土曜の夜と、たけしと僕

第11回 2013年6月18日

「殿とタップと僕」その1

先ごろ、某飲料水メーカーのCMにて、水辺でタップダンスを踏む
ビートたけしの姿を見かけた方も多いと思います。

殿はもうずいぶんと昔からタップダンスをかなり真剣に稽古されていて、
その稽古に、僕ら、たけし軍団若手も参加させていただき、
夜な夜な殿とステップを踏んでいた日々がありました。

ありました。と過去形で書いたのは、
それはもうずい分と昔の話であり
今は、殿と若手が仕事終りに夜な夜な集まり、みなで稽古をすることはめっきりとなくなりました。

あの頃、とにかく毎晩、殿邸の地下室でタップを2時間、
その後、
殿と一緒にお食事をし、酒を飲むといった、かなり濃密な時間を過ごしていました。

ビートたけしとタップの歴史はとにかく古く
殿が修行時代に過ごした、浅草のフランス座から始まります。

フランス座にて、師匠となる深見千三郎さんから、
殿がタップの手ほどきならぬ、‘足ほどき‘を受けたのは有名な話ですが、
殿はその後、浅草を飛び出し漫才ブームにのり、売れに売れまくり、
弟子をとり、やがてたけし軍団の面々にもタップを習得するよう命じ、
軍団はその成果を、当時殿がやられていた“歌のコンサート”の中で
いかんなく披露されていました。もう25年以上も前の話ですが。

この後、長きにわたり、しばらく殿はタップをされない時期があったのですが、
今から10年程前、
「よし、じじになってタップとピアノのショーをやるぞ」
と宣言し、最初は自宅の地下室にて、一人黙々とタップの稽古を開始したのです。

写真

この時期、僕は殿の付き人として、日々、殿と行動を共にしていたのですが、よく、テレビの収録の合間などに、スタジオの隅にてカタカタと衣装の
革靴でタップを踏む殿の姿をすぐ横で見ていました。

そして、その軽やかなステップの数々を目撃しては
「今のかっこいいですね」だの
「それはなんというステップですか?」だのと、
実際に自分がやってもいないくせに、なんとなく
『僕もタップには興味あります』
といった姿勢をとっていたのです。

あの頃、僕は殿に「タップを僕にも教えて下さい」という勇気がありませんでした。なぜにタップを教わるのに勇気が必要か?

詳しく説明するとこうです。

殿にタップの教えを乞えば、きっとすぐに
「じゃー明日からお前もオレんちの地下室で一緒にタップをやるか」
となるのは明らかでした。

が、殿が毎日稽古されている中で、自分が、“なんらかの理由”で
タップの稽古に顔をだす回数が減り、やがて殿から、
「あいつは根性のないだらしのない奴だ」
といったレッテルを貼られるのが怖かったのです。

で、その“なんらかの理由”とは?
当時僕が主に仕事としていたお笑いライブと、そのライブのための打ち合わせ
あたりの事であり、そんなもの、殿から見れば、決して仕事とは呼べぬ代物の、
“若手が通る通過儀礼的なお仕事の数々”のことです。

ようするに、週に7本もテレビのレギュラーをやられている殿に、
レギュラーなど、テレビなど全くといっていい程出ていない僕が、
ライブなどが理由で
殿、すいませんちょっと仕事で今日のタップの稽古は行けません」
などとぬかし、ちょこちょこ稽古を休むようなことが続けば、
たとえそれが、いつかテレビなどに出るためのステップとしてライブという
お仕事であったとしても、
「なんだ、あいつは自分からタップをやりたいと言っておきながら
最近稽古に来ねーじゃねーか。やる気ねーな」
といった視線を向けられる可能性は十分にありえると思われ、
とにかく
殿、僕にタップを教えてください」
とは、軽はずみに言えなかったのです。

タップの稽古に志願して参加し、殿との距離が縮まるのは、大変喜ばしいことではありますが、距離が近づいたゆえに、殿をしくじる、嫌われてしまうといった事もケースも十二分に予知できたことであったのです。

ビートたけしの弟子になるということは、大好きな人の、憧れだった人の
すぐそばにいられる幸せと、当たり前ですが、そばに行き過ぎたがために、
その大好きなビートたけしから、嫌われてしまう恐れがはっきりとあるということなのです。

ですが、
僕はとにかく好きになった人は、近く強く接しないと気がすまない性分であるようで、過去、馬があった友人とは、とにかくとことん一緒に深くつきあってきました。
男性が特に好きだとか、そういったことではないですよ。

で、
思春期にテレビでビートたけしを見て、憧れ、
「よし、絶対に自分はあの人のそばにいく」
と決め、弟子入りを志願したのはもう当然の流れであったわけです。

少し話がぶれました。話をタップの稽古に参加する勇気に戻しましょう。

とにかく、あの頃、日々殿がスタジオの隅などで踏み鳴らす
タップを見るたびに、心の中で
「あー殿からタップを教わりたいな・・・
でも、タップをやると殿に宣言してはたして後々大丈夫だろか? 」
といった、今思えば実に勇気のない、腑抜けた思考回路を堂々巡りさせていたのです。

そして、そんな日々が半年程続いたある日、いつものように殿がテレビ局の
スタジオの隅でステップを踏む姿を見ていると、
突然殿から
「おい、こんなステップもあるんだぞ、ちょっとお前やってみろよ」
と、僕にタップを踏むよう促してきたのです。

もちろん、いきなりそのステップが出来はずもなく、僕は生まれたての子馬のごとくよろよろとバランスを崩し、何度か倒れそうになったのです。
すると
「だろう、見るとやるとじゃ全然ちがうだろ」
と、殿はぽつりと漏らし、
また一人黙々とタップを踏み出したのです。

この時、僕は一人勝手に興奮し、心の中で、
これはきっと
『お前はいつまでもタップを見てるだけか?自分からやるとはいわねーのか?』
といった殿からの問いかけではないか!そう強く思い込み、
もういても立ってもいられず、すぐさま

殿、僕にもタップを教えて下さい!」
と、スタジオの隅で口走っていたのでした・・・。

その後の話はまた次回に

ちなみに写真は、なんとか日々殿の近くに入りたく、
殿の仕事を覗き込むふりをして、
無理にでも近づく土曜の夜のわたくしです。

2013.6.18   アル北郷

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〆さばアタル・プロフィール

生年月日:1968年11月4日
出身地:香川県
1989年にビートたけしに弟子入り漫才師として「ダウソタウソ」「ウッチャソナソチャソ」「ダッチョ倶楽部」など師匠につけられたパチモノのコンビ名で活動。現在は「情報7daysニュースキャスター」などで自称ブレーンを務める。

アル北郷・プロフィール

生年月日:1971年8月26日
出身地:東京都
96年、ビートたけしに弟子入り。
08年、映画「アキレスと亀」にて東京スポーツ映画大賞新人賞受賞。
現在TBS系「情報7daysニュースキャスター」ブレーン。「週刊アサヒ芸能」にて「決して、声に出して読めない たけし 金言集」好評連鎖中

 

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