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ジョン・ハーヴェイ 『血と肉を分けた者』 講談社文庫 1140円 2006年06月22日
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今日の担当は本の雑誌社・顧問の目黒考二さん (=文芸評論家の北上次郎さん)です。

ジョン・ハーヴェイ
『血と肉を分けた者』
講談社文庫 1140円

★久しぶりに本格的な翻訳ミステリの新作を紹介します。2004年の英国推理作家協会賞のシルバー・ダガー賞、2005の年バリー賞最優秀英国ミステリ賞を受賞。フランク・エルダー元警部を主人公とする新シリーズの第1作。

★16歳の少女ルーシーを残忍な方法で陵辱し、殺したドナルドが13年ぶりに仮釈放されるのが発端。ドナルドは当時殺された少女と同じ16歳の少年だった。ドナルドと共犯のマッケアナンを逮捕したのは、当時ノッティンガムシャー州警察の警部だったフランク・エルダー。エルダーは未だに14年前に失踪した少女スーザンの悪夢に悩まされていた。エルダーはルーシー事件でドナルドら逮捕した際、彼らがスーザンの失踪にも関与していると考えていたが、立証することはできなかった。

★エルダー元警部はすでに警察を退職しているが、ドナルドの仮釈放をきっかけに事件当時に失踪し、未だに行方不明の少女スーザンの捜査を開始する。そのうちにドナルドは姿を消し、新たな少女殺害事件が起きて、エルダー元警部の謎解きはますます混迷を深めていく。

★これがなかなか読ませる。ドナルドの生い立ちと彷徨(なんだか気持ちが痛くなる)、エルダーの家庭の事情(こちらは常套だが胸に沁みる)などが過不足なく描かれる。そういう細部がいいからどんどん惹き込まれてしまう。 さすがに英国推理作家協会賞のシルバーダガー賞を受賞しただけのことはある。

★だいたいこういう中年の、元刑事や元新聞記者の男が主人公の場合、そいつの私生活はうまく行ってない。この作品もその常套パターン。エルダー元警部も妻子と別居し、娘のキャサリンとはたまにしか会えないという淋しい生活をしている。よくあるパターンだが、こういうダメな中年男の話には、やはり共感してしまう。

★14年前に失踪したスーザンの行方は?仮出所して姿を消したドナルドは更正出来るのか?そして、スーザン、ドナルド、エルダー、それぞれに家族のドラマが展開する。このドラマがじわじわと効いてくる。

★親子の関係、少年少女への性犯罪、児童虐待など現代社会が抱えるヘヴィな社会問題がテーマにはなっているが、最後には希望がちゃんと残る。私はどんなに評判の良い作品でも、陰陰滅滅とした読んで落ち込むような小説は読みたくない。この作品も、正直読むか否か迷ったが、読んでみたら、決して救いのない作品ではなかった。どこに希望があるのかはネタバレになってしまうので言えないが、重い題材でありながら、これほど読後感の良いものに仕上げられるのは、やはり作者のうまさ。

★ちらりと登場する昔の部下モーリーン(彼女は私的なことをほとんど話さない)が強い印象を残している。おそらく巻を重ねていけば、この女性警部が再び登場するにちがいない。そういう長い付き合いを予感させる。「エルダー元警部シリーズ」、これからが楽しみな新シリーズの登場である。
泉麻人 『東京検定』 情報センター出版局 1260円 2006年06月15日
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今日の担当は書評家の岡崎武志さんです。

泉麻人『東京検定』
情報センター出版局 1260円


★今日御紹介するのは「東京」の検定本です。とはいっても、東京都が認定しているわけでも、これでいい点取ったからどうなるものではない。著者も「まえがき」で書いていますが、「よくある名所、史跡の歴史問題の類いはなるべく除いて、呑み屋で笑いながら問題を解きつつ、なおかつ東京の細部の知識が修得できる」ことを目的に作られた本です。だからあんまり真面目にならないで、読んで楽しめる東京本の一種と考えたほうがいい。まあ、ワールドカップ疲れの息抜きに。

