寺田的コラム
【全日本実業団陸上この種目に注目① 男女10000m】
2020.09.15 / TEXT by 寺田辰朗
服部、前田、一山のマラソン五輪代表3選手が男女10000mに出場。
スピードにさらなる研きをかける

写真提供:フォート・キシモト
全日本実業団陸上が9月18〜20日、埼玉県の熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で開催される。男女10000m(女子18日、男子19日)にはマラソンの東京五輪代表3選手が出場する。トラックで代表を目指す選手や、駅伝の各チームエースたちとの戦いでスピードアップを図ることが目的だ。
●服部は今季27分台の伊藤と鈴木、
マラソンでライバルの井上、村山らと対決
マラソン代表3選手が男女10000mに出場する。男子の服部勇馬(トヨタ自動車)と女子の前田穂南(天満屋)、一山麻緒(ワコール)で、3人とも7月のホクレンDistance Challengeで10000mの自己新をマークしている。
服部はホクレン網走大会で27分56秒32と、自身初の27分台をマークした。「そのままマラソンに生かせる動き」で出したタイムに、「27分台が1つの目標だったので満足しています」と、安堵の表情を見せてはいた。
だが冷静に考えると、喜んでばかりもいられない。翌朝には次のように話したのだ。
「27分56秒で満足していたら、マラソンのメダルには届きません。30年前のことですが、中山竹通選手は27分35秒33、瀬古利彦選手は27分42秒17のタイム(2人とも当時の日本記録)を持っていましたが、マラソンでオリンピックのメダルには到達しませんでした。(自分の記録が)少し恥ずかしくもなりました」
記録は気象コンディションに左右される。7月の北海道のような気象条件に恵まれれば、服部は27分45秒くらいを目標にしてくるだろう。
服部以外で今季27分台を出しているのは2人。ホクレン千歳大会で27分57秒84を出した鈴木健吾(富士通)と、同深川大会で27分58秒43を出した伊藤達彦(Honda)だ。
27分台3人の中では伊藤が10000mで五輪代表を狙っている。11月いっぱいまでは世界ランキングのポイントにならないが、タイムはできるだけ伸ばしておきたい。当日のコンディションで記録狙いが難しければ、日本人トップをとることで12月の日本選手権に向けて自信を得られる。
マラソン組では井上大仁(三菱重工)、菊地賢人(コニカミノルタ)、村山謙太(旭化成)、河合代二(トーエネック)らが出場する。
井上も今季は10000mのスピードを日本記録(27分29秒69)レベルに引き上げるシーズンと位置づけている。三菱重工の黒木純監督は「網走では直前に叩きすぎて調子が落ちましたが、今回はそのあたりもしっかりコントロールしてきた」と自信を見せる。
昨年の世界陸上4位のR・ケモイ(愛三工業)、五輪&世界陸上入賞5回のB・カロキ(トヨタ自動車)ら外国勢も強力なメンバーが揃っている。彼らのペースが27分台前半になるのか、27分台後半になるのか。外国勢のペースを見極めて、自身の目的と照らし合わせてどう対応(利用)するか。
服部はかねてからカロキへの尊敬の念を口にしてきた。モチベーションは上がっているはずだ。
●前田vs.一山に10000mで代表を狙う松田、勝負強い佐藤も参戦

写真提供:フォート・キシモト
前田と一山はホクレンでも直接対決をしている。深川大会では31分34秒94の自己新で走った前田が、28秒71差をつけて一山に勝った。一山はペースメーカーが予定よりも遅く、序盤で自身が先頭に立ったことで力みが出たようだ。
前田は出場しなかったが網走大会10000mでは、一山が31分23秒30と五輪標準記録を上回るタイムで走り、深川大会の不調から1週間で復調した。
千歳大会では2人とも5000mに出場。15分06秒66の日本歴代8位で走った一山が、15分31秒51の前田に24秒45の差をつけ、1勝1敗で北海道での対決を終えた。
2人は本来、タイプが異なる。前田は持久型で、成長過程を見てもマラソンが先に強くなった。対する一山はスピード型で、先にトラックが強くなった。ホクレンのレースとレースの間にも30km走を行いながら出場した前田に対し、(これまでのワコール勢の強化パターンから推測して)スピード練習を徹底して出場した一山。
2人とも最終的な目的は、東京五輪に最高の状態を作って出場することは同じである。だが成長過程もトレーニングの内容も異なる。その中で同じトラックの試合を全力で走る。そこが興味深い。
全日本実業団陸上のタイムは気象コンディション次第だが、ホクレンのような好条件で一山がハイペースに持ち込めば、一山優位といえそうだ。逆に暑さなどで31分半前後のペースなら、勝機は五分五分だろう。
新谷仁美(積水化学)は5000mに専念するが、2人以外では松田瑞生(ダイハツ)の参戦が注目される。今年1月の大阪国際女子マラソンに2時間21分47秒で優勝したが、3月の名古屋ウィメンズマラソンに一山が2時間20分29秒で優勝したため、五輪代表を逃している。
だが10000mでも17年世界陸上ロンドン大会に出場した選手。ラストスパートを武器に、17、18年の日本選手権10000mを2連覇した。東京五輪も10000mで狙うことを明言している。標準記録を上回っても適用期間外なので、特徴である勝負強さを発揮するレースに徹するかもしれない。
佐藤早也伽(積水化学)は初マラソンの名古屋ウィメンズを、2時間23分27秒の5位(日本人3位)と好走した。ポスト東京五輪のマラソンで期待されている選手だ。
10000mは昨年初めて31分台(31分59秒64)に入ったが、タイム的には少し劣る。だが、どのレベルでもレースのトップを取り続けて、そのレベルを上げてきた。網走大会も一山には引き離されたが、日本人2位争いの集団で予想通りに勝ちきった。32分前後のペースになるようだと、佐藤にも勝機が出てきそうだ。
五輪開催1年延期により、マラソン代表選手たちは準備期間が長くとれることになった。その期間を利用して、スピードを一段階アップさせることに取り組んでいる。そこにトラックの代表や東京五輪以降のマラソンを狙う選手たちが加わる。各選手たちの目的を理解すれば、テレビ観戦がより面白くなるはずだ。

写真提供:フォート・キシモト
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