寺田的世陸別視点

今日はここに注目! Day10(最終日) 8月13日
男子50km競歩で荒井が“連続メダル”に挑戦
男子20km競歩も“連続入賞”のチャンス
◇◇◇◇◇出場日本人選手◇◇◇◇◇
▼男子50km競歩 7:45(15:45)
荒井広宙(自衛隊体育学校)
小林 快(ビックカメラ)
丸尾知司(愛知製鋼)
▼男子20km競歩 12:20(20:20)
高橋英輝(富士通)
藤澤 勇(ALSOK)
松永大介(富士通)
▼女子20km競歩 14:20(22:20)
岡田久美子(ビックカメラ)
最終日は“競歩デイ”。史上初めて競歩3種目が同日に行われる。
コースはバッキンガム宮殿とトラファルガー広場を結ぶザ・マル(The Mall)。1往復2kmでバッキンガム宮殿前のロータリーを回って折り返すのが特徴だ。
日本勢は男子50kmで荒井広宙が、銅メダルのリオ五輪に続く2年連続メダル獲得を狙う。2年前の北京大会でも谷井孝行(自衛隊体育学校)が銅メダルを取っているので、世界陸上でも2大会連続になる。
男子20kmはリオ五輪7位の松永大介を中心に、ベテランの藤澤勇、スピードの高橋英輝のトリオで入賞を狙う。そして女子20kmは岡田久美子が、どこまで入賞に迫ることができるか。
夜の部では女子5000mで、超人BIG7のA・アヤナ(エチオピア)が1万mに続く2冠を狙う。
男子50km競歩はリオ五輪金メダルのM・トート(スロバキア)がドーピング違反の疑いで暫定資格停止を受けている最中で、銀メダルのJ・タレント(豪州)が太腿裏の故障で欠場する。銅メダルの荒井がリオ五輪の順位では一番上、ということになったが、荒井に気負いは見られない。
2日前(8月11日)の会見で、次のように現状と展開予想を話した。
「計画していたトレーニングはすべて、順調にやってきました。コンディション的にも良い感覚です。展開がこうなる、という予想はしていません。集団で進めて、35km、40kmで勝負どころが来ると思うので、そこで抜け出す王道のレースプランです」
北京世界陸上もリオ五輪も5km毎を22分前後、1周(2km)を8分48秒ペースで進んだ。最後の5kmが北京は23分10秒で、リオは22分11秒。勝負をかけるポイントまでは予測できないが、金メダルのためにはリオの時より30秒速い、21分40秒前後まで上げることが必要だろう。
前半から仕掛ける選手が現れるとすれば、世界記録保持者のY・ディニ(フランス)か。だが、成績もペースも不安定な選手で、荒井は「無理してついて行くよりも、様子を見て体力を温存します」と言う。ディニが世界記録(3時間32分33秒)のときのような好調さだったらあきらめるしかないが、15年以降は以前のタイムを出せていない。
リオ五輪4位のE・ダンフィー(カナダ)や、13年モスクワ世界陸上金メダルでリオ五輪6位のR・ヘファーナン(アイルランド)、リオ五輪5位の于偉(中国)らがライバルとなる。そうしたライバル選手に対し、荒井から仕掛けられたら好調の証。
「オリンピックで悔しい思いをした選手が、力をつけているはず。ダンフィー選手は好調だと聞いていますが、私も好調です」
いつも穏やかな話しぶりの荒井が、いつもよりも少しだけ闘志を見せていた。
男子20kmの松永は、レース展開については「読めない部分が大きい」と、次のように考えている。
「ハイペースなら、まずはついていく展開になります。無駄に前に出ないで余力を残し、ラスト5kmに備えます。ハイペース、スローペースにかかわらず、ラスト5kmで余力を持てるようにすることがポイントです。スローになるとラスト5kmの変化が激しくなりますが、そこで対応する準備もここまでしてきました。どちらの展開になっても臆せず、世界に挑みたい」
男子20kmは2km毎を7分50秒台で進む。
リオ五輪は16kmまで松永も先頭集団にいたが、残り4kmを金メダルの王鎮(中国)は15分08秒で上がったのに対し、松永は16分16秒だった。
いきなり昨年の王のレベルに上げるのは難しいが、15分30秒程度に上げられればメダルに届く。
女子20kmの岡田久美子は、五輪&世界陸上初代表だった2年前の北京世界陸上が25位、昨年のリオ五輪が16位と、順位を上げてきている。
「リオと違って涼しいので、前半からハイペースになると思います。それに後れないように、戦える位置でレースを進めたいと思います」
速いペースを想定した練習も、しっかりとこなしてきたという。
女子競歩の五輪&世界陸上最高順位は、2009年ベルリン大会の渕瀬真寿美の7位入賞。いきなり入賞までは難しいかもしれないが、2年後のドーハや3年後の東京オリンピックで入賞するために、そのステップとできる成績を期待したい。
寺田 辰朗(てらだ たつお)プロフィール
陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。
一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。
選手、指導者たちからの信頼も厚い。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。
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