★ぼくは1990年に大阪から上京してきまして、もともと東京のことはそんなにくわしくないんですが、それでも驚いたのが、この本の帯にも大きな文字で刷ってありますが、「昭和20年代後半、ロープウェイが存在した街は?」という問題です。しかも選択肢を見ると、1新宿 2浅草 3銀座 4渋谷 5新小岩 といずれも都心で す。こんな街なかにロープウェイ、ええっ、ホント? と疑いたくなる。答は渋谷。1951年、昭和26年8月25日、渋谷駅ハチ公口の上空、東横百貨店屋上と玉電ビル(いまの東急百貨店東横店西館)屋上とを「ひばり号」というロープウェイが開通した、と解説にあります。 2年後の53年には撤去されたそうなんですが、いま渋谷のハチ公前でたむろしている若い連中に教えてやりたいですねえ。「きみらの頭の上を、むかし、ロープウェイが……」って。「ウソ」「マジ」「スゲッ」って言うんでしょうか。

★「山手線の駅のなかで唯一東京オリンピック(1964年)より後にできた駅は?」というのも知りませんでした。そんな新しい駅が山手線にあったんですね。答は「西日暮里」で、1971年に地下鉄千代田線との中継のためにできたということです。痴楽綴り方狂室の柳亭痴楽、「破壊された顔の所有者」なんて言ってましたが、十八番の「恋の山手線」に「西日暮里と濡れてみたいが人の常」というフレーズを追加したそうです。このあたり、細かいですねえ。

★その痴楽の「恋の山手線」に関する問題もある。穴空き問題。山手線を洒落で折り込んだネタの、駅名を埋める。
「彼女に会いに○○ 行けば男が○○押し ○○○笑ったあのエクボ ○○減ったと○○顔 彼女に会えれば○○○顔」
答を埋めると
「彼女に会いに池袋 行けば男が目白押し 日暮里笑ったあのエクボ 原宿減ったと渋谷顔 彼女に会えれば恵比須」
いいですねえ。誰かがやれば、また流行るんじゃないか。

★そのほか、タクシー運転手が好んで使うマニアックな地名とか、フランク永井が歌った東京を舞台にした歌のタイトルとか(これ、いっぱいあるんですねえ)、東京23区の区の歌、「区歌」に関する問題とか、ぼくなんか、ほとんど答えられない難問ばかり。だからかえって、へえ、と思って楽しめるんですけどね。

★第一次オタク世代の泉さんらしい問題もあって、「ゴジラに最初に破壊された物件はどれか?」。1国会議事堂 2江戸城 3東京タワー 4服部時計店(和光) 5銀座松坂屋のうち、一つ。どうでしょう。東京タワーは有名ですが、あれは最初じゃない。答は5銀座松坂屋。1954年登場の初代ゴジラは、京浜地区に上陸し、銀座の松坂屋、服部時計店、森永の地球儀塔、日劇などを次々壊していくそうです。その後、森永の地球儀塔と日劇は本当に無くなってしまいました。

★最後に「東京力」の判定表と、検定修了証がついています。ぼくはたぶん「第四級」ぐらい。「もう少し基礎的な学習が必要です。東京タワーに上って、町を俯瞰するところから始めてみて下さい」とアドバイスされています。そういえば、東京タワーにもまだ上ったことがないんで、これを機会に上って、東京を勉強しなおそうと思っています。
大崎梢 『配達あかずきん』 東京創元社 1575円 2006年06月08日
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大崎梢 『配達あかずきん』
東京創元社 1575円


★書店を舞台にしたミステリー集。書店内で起こるさまざまな事件と謎を、書店員が解いていく連作。ここまで本格的な書店ミステリはおそらく日本初では ないか? 描いた事件とはいっても、殺人が起きるわけでなく、その大半は些細なことといっていい。それらの謎を、アルバイト店員多絵が探偵となって解いていく。ようするに日常の謎ミステリーというやつだが、これが読ませる。ぐんぐん読ませて、飽きさせない。

★成風堂という書店を舞台にした5編からなる連作だが、最初の『パンダは囁く』からして実にうまい。ある老人が人づてに頼んだ探求書のリストをいかに解読するか。このリストがまるで暗号で「あのじゅーさにーち いいよんさんわん ああさぶろうに」といった具合。この暗号が示す本は何か?この謎が書店員ならではの方法で解かれるが、書店員や書店によく行く人なら、なるほどと膝を打つだろう。

