土曜の夜と、たけしと僕

第13回 2013年7月6日

「殿とタップと僕」その2

前回までのお話を軽く。

10年程前、タップの稽古を再開した殿の姿を見て
居てもたってもいられず、「殿、僕にもタップを教えてください」と
スタジオの隅でついに懇願してしまった僕なのでした・・・。


あの頃、弟子の僕から殿に話しかけるといった行為は、
かなり勇気のいる、非日常的な行為であり、
さらに、殿にタップを習いたいと懇願した弟子は、当時、9人程いた
浅草キッドより下の、“たけし軍団4軍扱い”の若手の中では、
僕が一番最初であり、とにかく、かなり緊張を強いられる行為でありました。

殿は緊張しがちに発した僕の発言を耳に入れると、特に驚いた様子もなく
まるで“そろそろそんなお願いをしてくる頃だろうと思ったよ”ぐらいの、
いたって素の感じのまま「お前タップシューズあんのか?」と
さらりとこちらに問いただしてくるのです。

この時、なぜか僕は、つい咄嗟に「あっはい。一応は持ってます」と、
持ち合わせてもいないタップシューズを“持ってます”と
明らかな嘘をついてしまったのです。

これはあくまで言い訳ですが、なぜそのような嘘をついたかと申しますと、
タップを習いたいと自分からお願いしておきながら、いざ、やるとなった途端、「殿、タップシューズは持っておりません。どうしましょう?」といった、
なんでもかんでも“殿まかせ”の、おんぶに抱っこな感じが、
なんとも申し訳なく思い、タップシューズぐらいは自分でなんとかせねば!といった思いがあったからなのでありますが・・・。

で、この「一応は持ってます」といった言い方も、どうかと思うのです。

この「一応」ってところがなんとも言い訳がましく、
このいい回しの中に含まれる意味は
「タップシューズは持ってますけど、ボロイですよ」とか
「タップシューズは持ってますけど、片方だけですよ」だの
「タップシューズは持ってはいますけど、臭いですよ」といった
「タップシューズはあるけど、それはけしてちゃんとした物ではなく、
そんなシューズは、あっても無いようなものですよ」といった、
“なにかあった時の逃げ”の意味が存分に含まれており、
今更ながら改めて、自身の人間としての“小ささ加減”に、軽く落胆して
しまうのです。


僕の“タップシューズは持ってますよ”発言を受けた殿
「じゃー、今日は夜食事会があって稽古は(タップの)しねーからよ。
明日からオレんちこいよ」と、まるで、
“千葉へ行って落花生でも買ってこいよ?”ぐらいの気軽さにて、
僕を稽古へといざなうのでした。

この時
「誘っていただいたのは光栄だが、とにかくタップシューズをなんとかせねば」と、明日の夜のタップの初稽古までに、タップシューズを手に入れなければなならない事態をまずは危惧したと同時に、
とにかく、“明日から殿と二人きりの稽古が始まるのか”と武者震いと
興奮をたっぷりと覚えたのでした。

夜、殿の付き人を終え、タップシューズ探しを早々と開始し、色々と調べていくと、中野坂上にタップシューズを売っているお店があることがわかり、
さっそく電話にて問い合わせしたところ、なんとその日は定休日であり、
さらに調べていくと、タップシューズの値段がかなり値の張る代物であることが分かり、当時、殿の付き人として絶賛修行中の、万年金欠状態の僕にはとても今すぐ買える代物でもないこともわかり、早くも窮地に追い込まれたのです。

が、「では誰かタップシューズを持っている人に、ひとまず借りよう」と
いった作戦に切り替え、とりあえずダメもとで芸人仲間に片っ端から電話をかけると、なんとラッキーなことに、3人目に電話をした他事務所の後輩から
あっさりと「はい、持ってますよ。昔ちょっとやろうとしたことがあったので、ありますよ」といった、なんとも嬉しい返事が返ってきたのです。

さっそく深夜、後輩の家へタップシューズを借りに行き、
夢にまでみたタップシューズとご対面をすると、そのシューズ、色がなんとも気取った白色で、さらにはサイズが28センチもあり、25.5センチの僕には、明らかに不釣合いなデカさのタップシューズであったのです。

