土曜の夜と、たけしと僕

第15回 2013年7月20日

「殿とタップと僕」その3

前回までのあらすじをまた少し・・・

10年程前、殿と二人っきりでのタップダンスの稽古の初日、
殿が愛用されていたタップシューズをいきなり頂いてしまった僕は
“これはもうなにがなんでもタップダンスをうまくならなければまずいぞ”
といった状況の中、殿と二人きりでのタップダンスの稽古が始まったのです。


稽古の初日、殿から頂いたタップシューズに早々と履きかえた僕は、
まず「これが基本だからよ」と、殿から踵とつま先を使って音を
4回鳴らす“4連”というステップを教わりました。

が、この4連、見るとやるとでは大違いであり、自分が思い描いていたような動きも出来ず。音も出ず。やりだしてものの5分で汗が吹き出し、膝やふくらはぎに恐ろしく負担のかかるステップでありました。

そして、恐ろしく下手なボックスを踏んでいるような、奇怪なステップを踏む僕の姿を見た殿「お前は稲踏みか!」といったツッコミを炸裂させるのでした。

で、殿はさらに「これを3ヶ月毎日やって、やっとタップが楽しくなるんだよ」と。気が遠くなるような、あまりにも地味すぎる反復練習を心がけることを教わり。この日より僕は、来る日も来る日もこの4連をただひたすら踏み続けたのです。

当時、殿は週6日のペースで、だいたい夕方18時過ぎあたりから稽古をスタートさせ、とにかく雨が降ろうが槍がふろうが仕事が終われば
まっすぐ自宅の地下室の稽古場へ直行しタップの稽古を。

当時仕事などまったくなく、ビートたけしの弟子といった肩書きがなければ、ただのもみ上げの長い失業者状態だった僕は、当たり前ですが一日たりとも休むことなく稽古場へ出向き、あまりにも近い殿とのその距離感に、
完全に一ファンとなって、
「うわっ、たけし近いな~」だの「あらっ、殿の耳は近くで見るとこんな感じなのね・・」と。タップを踏みながらも“たけしウオッチング”を存分に堪能していたのです。

それと同時に、ぼつりぽつりと殿からタップ以外の会話も
話しかけられるようになると、気にする先輩がいないことをいいことに、
「こっちらもどんどん話しかけなきゃ損だな」と、強く思い、
稽古始めて5日目には、

殿、今度単独ライブをやります」
殿、母のシメコがまた再婚しました」
殿、先日吉祥寺のピンサロに行ってしまいました」
等々、

殿にとってはまったくどうでもいいアル北郷の個人情報を、意味もなくお伝えするようになったのです。

すると、毎日僕と二人きりでの稽古場で、他に話し相手がいなかったため、
殿は僕のこういったどうでもいい話題に


「どんなネタやるんだ?」
「お前の母ちゃんはスナックやってんだろ」
「可愛い子いんのか?ピンサロってのはどこまでやってくれるんだ」
等々

しっかりと返してくれるようになり、
殿の弟子になって6年目にして、やっと会話らしい会話を成立させることが
できるようになったのです。

稽古中の殿は、基本黙ってもくもくと、タップのパフォーマンスグループ、
「ストライプス」のリーダー、ヒデボウさんが殿用に撮影された
レッスンDVDを何度も再生させ、確認すると、僕同様に反復練習を繰り返していました。

で、それに飽きると、僕のほうへおもむろに近づいてこられ
「どうだ、少しは出来るようになったか?ちょっとやってみろ」と、
“4連抜き打ちテスト”を開催するのです。
そのたびに、時には真剣に「もっとかかとを強く振むんだよ」とアドバイスを
くれたかと思えば「お前は雨乞いの儀式でも踊ってんのか!」と、不恰好な僕のステップに対し、ツッコミを入れてくるのです。

そして、そんな二人だけの稽古が一月半ほど経過すると、
軍団のほかの若手一堂が、「北郷ができてるのだから大丈夫だろ」といった結論に達したようで、続々とタップの稽古への参戦を殿に懇願し、
いつしか殿邸の地下室の稽古場は、常に殿、そして4,5名の若手がドカドカとステップを踏み鳴らすといった、完全にお笑い芸人の修行とはかけ離れた、
まるで、私立の甲子園常連高校の部活さながらの熱気と、ストイックさが
ほとばしり「一体オレ達は何を目指しているのか?」と、
少しばかり疑問に思われるほどの熱心な、たけしタップスクールが新たに幕をあけたのでした。

つづく・・・。

まだつづくの?これ? しかし引っ張るな~

写真


写真は、髭をそる姿さえセクシーな、幼少の頃、カブトムシに紐をくくりつけ、神社の賽銭箱からUFOキャッチャーの要領で御賽銭を取ろうとして失敗した過去のある、足立区出身の北野武さんです。

2013.7.20   アル北郷

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〆さばアタル・プロフィール

生年月日:1968年11月4日
出身地:香川県
1989年にビートたけしに弟子入り漫才師として「ダウソタウソ」「ウッチャソナソチャソ」「ダッチョ倶楽部」など師匠につけられたパチモノのコンビ名で活動。現在は「情報7daysニュースキャスター」などで自称ブレーンを務める。

アル北郷・プロフィール

生年月日:1971年8月26日
出身地:東京都
96年、ビートたけしに弟子入り。
08年、映画「アキレスと亀」にて東京スポーツ映画大賞新人賞受賞。
現在TBS系「情報7daysニュースキャスター」ブレーン。「週刊アサヒ芸能」にて「決して、声に出して読めない たけし 金言集」好評連鎖中

 

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