★『標野にて 君が袖振る』では、名作コミック『あさきゆめみし』を購入した年配の女性が突然失踪してしまう。果たしてその女性はどこに行ったのか?手がかりはどうやらこのコミックの中にある、、、

★「六冊目のメッセージ」では、病気で入院していた女性が成風堂書店を訪ねてきて、母親が書店員に選んでもらって差し入れてくれた5冊の本が素晴らしかったので、そのお礼を言いたいという。ところが、不思議なことに心当たりのある書店員がいない。その「書店員」とはいったい誰なのか?

★この作品が優れているのは、まず第一に登場人物のキャラクター造形が群を抜いていること。表題作に出てくるヒロちゃんがなんといっても素晴しく魅力的だが、わき役にいたるまで、個性豊かに活写されている。まるで親しい知人のような気がしてくる。物語がきりりと引き締まっているのはそのためだろう。

★第二は、書店員の仕事とその実態がディテール豊かに描かれていること。書店ならではの事件であり、書店員ならではの推理が展開する。これがひたすら楽しい。あるよなあこんなこと、という感想を書店員なら持つのではないか。

★ミステリーとしては少し弱いという批判があるかもしれないが、それを補ってあまりあるものがここにはある。それが美点の三で、つまりここには、品のいいロマンスの香気が立ち込めているのだ。読後、ほんわかした気分になるのはそのためだろう。特に5編のうちのある1篇は実は大ロマンスなのだが、恋愛がカギになっているということ自体がネタバレになってしまうので、ここではどの作品のことなのかは伏せておきたい。

★巻末に本物の女性書店員による座談会が載っているのもいい。そこで本書の書名が決まってしまったように、みなさん、なかなか鋭い。これなら書店内のさまざまな謎を多絵が解いてしまうのも当然だという気になってくる。すぐれた書店員には名探偵の素質があるものなのだと納得してしまう。
中谷綾子アレキサンダー 『サッカーW杯 英雄たちの言葉』 集英社新書 714円 2006年06月01日
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綾子アレキサンダー
『サッカーW杯 英雄たちの言葉』
集英社新書 714円


★いよいよワールドカップ開幕が迫って来ました。せっかく阪神が首位争いをしているのに、またサッカーに野球人気が取られてしまう時期でもあります。わたしはふだん、サッカーにはまったく関心ないんですが、ワールドカップは別。やっぱり血が騒ぐんですね。

★もちろん、試合が始まれば日本を応援するつもりですが、あんまりナショナリズム丸出しで、大騒ぎするのもどうかなあ、という気持ちも少しあるんです。せっかく、世界各国の選ばれた名選手、代表選手が集まって闘うのだから、日本を応援する気持ちは変わらないが、世界の名だたる選手の素晴らしいプレイも堪能したい。そんなとき絶好の参考書となるのがこの本です。

★著者はその名前、中谷綾子アレキサンダーでわかるとおり、日本人の父親、エクアドル人の母親のもとに、南米エクアドルで生まれ育ち、16歳のとき日本へ渡ってきました。東京農大を出て、商社勤務を経てスポーツライターとなり。スペイン語、ポルトガル語の通訳もできるということで、レアル・マドリードを中心に、各国のスーパースターたちに直接取材して生の声を聞いています。サッカーの戦術や技術論ではなく、人間ドラマに焦点を当てて、本書はそれが特徴になっている。

★たとえばブラジル代表のロナウド。97年から98年のセリエAで32試合で25ゴールをあげて「怪物」と呼ばれた選手です。ずっと栄光を浴び続けた選手だと思っていましたが、98年ワールドカップ、フランス大会の決勝前夜に身体に異常があり、結果、ブラジルはフランスに3対0で惨敗する。この98年は「悪夢の98年」と呼ばれ、以後もブラジルサッカーは低迷する。そのA級戦犯としてロナウドは批判され、その後怪我もあって、「怪物」はいつしか「お金のかかるお荷物」とまで嘲笑される。そんなことがあったんですね。サッカーファンには常識かもしれませんが、僕は知りませんでした。

