寺田的世陸別視点

今日はここに注目!Day1 8月4日
初日からボルトとファラーが登場!
男子1万mは日本の実業団チーム在籍のタヌイ、カロキがファラーの牙城に迫る
男子100mの多田が予選突破に挑戦
いよいよ開幕する世界陸上ロンドン大会。第1日はウサイン・ボルト(ジャマイカ)とモハメド・ファラー(英国)、今大会で最も注目を集める2選手が登場する。2人の共通点は、2011年のテグ世界陸上の失敗を、翌年のロンドン五輪で克服したことだ。
男子100mは日本の3人も含め、標準記録を突破している選手は予選からの登場。19時(日本時間5日午前3時)からの予備予選が終わらないと、出場選手と組分け(スタートリスト)は確定しない。風向きや気温、湿度で記録は変わってくるが、過去の五輪&世界陸上の通過タイムを見ると、10秒1台前半を出せば間違いなく予選は突破できる。ロンドンは気温が低めなので、10秒2台前半でも通過できるかもしれない。
ボルトは鼻歌まじりで通過するが、日本勢は全力に近い走りをすることになる。もっともサニブラウン・アブデル・ハキーム(東京陸協)は、10秒0台で3本(予選・準決勝・決勝)走った日本選手権のレベルを維持できれば、最後で力を抜くこともできる。ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)も、リオ五輪で準決勝に進出した実績を持つ。
ボーダーラインと思われるのは多田修平(関学大)で、日本選手権2位の走りを再現できれば予選通過の可能性は高いが、世界大会初出場でそれができるかどうか。プラス要素は多田が、前半の飛び出しを特徴としていること。後半型の選手が国際大会に初めて臨み、前半で両サイドの外国選手に前に出られると、国内大会では感じないプレッシャーを受け、本来の力を出せないことも多い。多田がゴールデングランプリ川崎で中盤までジャスティン・ガトリン(米国)に先行した走りができれば、本来の力を出し切れるのではないか。
男子1万mはファラーの世界陸上3連勝がかかっている。五輪を含めれば6連勝に地元で挑戦する。
ライバルのケニア勢は何度も、集団戦法で挑んできたが、ファラーのラストの強さにことごとく跳ね返されてきた。ファラーは最後の1周を53秒前後でカバーする。ラスト1000mはモスクワ世界陸上が2分26秒2だった。残り1000mを切っての勝負になったら、ファラー優位は間違いない。
ただ、53秒前後は他の選手も出したことのある数字である。ファラーのすごさは自身の武器を完璧に生かすこと。スパートしやすい位置取りを実行し、タイミングを正確に判断できる。それができるようになったきっかけが、2011年テグ世界陸上での敗戦だった。残り1周以上の距離で自信たっぷりにスパートしたが、イブラヒム・ジェイラン(エチオピア)に最後の直線で抜き返された。「あのレースが自分を変えた」と、ファラーも話したことがあった。
日本勢は出場しないが、日本の実業団チームに在籍する2選手が出場する。九電工のポール・タヌイ(ケニア)と、DeNAのビダン・カロキ(同)の2人で、タヌイはリオ五輪銀メダルと、ファラーに最も迫った選手。カロキもロンドン五輪から五輪&世界陸上4大会すべて入賞している。
TBS解説者として現地入りした瀬古利彦さん(日本陸連マラソン強化プロジェクトリーダー)は、カロキの指導スタッフでもあるが、「残り2000mを5分ちょっとで上がらなければ、ファラーには勝てないのでは」と話した。ロングスパートに勝機があるということだ。
タヌイはトラック練習では1000m以上は走らないスピード型の1万mランナー。カロキは4月のロンドン・マラソンで3位に入るなど、持久的型の1万mランナー。2人が特徴を生かして挑み、ファラーの牙城を崩しにかかる。テグでファラーに勝ったジェイランも、当時は日本のHondaに所属していた。マラソンも含め日本の実業団在籍の外国人選手が、本番で予想を上回る快走見せることは多い。
寺田 辰朗(てらだ たつお)プロフィール
陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。
一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。
選手、指導者たちからの信頼も厚い。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。
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