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寺田的コラム

【クイーンズ駅伝2020展望コラム2回目 JP日本郵政グループ】

2020.11.17 / TEXT by 寺田辰朗

JP日本郵政グループが2連勝へ豪華布陣
5000m14分台の廣中ら2年目選手たちの充実。
そして代表経験豊富な“あゆりな”コンビ

昨年2度目の女王の座についたJP日本郵政グループが、さらに強力なチームになっている。前回1区区間賞の廣中璃梨佳(20)は9月の全日本実業団陸上5000mで、日本人3人目の14分台となる14分59秒37をマークした。18年アジア大会5000m4位の鍋島莉奈(26)は、昨年は故障でクイーンズ駅伝を欠場したが今季は全日本実業団陸上10000mで優勝している。前回2区区間2位の菅田雅香(19)と、5区区間4位の大西ひかり(20)もトラックで自己新をマーク。東京五輪マラソン代表の鈴木亜由子(29)がエース区間を走らなかった場合でも、優勝に十分手が届く陣容になりそうだ。

●前回1区区間新の廣中。「昨年と違う挑戦」も

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写真提供:フォート・キシモト

出遅れが許されない1区(7.6km。昨年までは7.0km)の大任を、今年も廣中璃梨佳が担うだろう。

 区間記録を18秒更新した昨年は5km手前でスパートし、最後の2kmを5分59秒で走破した。前年の3区区間賞の渡邊菜々美(パナソニック)に20秒、距離にすると100m強もの差をつけ、日本郵政はその後、一度もトップを譲らなかった。

 中学3年以降毎年出場してきた全国都道府県対抗女子駅伝、高校3年時の全国高校駅伝、そして昨年のクイーンズ駅伝と、駅伝ではすべて区間賞を取っている。

 しかし廣中自身は、区間賞にこだわってきたわけではない。
「駅伝を走るときは区間賞を取りたいとか、何秒で行きたいとか考えてはいません。少しでもチームに貢献したい、応援を力に変えて、見ている方に元気や勇気を届けたい、と思って走っています。それはトラックでも基本的には同じです。誰かに勝ちたいというより、自分自身に勝ちたい」

 廣中にとっては自分の力を出し切り、その走りを応援してくれる人たちにアピールすることが最も大事なことなのだ。だから、行けると思ったときは必ず先頭に出る。余力を残して終盤の勝負を有利にしようとは考えない。心拍数は毎分30拍ほどで、もともと心肺機能は高い。今季は筋力トレーニングなども多く行うようになり、高橋昌彦監督は「腹筋など体つきが変わった」と言う。

 この1年で成長した部分を問われた廣中は、次のように答えている。
「昨年の1区で最後を(1km)2分台のスピードで走ったことも自信になりましたし、今年5000mの14分台を出せたことも自信になりました。練習でもスピードのメニュー、スピード持久力のメニューと、力を入れなくても設定を超えるタイムで走れるようになっています。昨年の7kmでもきつかったので、1区の距離が延びると聞いたときは不安でした。でも今年は、設定タイムが上がったなかで距離も踏めているので、1区が延びたことに不安も持たなくていいのかな。この1年で経験したことで、昨年と違ったことに挑戦してみたい気持ちもあります」
 
今年の廣中は、昨年よりも長いスパートをかける可能性がある。あるいは、残り2kmを5分50秒を切るようなすごいスパートを見せるかもしれない。

 今年は新谷仁美(32)の参戦により、3区(10.9km)で積水化学がリードを奪う展開が予想される。しかし1区の廣中の走り次第で、日本郵政が新谷に追いつかれる地点が後ろになる。そうなれば3区の選手の走りも、4区以降のレース展開も変わってくる。

●菅田&大西、廣中世代がそろって成長

 日本郵政は廣中と同期入社メンバーが充実している。廣中の力が突出しているようで、練習ではそこまで突出していない。菅田雅香や大西ひかりとは、「練習は同じ距離を踏んでいます」と廣中は話している。

 入社1年目の昨年、廣中だけ鍋島や鈴木と一緒に、米国ボルダーやアルバカーキなど、海外で高地練習を行うこともできた。その方がレベルの高い練習はできただろう。だが廣中は、同期の選手たちと国内で地道に練習する選択をした。

「昨年の駅伝日本一は最初実感がありませんでしたが、菅田、(4区の)高橋明日香、大西と同期みんなで走れたことを考えたら、達成感が大きくなりました。練習で設定タイムを切るために一緒にもがいたり、切磋琢磨したりして、お互いを高め合えたんです。合宿を一緒に乗りこえてきてよかったと、心から思いました」

 今年はコロナ禍の影響で海外合宿ができず、チーム全体が一緒に行動することがほとんどだった。同期選手たちの相乗効果は続いている。

 菅田は「同期で練習することで、(廣中も)目標にできる」と話す。「ひかりはケアなど競技につながる地味なことを、毎日怠らずに続けられる選手。見習わないといけません」

 そして今年も、「2区(3.3km)を走りたい」と希望区間を明言している。「昨年は区間2位だったので、今年は区間賞を取ってリベンジしたいです」と意欲的だ。

 大西は故障が少なく、食事もしっかり食べられる選手。菅田も指摘しているように競技に取り組む姿勢がしっかりしている。起伏にも強く、高橋監督は「将来的にはマラソンで結果を残せる」と期待している。

