土曜の夜と、たけしと僕

第5回 2013年5月7日

「弟子入り志願」

「すすすいません。ででで弟子にして下さい!」
今から16年程前、渋谷の某スタジオ前にて、死ぬほど緊張しながら、
至近距離のビートたけしに、僕はこう叫びました。

そして、運よくその日のうちになんとかたけし軍団に潜り込むことができ
今、こうして殿の周りで仕事をしています。夢のようです。

16年前のあの日の光景は今でも鮮明に覚えていて、
殿が着ていた服、殿に言われた言葉もさることながら、
なにより、あの時の自分の切羽詰った「絶対に僕はビートたけしの近くに行く」といった、今思えば、‘危害を加えないストーカー‘のような強い気持ちも、はっきりと思い出すことができます。

あの時ほど、恥も外聞もなく、思いつめたことは後にも先にありません。

今、この時期、16年前の僕同様、「たけしさん。弟子にしてください!」と、明らかに緊張し、怖いほど思いつめた表情で、殿の元に弟子入りを懇願する者が、一年のうちでもっとも多い季節です。

この時期に弟子入り志願者が殺到する理由はわりと簡単で、
大学受験に失敗した、もしくは就職先がきまってないから、などが大半であり、誰にとっても、少し前の桜の咲いた時期、そして、さくらの散った今時分は、新たな一歩を踏み出すには、タイミング的に、実に分かりやすい季節なのです。

かつて
殿の元にはさまざまなタイプの弟子入り志願者が現れました。
「たけしさん。弟子にして下さい」
「悪いけど今は弟子を取ってないんだよ・・・。」
「そうですか・・・。だったら森進一さんの事務所を紹介してくれませんか」
「お前は一体何になりたいんだ!」

こんな、嘘のような弟子入り志願もいたのです。

中には
死ぬほど懇願し、弟子入りを許され
殿から「オレの付き人になったらなにかと移動が大変だから、これでスクーターを買うように」と、まとまったお金を譲り受けるも、そのお金を
ソープランドに使ってしまい、あえなく去っていた者。

殿はこういったさまざまな弟子入り志願者、及び、弟子になってもすぐに
去っていった者たちを、この30何年と見続けているわけです。

ですから、自分の経験も踏まえたうえで思うのは
殿に弟子入りをお願いする側の人間にとって、
いきなり道端で、テレビの中でしか見たことのない、憧れの‘リアル・ビートたけし‘に
「すすすすいません。でででで弟子にしてください」
と、ど緊張しながら声をかけるのは、もう一大決心であり、
非常に勇気のいる、人生を賭けた大変な非日常的行動なのです。

殿にとっては、今まで散々見てきた、よくある、よく見る光景であり、
「またか」と思うことこのうえない日常的な出来事です。

ですが殿は、
よっぽど失礼な頼み方さえしなければ
基本、弟子入り志願に対し、
「今は弟子はとってないけど、もしあれだったら今度ネタでも持って来いよ」などと
なんともやさしい対応をされます。
で、もう
そこから先の、弟子になれるかなれないかは、殿の機嫌であったり、タイミングであり、それはそれ、運次第です。

ここまで書いていて、なんとも腑に落ちない話ですが、今現在、殿は弟子をとっていません。はい。


話をもどしましょう。

この季節にやってくる弟子入り志願者を見ると、僕は、かつての自分の姿を思い出すのは当然として、
さらに
以前、殿がよく言われていた言葉が毎回頭に浮かびます。

「最初は運が一番大事だったりするからな。だってよ、今までオレのところに来たがってた奴なんて山のよういたんだぞ。その中でお前らは今こうしてとりあえずはオレの弟子として、顔を合わせているわけだろ、運以外なにものでもないだろ」と。

さらに殿は続けます。

「だけどあれだぞ、芸能なんて運が左右する仕事でよ、最初にその運を使い果たしちゃったってこともあるからな。オレの所にきたのがいいことなのか、それともどっか他でお笑いを目指すことがいいことなのか、こればっかりは分からねーな」と。
とにかく
しつこいようですが、殿は今現在、弟子はとっていません。

最後に、この写真の男こそ

写真

2年半ほど前、「ニューキャスター」終りの殿を待ち伏せし
路地裏にて弟子入りを志願し、運よく殿から弟子入りを許され、
早々と付き人になり、その付き人初日に、殿を前にしての緊張から、
なんとTBSの楽屋にて、一瞬意識を失い、倒れ、机の角に頭をぶつけ、
そのまま慶応病院の救急へと運ばれ、おでこを3針縫った男であり、
今現在、「ビートたけし最後の弟子」
といった称号を持つ、男でもあるのです。

とにかく、自分も含め、さまざまな種類の人間が、この30数年間、
勝手な思い込みを抱き、ビートたけしを目指し、思いつめ
「でででで 弟子にしてください!」と路地裏で叫んできたわけです。

そんな、ある種怨念にも似た、一方的な強い思いを
殿は時には受け止め、時にはかわし、実に長い間、処理してきたわけです。

お前は何がいいたいのだ? 

ですから、この世の中には、もう、なるべくして‘親分‘になる人間ってのが、
はっきりといるということを、殿を見ていて、実によく分かるということなのです。

2013.5.7   アル北郷

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〆さばアタル・プロフィール

生年月日:1968年11月4日
出身地:香川県
1989年にビートたけしに弟子入り漫才師として「ダウソタウソ」「ウッチャソナソチャソ」「ダッチョ倶楽部」など師匠につけられたパチモノのコンビ名で活動。現在は「情報7daysニュースキャスター」などで自称ブレーンを務める。

アル北郷・プロフィール

生年月日:1971年8月26日
出身地:東京都
96年、ビートたけしに弟子入り。
08年、映画「アキレスと亀」にて東京スポーツ映画大賞新人賞受賞。
現在TBS系「情報7daysニュースキャスター」ブレーン。「週刊アサヒ芸能」にて「決して、声に出して読めない たけし 金言集」好評連鎖中

 

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