8月4日開幕

寺田的世陸別視点

第18回2017.08.08

今日はここに注目! Day5 8月8日
バンニーキルク、人類初の42秒台なるか?

世界記録保持者や金メダリストなど、本命選手が勝てない可能性も?

大会5日目は日本選手が1人も出場しない日となったが、5種目が行われる決勝種目には注目選手が相次いで登場する。
男子400mには世界記録保持者のW・バンニーキルク(南アフリカ)が登場。自身の持つ世界記録(43秒03)の更新と、史上初の42秒台突入の期待がかかる。
ただ、準決勝を見るとS・ガーディナー(バハマ)が43秒89と、唯一人43秒台をマーク。3組1位(44秒30)のマクワラと、今季43秒70と急成長のF・カーリー(米国)も力がある。バンニーキルクも絶対とは言えない。
男子3000mSCと棒高跳も世界記録保持者など本命選手がいるが、本当に勝つことができるのだろうか。

男子400m決勝の一番の興味は、世界記録保持者のバンニーキルクが人類初の42秒台を出すのかどうか? 200mとの2冠を狙うバンニーキルクは、今大会でウサイン・ボルト(ジャマイカ)から、陸上界中心選手の座を引き継ぐとも言われている存在だ。
だが、準決勝の結果で男子400mが風雲急を告げてきた。1組で手脚の長い選手が良い動きを見せて43秒89をマークしたのだ。S・ガーディナー(バハマ)という21歳の選手で、同国初の43秒台の快挙だった。同じ組には今年43秒70と、全米学生記録を塗り替えたカーリーがいたが、そのカーリーを寄せ付けなかった。
準決勝2組はバンニーキルクが44秒22で1位通過。3組は対抗馬の一番手と言われたI・マクワラ(ボツワナ)が44秒30でトップ通過した。

バンニーキルクとマクワラはどちらも、200mでも世界トップレベルの19秒台のスピードがある。
バンニーキルクは100mも9秒94を持ち、9秒台&19秒台&43秒台を達成した初めての選手となった。
それに対してガーディナーの200m自己記録は、3年前の20秒66。だが、準決勝の走りを見る限り20秒前半は簡単に出しそうな躍動感があった。おそらく200mにはほとんど出場していないのだろう。今季急成長しただけに、リオ五輪準決勝止まりなど、昨年までの実績は参考にならない。
不気味な21歳が、バンニーキルクから主役の座を奪う可能性もゼロではない。

男子3000mSCはケニアの五輪&世界陸上での連勝が続いている種目。世界陸上は07年大阪大会以降、五輪は1984年ロサンゼルス大会以降、ケニア選手しか勝っていないのだ。今大会にも2009年ベルリン、11年テグ、13年モスクワ、そして15年北京と世界陸上4連勝中のE・ケンボイ、昨年のリオ五輪を制したC・キプルトが出場する。
 だが、ここに来てケニア勢ピンチ、の声が挙がるようになった。リオ五輪銀メダルのE・ジャガー(米国)が7月のダイヤモンドリーグ・モナコ大会に優勝。リオ五輪4位のS・エルバカリ(モロッコ)は6月のストックホルム大会、7月のラバト大会とダイヤモンドリーグに優勝した。リオ五輪銀メダルのM・メキシベナバド(フランス)は今季のレース数を絞っているが、世界陸上にしっかりと合わせてきた。
ケンボイは“3000mSCのファラー”ともいえる選手で、ラストの競り合いになったら絶対に負けない。それに対しキプルトは、ケンボイよりも早めに勝負を仕掛けるタイプ。ケンボイの衰えが見られるので、障害の巧拙も含めた総合的な力の勝負となりそうだ。
以前はケニア勢が圧倒的な走力で上位を独占していたが、ジャガーやエルバカリは5000mでも13分02〜10秒のタイムを持ち、ケニア勢に対抗できる。
ケニア勢がどこでスパートするか。その点だけを注目して観戦してきた種目だが、今大会はケニア勢以外にも注目すべきだろう。

男子棒高跳は世界記録保持者のR・ラビレニ(フランス)が“5度目の正直”に挑む。
ダイヤモンドリーグがスタートした2010年から昨年まで、7年連続で年間チャンピオンになるなど、安定した強さでは間違いなく世界ナンバーワンの選手。12年のロンドン五輪を制し、14年には6m16と世界記録も打ち立てた。
ところが世界陸上だけは勝つことができず、09年ベルリン銅メダル、11年テグ銅メダル、13年モスクワ銀メダル、15年北京銅メダルと、4大会続けてメダルは獲得しているが、なぜか勝つことができない。
北京金メダルのS・バーバー(カナダ)、リオ五輪金メダルのT・ブラス・ダシルバ(ブラジル)、リオ五輪銅メダルのS・ケンドリクス(米国)らがライバルとなるが、不調のダシルバが欠場。今季の試合で全勝を続けているケンドリクスが、最大のライバルになる。
ラビレニにとって好材料は、同じ会場で行われたロンドン五輪で勝っていること。パスも用いた難しい勝負になったが、冷静に勝利を手繰り寄せた。
“世界陸上で勝てない世界記録保持者”という肩書きを、5年前に優勝した思い出の地、ロンドンでラビレニが返上できるのか。今大会の勝負の中でも、とびきりの好カードといえる。

寺田 辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。
一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。
選手、指導者たちからの信頼も厚い。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。

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