「昨年は守るものがないチャレンジャーでした」と大西。「若さと勢いで走れたのだと思います。今年は追われるプレッシャーもありますが、優勝メンバーの自覚ももって、コロナ期間も集中して練習してきました。それが自信になっています」
 
鍋島と鈴木の状態次第のところもあるが、大西が今年も5区(10.0km)を走れば、区間4位だった昨年以上の走りは間違いない。

 廣中1人だけではなく、同期のチームメイトが一緒に成長している。そこが日本郵政の強さとなっている。

●鈴木のクイーンズ駅伝皆勤が意味するもの

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写真提供:フォート・キシモト

 日本郵政の昨年の優勝は、廣中たちの学年4人が42.195kmのコース中、24.5kmを走った。チームの中核世代となったが、国際大会の実績やチームの精神的な中心という部分では、鈴木亜由子と鍋島莉奈、“あゆりな”コンビの存在感は絶大だ。

 鈴木は14年に創部した日本郵政の1期生で、クイーンズ駅伝初出場の15年大会以降、すべての大会を走ってきた唯一の選手である。

15年:3区区間5位(チーム12位)
16年:2区区間5位(チーム優勝)
17年:1区区間3位(チーム3位)
18年:3区区間2位(チーム7位)
19年:3区区間2位(チーム優勝)

 15〜17年の3シーズンは毎年トラックで、夏の世界陸上&五輪に出場した。18、19年は夏にマラソンを走っている。気温が下がる時期にケガが多いこともあり、11月の駅伝に万全の状態で臨めていない。それでも前半区間をすべて区間5位以内で走り、チームに良い流れを作ってきた。スピードを生かしたエースの走りを毎年見せている。

 その鈴木が今回は「(出場区間は)監督に任せていますが、後半区間も考えています」と話す。1月から故障が続き、練習が継続でき始めたのは7月から。チームのポイント練習(週に2、3回行う負荷が大きい練習)に合流したのは8月末からだ。5区を2年連続で大西に任せ、鈴木は6区(6.795km)でフィニッシュテープを切る役割を担うかもしれない。

 おそらく昨年までの日本郵政なら、今のような鈴木の状態でも前半区間に起用していただろう。鈴木が後半区間出場を言及できるのは、チームの総合力がアップしているからだ。
「毎回クイーンズ駅伝までの練習が安定してできず、不安のある中で出場してきました。それでもチームのみんなに支えられて、私だけでは出せなかった走りを駅伝では続けられたと思います。駅伝のパワーを再認識し、改めて実感してこられた大会です」

 創部以来、鈴木が日本郵政を牽引してきたのは間違いない。だが、チームが鈴木を支えてきた側面もあった。ケガの多い鈴木が皆勤賞で来ているのは、鈴木個人とチームがお互いに支え合う、良い関係にあることを示している。

●鍋島の「3区は大エースに」が物語るチーム力

 前キャプテンの鈴木が後半区間出場なら、19年からキャプテンの鍋島が3区を走ることになる。今年9月の全日本実業団陸上10000m優勝者なのだから、エース区間を担う資格は十分だ。だが鍋島自身は「3区は得意じゃありません」と本音を隠さない。

「3区は(リズムが取りにくい)上りも下りもないコースです。しかしその区間の走りで後半区間に負担をかけるか、楽をさせられるかが決まってしまいます。できれば私は5区がいいですね。3区はウチの大エースに走ってほしい」
 裏を返せば、鈴木の調子が上がっていなければ、自分が3区を頑張る覚悟はできている、ということだ。

 鈴木と鍋島も、お互いを補完するような関係と言っていい。17年世界陸上に鈴木は5000mと10000mで、鍋島は5000mで代表入りした(世界陸上前の公開練習時に“あゆりな”のコンビ名が決定した)。鈴木は15年世界陸上から16年リオ五輪、17年世界陸上と3年連続で代表を続けていた。鈴木は18年からは夏にマラソン出場が続いたが、代わって鍋島が18年アジア大会5000m、19年世界陸上10000mと3年続けて代表入りしている。

 クイーンズ駅伝の鍋島は、入社1年目の16年に5区で区間賞。鈴木は足の状態が良くなかった影響で2区に回ったが、鍋島が5区でトップに立って日本郵政は初優勝を飾った。上りが得意な鍋島は「自分の強みが一番出せるコース。5区なら安心して走れます」と今年も5区を希望する。上りが苦手な鈴木に、走り方のコツを教えたのも鍋島である。

 昨年は鍋島がケガ(右脛骨疲労骨折)の影響で欠場したため、廣中らルーキー4人を起用しての優勝だったが、鈴木が3区でエースの働きをした。区間2位で、2位を走行しているチームとの差を36秒から46秒に広げている。

 鈴木と鍋島の2人でトラックの日本代表を5シーズン続け、駅伝ではどちらかが悪くても、チームをエース不在の状態にはしない。2人で代表やチーム内の役割を引き継ぎながら、トラック・マラソン・駅伝すべてにおいて日本郵政の力を高め、維持し続けてきた。

 今回、鈴木が5区なら鍋島直伝の上りの走りを、コースの後半で披露するだろう。鈴木が調子を上げて3区に入れば、鍋島は得意の5区を快走する。

 一見、他力本願のような「3区はウチの大エースに走ってほしい」という鍋島の言葉には、日本郵政というチームの特徴と強さが現れている。

 廣中を中心とする入社2年目選手たちの充実と、存在自体が強力な“あゆりな”コンビ。レースプランに多少の狂いが生じてもビクともしない総合力が、今年の日本郵政にはある。

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