土曜の夜と、たけしと僕

第19回 2013年9月3日

「殿とタップと僕」その5


殿と、僕達軍団の若手だけでタップダンスの稽古をやるようになると
それまでほぼまったく皆無に近かった“殿と若手の会話”が、
自然と成立するようになり、稽古をやるようになって半年も過ぎた頃には
殿と若手だけで、カラオケに行けるほどになっていました。

こういった時、僕はいつも「殿は僕らみたいな、なんだかよくわからない
若手と遊んでいて楽しいのだろうか?僕らは最高だが、殿はどうなのだろう?」と、少しばかり疑問でありました。
で、
そんな殿とのカラオケは、とにかく最高なんです。

殿は、歌ってボケて盛り上げて、最後には漫談まで披露するサービスぶりで、僕らは殿の歌を聞き、散々笑い、殿にしこたまご馳走になり、
さらに最後には殿からタクシー代まで頂いて帰るのですから。

殿とカラオケなどで盛り上がった帰り道、
「こんなに幸せでいいのでしょうか?」と、
疑問に思うことしきりでありました。

たけしさんってどんな歌を歌うの?

おまかせ下さい。殿の定番ソングはこんな感じです。

「ラブ イズ オーバー」by欧陽韮韮
「乙女の祈り」by伊藤咲子
「レイニーブルー」by徳永英明
「六本木ララバイ」by内藤やすこ
「大空と大地の中で」by松山千春
 
さらに、

機嫌がよい時には、持ち歌の「浅草キッド」なども、
前のめりになりながら、噛みつくように歌います。その姿は、何度見ても
たまらなくかっこがよく、シビレてしまうのです。

で、以前、かなり酔い、いい調子になってしまった僕は
殿、あれ歌って下さい。いつもあの松山千春の『酒と大地と男と女』お願いします」とリクエストしてしまい、
殿から「お前それ歌何個入ってんだよ!」と突っ込まれた夜もありました。

とにかく、殿と若手は急速に距離を縮めていったのです。

しかしながら、人間、距離が縮まれば、何かしら“こと”が起きるもので、
殿と僕達の間にもちょっとした事件が勃発したのです。

当時、殿はタップの稽古と平行して、以前やられていたピアノの練習も再開しており、稽古場では、
タップ踏む。ピアノを弾く。少し休憩。そしてまたタップを踏む
といったサイクルで、実にせわしなく稽古場を動きまわっていました。

さらに殿は、それらの動きに、今度は時折シャドーボクシングの動きもするようになり、程なくして
「おい、サンドバック買ってこいよ」と弟子に指示を出すと、タップの稽古場には本格的なサンドバックが届けられ、若手一同でなんとか工夫し、そのサンドバックを天井からつるしてセッティングしたのです。

サンドバックが届いてからの殿は、足はタップシューズ、手にはボクシンググローブと、ややコミカルないでたちで稽古場を動き回り、
ある時など、タップを踏む。サンドバックを叩く。そして、手にはめたボクシンググローブのことをすっかり忘れてピアノを弾こうとして、「あっ!」と、
自分自身に驚いていたこともありました。

そんなある日、本当にめずらしく、その日に限り、若手が全員
仕事などの理由で、夕方からの殿とのタップの稽古に参加できない日があり、
僕もライブの打ち合わせがあり、どうしても稽古場に伺えず、
殿は役者志望の運転手と二人だけでタップの稽古をする日がありました。

この時、はっきりと僕の中で嫌な胸騒ぎ覚えたのを、僕は記憶しています。

あの時覚えた、胸騒ぎの理由はこうです。

間違いなく日本一忙しく、テレビのレギュラーを7本もこなしている殿が、
仕事終りでタップの稽古をしているというのに、当時、稽古に参加していた、
間違いなく仕事の少ない暇であるはずの僕達若手が、
たとえ一日といえども、殿が音頭を取ってやり続けているタップの稽古に参加できないのは、なんとなく不自然に思えてならず、

「忙しいオレが稽古をしているのに、若手が誰一人稽古場に
来ないのはおかしいだろ。単にやる気がないんじゃないのか」
といった思いを、殿に抱かせてしまうのでは?といった勘ぐりからくる胸騒ぎであり、
軍団に入り、何度か怖い殿を近くて見たことのある僕は、
常に最悪のケースを考えてしまうことからくる、胸騒ぎでもあったのです。

