寺田的世陸別視点

今日はここに注目! Day9 8月12日
メダルを狙う男子4×100mR。
勝敗を決するのは3走か4走の起用が予想される桐生か?
ボルトとファラーが世界陸上ラストラン
◇◇◇◇◇出場日本人選手◇◇◇◇◇
▼男子十種競技 後半5種目
右代啓祐(スズキ浜松AC)
中村明彦(スズキ浜松AC)
▼男子4×100mR予選 10:55(18:55)
日本
▼男子4×400mR予選11:50(19:50)
日本
▼男子4×100mR決勝 21:50(13日5:50)
日本 ※予選を突破した場合
●4×100mR
大会最後の2日間は、日本のメダルが期待できる種目が続く。9日目はリオ五輪で銀メダルを獲得した男子4×100mRが、午前中に予選、夜に決勝が行われる。
日本は200m7位入賞のサニブラウン(東京陸協)が、そのレースでハムストリングを痛めたため起用できない。走力的にはマイナスだが、チーム力としてはそれほどマイナスにならない。今の日本チームはそのくらい充実している。
リオ五輪で2走だった飯塚翔太(ミズノ)、3走・桐生祥秀(東洋大)、4走・ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)のメンバーをそのまま使い、1走に日本選手権100m2位の多田修平(関学大)が入るオーダーが本命だ。だが100mを見る限り、ケンブリッジの状態が昨年ほど上がっていない。競ったときに力まないケンブリッジの起用が優先されそうだが、日本選手権200m2位の藤光謙司(ゼンリン)が4走に入る可能性もある。
もう1つ、桐生4走案もある。
桐生は前に目標とする選手がいると、走りにスイッチが入る。そうなると飯塚、藤光で2・3走を受け持つことになる。ただ、リオ五輪で桐生が走った3走の区間タイムは驚異的な速さで、その代わりができる選手は見当たらない。
どちらの走順になっても、桐生のところで勝負を決するオーダーになるのではないか。
予選は2組行われて各組3位までは着順で通過し、4位以下全チームの中から記録の上位2チームが決勝に進む。
日本が出場する1組は米国、トリニダードトバゴ、英国が強敵。日本はリオ五輪で37秒60の日本新を出したが、昨年のシーズンベストは米国37秒65、英国37秒78、トリニダードトバゴ37秒96と拮抗している。さらには、200mで優勝したR・グリエフを擁するトルコも不気味な存在だ。
とはいえ、日本のリレー文化はやはり、世界一だろう。バトンパスのノウハウと、その練習にかける時間は他国に負けることはない。日本が予選で落ちることは、まずないと見ていいだろう。
そして夜の決勝では、ジャマイカ、カナダ、中国が昨年の37秒台チーム3つが加わる。カナダのアンドレ・ドグラスが欠場するなど、昨年より力が落ちているチームもある。リオ五輪決勝では5チームが37秒台を出す異例の多さだったが、今年は例年に戻って37秒台は2~3チームだろう。メダルを取るためには、37秒台が目安となる。
日本にばかり目を奪われてもいられない。男子4×100mR決勝はウサイン・ボルト(ジャマイカ)の世界陸上ラストランでもある。アンカーの起用が濃厚で、チームメイトはボルトに花道を飾らせようと、好位置でバトンを渡そうと全力を尽くす。
バトンパスはカーブを走る1・3走がコース内の内側を走るため、直線走者はコース内の外側を走る。2・4走は左手でバトンを受け取るが、ボルトはすぐに右手にバトンを持ち換える。リオ五輪でケンブリッジの持つバトンとボルトの持つバトンが接触したのは、ボルトが右手にバトンを持っていたからだ。
1991年東京世界陸上では米国4走のカール・ルイスが、同じようにバトンを持ち換えた。バトンを渡す必要のない4走で、走力がずば抜けている選手がすることが許されている。“ラストボルト”の勇姿は、バトンの持ちかえとともに記憶される。
ボルトと同様、ファラーのトラック最後のレースとなる男子5000mも注目を集めそうだ。
大会初日の1万mを見てわかる通り、世界記録を出すような選手が現れない限り、ファラーはどんな展開になっても負けないだろう。2012年以降の五輪&世界陸上で5大会連続長距離2冠という、前人未踏の偉業を達成してトラックを去って行く。
ボルトとファラーのラストランに、4×100mR日本のメダル獲得。世界陸上ロンドンはいよいよ、クライマックスを迎える。
寺田 辰朗(てらだ たつお)プロフィール
陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。
一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。
選手、指導者たちからの信頼も厚い。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。
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