しかしながら、時間も無く、なりふりかまっている場合でもなく、
とりあえずシューズを借り受け、翌日の夕方、殿と二人っきりでの
稽古をするため、緊張しながらもサイズのあっていない白いタップシューズを小脇に抱え、いざ殿邸へと向かったのです。

仕事終りの殿殿邸の前で待っていると、17時過ぎ、ばかでかいイギリス産の高級車がするりと到着。僕が後部座席のドアを開け「お疲れ様です」と声を出すと「おう」と殿が返され、車から降りた殿は、玄関までの短い距離の間に「いよいよお前もタップデビューか」とポツリ。

二人して殿邸に入り、地下のリビング兼稽古場へ降りていくと、
殿は早々にジャージとTシャツ姿に着がえられ、さっそくタップシューズを
履き、多分ウォーミングアップだと思われる小さなステップをカタカタと踏み鳴らし出したのです。

この時、僕はなにをどうしていいか分からず、とりあえずサイズの合っていない白いタップシューズを履き、殿から3メーター程離れた距離にて、
ただただ立ち尽くし、殿の踏むステップを見ていると、殿は急に
こちらに顔を向け、こちら近づいてくると「お前、その靴デカくねーか?」と
タップシューズを履いてからものの3分で、殿に、“あきらかにおかしいシューズのデカさ”がばれてしまったのです。

「はい、ちょっと手違いがありまして、なぜか少しデカイんです」と、
なんだかよくわからない苦しい言い訳を述べると
「なんだよそれ!」と、殿は一度僕をツッコンだのち、
「お前足のサイズいくつだ?」と、問いただしてきたのです。
「はっはい。25.5です」そう答えると、殿はリビングの端にある
戸棚の下から、一足の黒い、あきらかに履きこんだ形跡が見られる
いい感じにやつれたタップシューズを取ってくると
「これ履いてみろよ。それよりはましだろ」と、多分予備で使っていたと思われるタップシューズを僕に渡してきたのです。

「ありがとございます」と、まずはお礼述べ早々にタップシューズを履こうとする僕に、殿はすかさず「まだあげるって言ってねーよ。サイズがあったらやるんだよ!」と、ニコやかにツッコんでくるのでした。

早々、後輩から借りた白い馬鹿デカイタップシューズを脱ぎ捨て、
殿のシューズを履くと、これがまるで僕が寝てる間に、
小人の妖精がサイズを測り、オーダーメイドで作ったのでは?と思える
ほどのジャストフィットであり、すぐさま「殿、すいません。ぴったりです」と告げると「ほんとかよお前!靴の中で足の指曲げてねーか?」
「いえいえ、ほんとにぴったりです」
「じゃーいいよ。それお前にやるからよ、それ履いて稽古しろよ」と、
あっさりとビートたけしの汗のしみ込んだタップシューズを頂いてしまったのです。

そして、この日より地下室にて、緊張をしながらも、
ドカドカとステップを踏み鳴らす、ビートたけしと二人っきりでの
稽古の日々が、連日連夜、幕を開けたのでした・・・。 つづく

写真

写真は、ここ最近、殿が好んで身につけている、ソフト坊とサングラスであり、
これらを身につけ、真っ白なイギリス産の高級車から降りてくる殿のお姿は、何度見ても、たっぷりとしびれてしまう僕なのです。

2013.7.6   アル北郷

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〆さばアタル・プロフィール

生年月日:1968年11月4日
出身地:香川県
1989年にビートたけしに弟子入り漫才師として「ダウソタウソ」「ウッチャソナソチャソ」「ダッチョ倶楽部」など師匠につけられたパチモノのコンビ名で活動。現在は「情報7daysニュースキャスター」などで自称ブレーンを務める。

アル北郷・プロフィール

生年月日:1971年8月26日
出身地:東京都
96年、ビートたけしに弟子入り。
08年、映画「アキレスと亀」にて東京スポーツ映画大賞新人賞受賞。
現在TBS系「情報7daysニュースキャスター」ブレーン。「週刊アサヒ芸能」にて「決して、声に出して読めない たけし 金言集」好評連鎖中

 

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