そして、こういった胸騒ぎはほんとによく当たるもので、
その日の夕方、僕が放送作家さんなどとライブの打ち合わせを中野のファミレスでしていると、殿と二人っきりで練習しているはずの、役者志望の運転手から着信が入ったのです。

メールでなく、直接殿の運転手が僕に電話をしてくる時点で、まちがいなく何か殿のことでの緊急の用事であるのは、電話に出る前に察しがつき、
僕は、「やっぱりなんかあったか!」と、舌打ちしながら電話に出ると、
「忙しいところすいません。今、殿とタップの稽古をしてたのですが、あのサンドバックが外れまして、殿がサンドバックの下敷きになりかけて大怪我するところでした。それで殿があのサンドバックを誰が天井に吊るしたんだと怒ってまして、とにかく今すぐ若手をこっちに呼べと言ってます」
と、やや興奮気味に告げるのです。

すると「とにかくすぐにこっちに来るように言え!」と、電話の向こうで、
怒鳴っている殿の声がはっきりと漏れ聞えてきたのです。

とにかく、すぐに中野のファミレスを飛び出て稽古場のある青山へタクシーで向かい、一度深呼吸してから稽古場へ入って行くと、
まだ僕のほかに誰一人到着しておらず、僕が一番のりであり、
僕の顔を見た殿は「おい、これが落ちてきて、大怪我しそうになったぞ!」と、やや興奮した声で訴えてきたのです。

が、この時、さきほど電話の向こうで怒鳴っていた殿の声より、
あきらかに怒りのトーンが落ちていていることに気づいた僕は、すぐさま
殿、どのような状況だったんですか?」と、もう一度状況を話してくれませんか?といった具合に話題を持っていくと、
殿は「サンドバック叩いてたらいきなりはずれたんだよ。ほんとあぶなかったんだぞ」と。
僕は間髪いれず「それはかなり危ない状況でしたね?」と、
殿の運動神経だからこそ大怪我しないで済んだんじゃないですか?
的なニュアンスを存分に含んだ言い方で続けると、殿
「ほんとだよ、普通のやつだったら今頃死んでたぞ」と、先程までは、“大怪我”といっていた言い回しが、死んでた‘変ったことに気づき、

とにかく怒られたくない一心で、やはり間髪いれず、
殿、あれですよ、タップで足腰鍛えていたからよけられたんですよ。他の人だったら死んでましたよ」と、たたみかけ、さらに、殿がもしこれで笑ったらラッキーとばかりに、冗談とも本気ともとれる言い回しで
「タップ初めてから、殿のふくらはぎはコブラみたいです」。と、

なんとなくヘビのコブラの語感の面白さと、それプラス、コブラのあの頭から胴体へのきゅっとしまったシルエットを想像して、コブラという単語をチョイスして殿に述べると、殿は笑うでも怒るでもなく
「ふ〜んそうか・・・」的な感じで僕のややおかしなコブラ発言を聞き流すと、なぜか明らかに怒りが収まりだし
「あと他に誰か来るのか?みんな来たら飯でも食うか」と、静かに言われ、その後、かけつけた若手数名で、殿と食事をとり、なんとか事なきをえたのでした。
しかし、
なぜに殿の怒りが急激に収まったのか? これは僕の勝手な憶測ですが、
多分、僕の“殿のふくらはぎはコブラです”発言が、意外にも気に入っていたのではないかと思えてしかたがないのです・・・。


で、この、「殿とタップと僕」は、まだ続くのです・・・。

写真

写真は、少し分かりずらいですな、先ごろTBSの楽屋にやって来た、ビートきよしさんなめからの、ビートたけしさんです。zz

2013.9.3   アル北郷

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〆さばアタル・プロフィール

生年月日:1968年11月4日
出身地:香川県
1989年にビートたけしに弟子入り漫才師として「ダウソタウソ」「ウッチャソナソチャソ」「ダッチョ倶楽部」など師匠につけられたパチモノのコンビ名で活動。現在は「情報7daysニュースキャスター」などで自称ブレーンを務める。

アル北郷・プロフィール

生年月日:1971年8月26日
出身地:東京都
96年、ビートたけしに弟子入り。
08年、映画「アキレスと亀」にて東京スポーツ映画大賞新人賞受賞。
現在TBS系「情報7daysニュースキャスター」ブレーン。「週刊アサヒ芸能」にて「決して、声に出して読めない たけし 金言集」好評連鎖中

 

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