寺田的世陸別視点

今日はここに注目! Day7 8月10日
超人BIG7が2人登場。テイラーは世界記録に、バンニーキルクは2冠に挑戦
サニブラウンの200m決勝は前半の走りに注目
◇◇◇◇◇出場日本人選手◇◇◇◇◇
▼女子5000m 18:30(11日2:30)
鈴木亜由子(JP日本郵政グループ)
鍋島莉奈(JP日本郵政グループ)
▼男子やり投予選A組 19:05(11日3:05)
新井涼平(スズキ浜松AC)
▼男子200m決勝 21:52(11日5:52)
サニブラウン・アブデル・ハキーム(東京陸協)
超人BIG7が2人登場する。
男子三段跳のクリスチャン・テイラー(米国)は世界記録(18m29)を、男子200 mのウェイド・バンニーキルク(南アフリカ)は400 mとの2冠を狙う。
日本選手は女子5000mに鍋島莉奈と鈴木亜由子のJP日本郵政グループ・コンビが、男子やり投には新井涼平(スズキ浜松AC)が出場する。3人とも予選突破を狙う。
テイラーは最後の6回目まで、目を離さないようにしたい。2年前の北京世界陸上では5回目までは17m68にとどまっていた。18mは難しいだろうと思われたが、6回目に18m21の世界歴代2位の大ジャンプを跳んで見せた。この種目のレジェンド、ジョナサン・エドワーズ(英国)の世界記録18m29に8cmと迫った。
今季も18m11のセカンド記録世界最高と好調。18mを超えた試合数は「4」となり、エドワーズの「3」を上回った。気象条件にも左右されるが、いつ世界記録を破ってもおかしくない状況だ。テイラー自身、今大会の目標を「エドワーズの母国イギリスで、世界記録を破ること」と敬意を込めた口調で明言している。
バンニーキルクは昨日(9日)の準決勝で、3組3位と着順で通過できる各組の2位以内に入れなかった。20秒28(追い風0.3m)でプラス通過ギリギリの2番目で決勝進出を決めた。
2冠を狙っているバンニーキルクは今大会、以下のように連日、走り続けている
5日:400m予選・45秒27
6日:400m準決勝・44秒22
7日:200m予選・20秒16
8日:400m決勝・43秒98
9日:200m準決勝・20秒28
過密日程の影響で疲れが出た可能性もあるし、「今日は抑えよう」という潜在意識が働いて、動きが鈍くなった可能性もある。
7月に出した19秒84はその時点で今季世界最高だった(現在世界2位)。日付が変わり、気持ち的にもスイッチが入れば、走りが別人のように変わることもある。バンニーキルクの2冠は、それができるかどうかにかかっている。
日本勢ではサニブラウンが200m決勝に登場する。日本選手が短距離個人種目の決勝に出場するのは、2003年パリ大会200mの末續慎吾以来14年ぶりだ。
外側の8レーンに入ったので、カーブが緩やかで飛ばしやすい。昨日も前半100mを上手く走れたことが準決勝突破につながった。元々、大舞台を楽しむことができる性格。世界最高レベルのレースでも、前半から自分の走りをするだろう。
自己記録はサニブラウン以外の7人全員が19秒台だが、シーズンベストが19秒台の選手は3人だけ。今のサニブラウンなら日本記録(20秒03)前後の走りは可能で、それができれば本人も話すように「メダルライン」に迫る可能性がある。
女子5000m予選には鍋島莉奈と鈴木亜由子のJP日本郵政グループ・コンビが出場。
鈴木は前回北京大会の5000mで9位。今大会の1万mでも力は出し切ったが10位と、惜しいところで入賞を逃し続けている。
五輪&世界陸上で2種目に挑戦するのは初めてで、疲れがどの程度影響するか未知数の部分はあるが、まずは予選を確実に突破して、最終日の決勝に望みをつなぎたい。
鍋島は日本選手権で見せたように、ラストの強さは鈴木以上。得意の展開に持ち込めれば、予選突破も期待できる。
男子やり投の新井涼平は今季前半は出遅れ、標準記録が突破できなかった。国際陸連によるインビテーションでの出場となったが、2年前の北京世界陸上、昨年のリオ五輪と予選を連続で通過している実力者。
83m00の予選通過ラインは、新井にとって難しい記録ではない。今季序盤の不調を吹き飛ばす大アーチを、ロンドンの空に架けたい。
寺田 辰朗(てらだ たつお)プロフィール
陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。
一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。
選手、指導者たちからの信頼も厚い。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。
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