8月4日開幕

寺田的世陸別視点

第22回2017.08.10

サニブラウンと末續慎吾。200mで14年ぶりのファイナリストを実現
「(決勝は)メダルラインに体を叩き込めればな、と思います」

世界陸上パリ大会銅メダルの末續慎吾(当時ミズノ)以来、14年ぶりの日本人ファイナリストが誕生した。サニブラウン・アブデル・ハキーム(東京陸協)が9日の200 m準決勝2組で2位(20秒43・向かい風0.3m)となり、10日の決勝進出を決めた。
メダリストと比較するのはまだ早いかもしれないが、末續と比べることでサニブラウンの特徴を明確にしたい。

準決勝での期待感は末續が上だった

ヨハン・ブレイク(ジャマイカ)を筆頭に、自己記録が上の選手4人を抑えたサニブラウン。準決勝の走りを次のように振り返った。
「ラッキーっていう感じですね。後半、誰も来なかったので、このまま(決勝に)行けるかな、と思いながら走っていました。今日は最初の100mに集中していって、本当に良い具合で伸びたので、そこが良かったのかな」
決勝進出はもちろん期待されていたが、客観的に見れば予想以上の印象もある。
予選は20秒52(向かい風0.5m)。全体で19番目のタイムで、内容的にもいまひとつの感じがあった。スタートのリアクションタイムが0.193秒と遅めで、フィニッシュ前も必死の表情。ゆとりが感じられなかった。決勝進出は次回に持ち越しか、という雰囲気が出ても仕方なかった。

その点、末續のパリ大会準決勝は日本中の期待を背負ってラウンドを進めた。当時は決勝まで4ラウンド。1次予選は後半を大きく流して20秒58。その組1位通過を果たし、2次予選は20秒24でその組の1位、全体でも3番目の記録で準決勝に駒を進めた。
普通に走れば準決勝通過は可能という状況だったし、取材する側も、初の決勝進出を期待して前のめりになっていた記憶がある。
それに比べるとサニブラウンは、いきなり準決勝を突破した印象である。

日本選手権2冠が共通点も、タイムは末續が上

タイム的には20秒03の日本記録(当時アジア記録)を持つ末續が、20秒32が自己記録のサニブラウンを大きく上回っている。その点でも、末續への期待は大きかった。サニブラウン自身もタイムには不満顔で、「あまり(決勝進出を決めた)実感がないですね。(20秒43の)タイムがタイムですし」と話しているほどだ。
その一方で、2年前の北京世界陸上準決勝との違いを質問されると、次のように話した。
「2年前は一番外のレーンに入って、みんなに後ろからガーッと行かれて、何もできませんでした。今回、タイムは15年(20秒47)とあまり変わりませんが、内容的にはまだましな走りができた。少しは成長できたかな、と思います」
内容が良くなっているということは、条件に恵まれれば自己記録を大きく伸ばしてくることが予想される。

伊東浩司強化委員長は、2人の決勝進出について次のように話した。
「末續選手は20秒03という記録を持って世界陸上に臨み、メダルを取りに行く、という王道で決勝に残りました。今回のサニブラウン選手は気温が低く記録が出なかったり、シードレーンでなかったりと(決勝が期待できる)プラス材料がないなかで決勝を決めました。末續選手のすごさを改めて感じるとともに、サニブラウン選手の可能性も今日、感じられました。2位に入って何の違和感もありません」
200mの自己記録以外は、共通点が多い2人でもある。日本選手権で100mと200mの2種目に勝っている点もその1つ。今年のサニブラウンの2冠は、2003年の末續以来14年ぶりのことだった。
また、2人ともメジャー国際大会のタイトルを取っている。末續は00年シドニー五輪、01年エドモントン世界陸上と準決勝に進出すると、02年釜山アジア大会で金メダルを獲得した。サニブラウンは15年北京世界陸上で準決勝まで進んだが、同じ年の世界ユース陸上で100mと200mの2冠。2人とも国際舞台で萎縮することなく力を発揮できるタイプだ。

ボルトより若い決勝進出も「戦えなければ意味がない」

サニブラウンが北京世界陸上に出場したときの16歳172日は、男子200 mの世界陸上出場選手すべてで最年少記録だった。そして今年のサニブラウンは18歳150日で、あのウサイン・ボルト(ジャマイカ)の決勝進出最年少記録の18歳355日を更新した。
末續との比較では、末續はパリ大会当時、東海大を卒業して1年目だった。それに対してサニブラウンは城西大城西高を卒業して1年目。この4学年の違いが、期待感の違いの大元だろう。サニブラウンが力を発揮するのはもう少し先。そういう雰囲気が周囲にはあった。

そういった雰囲気に、サニブラウン自身は甘えにしないようにしている。
「最年少で決勝に出たとしても、戦えなければ意味はないと思います。戦えるように、しっかりと今日は休んで、決勝に合わせたい。決勝では先頭集団に食い込んで、メダルラインに体を叩き込めればな、と思います」
決勝進出者のなかで、準決勝のタイムは最下位の8番目。準決勝4番目のタイムで通過した末續とは、そこが大きく違う。
だが、ノビしろという点では、サニブラウンに期待できる部分は大きい。
200mの自己記録に差はあるものの、100mの自己記録は末續の10秒03に対し、サニブラウンも10秒05と負けていない。日本選手権で10秒0台を3連発し、今大会でも100m予選を10秒05で走り、世界陸上日本人最高タイムをマークした。
200m決勝のコンディションが良ければ、20秒0台を出してくる可能性は高い。本人が言うように、メダルラインに大きく接近することも十分ある。

寺田 辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。
一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。
選手、指導者たちからの信頼も厚い。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。

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