)
4000m 10分44秒3(2分39秒5)
5000m 13分18秒99(2分34秒7)
※非公式計時

 実際には上記のペースで、最初の1000m以外はそこまで遅くなかった。遠藤の力が上がっているからスローに感じたのだろう。

 4200mからは先頭に立って松枝を引き離した。T・ワンブア(埼玉医科大グループ)には敗れたが、日本の実業団や大学に在籍するアフリカ選手7人に先着。残り2000mを5分14秒までペースアップをして13分20秒突破を果たした。

●調整なしで走った士別大会3000m

 士別大会3000mは7分49秒90と、自身の予想より5秒良いタイムを出したが、調子自体は上がっていなかった。ラスト1000mは2分34秒、ラスト1周は60秒0と、千歳大会の5000mと同じか、少し遅かった。

 ホクレン連戦の一番の目標は、千歳大会5000mで最低限、自己記録を出すことだった。渡辺康幸監督は「当初から士別大会は練習で、千歳大会で13分20秒を出す計画でした」と説明する。
「士別の3000mは練習と位置づけて、その前に(量や負荷を落とすなど)調整はしていません。かなり負荷の高い練習を続けていて、士別で刺激を入れて、その後2週間で調整してきました。強いて挙げるなら、コロナによって思い通りの練習ができなかったこと。それがマイナス5秒です。近い将来、3000mと5000mの日本記録(7分40秒09と13分08秒40)は行くと思います」

 遠藤が最終的に目指すところは、ワールドクラスの12分台だ。だがそのタイムとまだ開きがあることは、遠藤自身もしっかり認識している。
「12分台はまだ、全然速いです。一歩一歩ステップアップしていくことが大事なので、まずは13分13秒50の東京五輪標準記録を目指します」

 千歳大会のタイムから5秒ちょっと。渡辺監督がコロナの影響と言ったように、そのタイム差なら可能性はある。そして21歳で伸び盛りの遠藤にとって、五輪の1年延期は間違いなく有利に働く。だが遠藤自身は「1年延期と言っても、東京五輪はあっという間に来ると思う」と、まったく気を緩めていない。

 中距離的要素も強い5000mで日本選手が世界で戦う日が来たら、マラソンでいえばメダル級の価値がある。

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写真提供:フォート・キシモト

●田中は残り2周から驚異的なスパート

 遠藤が2試合目に照準を合わせたのに対し、田中希実(豊田自動織機TC)は当初、4戦とも記録を狙っていた。田中のホクレンDistance Challenge4戦と、その間に出場した兵庫県選手権を含めた5連戦は以下の結果になった。

7月4日・士別大会1500m:4分08秒68
7月8日・深川大会3000m:8分41秒35
7月12日・兵庫県選手権800 m:2分04秒66
7月15日・網走大会5000m:15分02秒62
7月18日・千歳大会3000m:8分51秒49

 地元の競技場が使用できたためコロナによる練習への影響は少なく、練習でもレベルの高いタイムが出ていた。質の高いポイント練習を行い、つなぎの日にはしっかり落とすトレーニング・パターンだったため、連戦に向いているタイプといえる。

 父親でもある田中健智コーチは、「次に試合ができる状況がいつ来るかわからない。狙えるときに記録を狙っておこう」と、ホクレン4連戦に挑んだ。

 だが、士別大会1500mの日本歴代2位、深川大会3000mの日本新、兵庫県選手権800 mの兵庫県新までは自己新を続けたが、網走大会5000mでは僅かだが自己記録に届かなかった。自身の感覚と実際のペースもズレが生じ始めた。
「日本記録を出したいと、3レース全部、一番前を走ったことで精神的な疲れが出たのだと思います」

 最終戦の千歳大会3000mは目的を切り換えた。設定したテーマは「いつも以上にラストを大事に行く」ことだった。

▼田中希実の3000m通過タイム比較
深川大会  千歳大会
   1000m 2分53秒3 3分04秒
   2000m 5分53秒0 6分08秒
   2400m 7分03秒0 7分12秒7
   2600m 7分38秒2 7分44秒5
   2800m 8分09秒2 8分16秒7
   3000m 8分41秒35 8分51秒49
ラスト 400m  63秒2   65秒5
ラスト1000m 2分48秒4 2分43秒5
※非公式計時

 深川大会は残り1周で一気にギアチェンジをした。ラスト400 mが千歳大会より速いのはそのためだ。それに対し千歳大会は残り2周でスパートした。通常ならロングスパートと言える距離だが、田中はその周回を(表からはわからないが)62秒前後まで上げた。ラスト1000mは深川大会より約5秒速い。
「残り800 mは2分10秒を切りたいと思っていたので、2分7秒だったと聞いて、すごくうれしかったです」

 2〜4位をアフリカ勢が占めたが、2位のJ・キプケモイ(九電工)を30m以上引き離す圧勝だった。

 4連戦するなかで日本新も達成し、自身の状態を見極めて変更したテーマもクリアした。100 %ではなかったが、田中にとって実り多い4連戦になった。

 次は8月23日開催が発表されたゴールデングランプリ(国立競技場)の1500mに出場する。
「(同じ小野市出身の)小林祐梨子さんの日本記録(4分07秒86)も視野に走ります」

 五輪本番会場で初めて行われる陸上競技会で、再び、記録をテーマに走る。

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