★ちょうどそんなどん底の2001年に、著者はロナウドにインタビューしている。すると彼はこう言ったというんです。「怪我は、僕に大切な人は誰なのか、誰が僕の味方なのかを見極めさせてくれる、いま思うと、人生における最高の転機だったと思う」そして2002年の日韓ワールドカップ、ブラジル代表監督のスコラーリは周囲の反対を押し切ってロナウドを召集する。ロナウドはグループ・リーグ1試合目からゴールを決め、この年、ブラジルはワールドカップを手にする。今年、日本はブラジルと対戦しますが、そのとき、ちょっとこの話を思い出ながら観戦したいとおもいます。

★お次は、1990年後半、イギリス・ロンドンにスターが誕生する。 とにかく彼が長髪にすれば、イギリスの若者はみんな髪を伸ばし、坊主にすればみんな髪を切る。ビートルズ以来と言われるほど、若者に決定的な影響を与えたのがデイビッド・ベッカム。日本でもベッカムヘアーが流行りましたし、若い女性にあいだでも「ベッカム様」なんて呼ばれて大変な人気だった。あのファンたち、どこへ行ったんでしょう。 そんなベッカムの言葉として紹介されているのが「もう、僕に構わないでくれ」。どういうことか。ベッカムがイングランドからレアル・マドリードに移籍したのは、パパラッチに追いかけられ、ワイドショー攻撃に嫌気がさしたからだと言われている。ところがスペインでもやはり同じような目にあい、思わず「もう、僕に構わないでくれ」と叫んだ。イングランド時代には漏らさなかった本音です。著者の見たベッカムはきさくで、どんな小さなメディアにも誠実に接するそうです。これを読んで、ベッカムのこと、ちょっと好きになりました。

★「はじめに」で著者は「サッカー選手にも、私たちと同じく、故郷があり、家庭があり、苦悩があります」と書いてます。ピッチ上ではうかがいしれない、名選手たちの本音が聞けるところが、この本のおもしろさ。

★いろいろ裏情報もあります。2002年ワールドカップ、スペイン代表に、レアル・マドリードで7年も2番を背負ったサルガドが漏れたのはなぜか。著者によれば、スペインのサッカーチームはより地域密着型のクラブで、国内の選手間でも対立意識が高い。サルドガは、日本で言う「九州男児」のような気質で、言いたいことをはっきり言う「うるさ型」であるため、対立の火ダネになるのを嫌ったためではないか、と書かれている。海外事情に詳しい著者ならではのわかりやすい説明です。

★サッカーには絶大な経済効果があり、大変な金額が動く世界であることも初めて知りました。移籍金ですが、ロビーニョがサントスからレアル・マドリードへ移籍したときは日本円で約33億円。フィーゴがFCバルセロナからレアル・マドリードへ移籍、この二つのチームは野球で言えば巨人・阪神みたいなライバルチームらしいんですが、移籍金は約60億円と言います。

★そのほかジダン「いつか皆さんもジダンを忘れる日が来るでしょう」、トッティ「国歌はね、心の中で歌い、刻むもんなんだよ」、フィーゴ「生まれ変わっても、また“フィーゴ”として生きたいね」、ロナジーニョ「ここは楽園だよ」と、さまざまな言葉が出てきます。いったい、どういう意味を持つか。ワールドカップ直前、より興味深く観戦するために、ちょっと読んでおいておくといいと思いました。
万城目学 『鴨川ホルモー』 産業編集センター 1260円 2006年05月25日
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(=文芸評論家の北上次郎さん)です。

万城目学(まきめ・まなぶ) 『鴨川ホルモー』
  産業編集センター 1260円


★いやはや、面白い。何気なく読み始めたらやめられず、とうとう一気読み。爽やかで面白い青春小説の傑作。第4回ボイルドエッグズ新人賞受賞作、とあるが、それがどういう賞なのかまったく知らなかったので、手に取ったのは偶然。ライトノベル系かな、という漠然とした先入観を持ちながら読み始めたのだが、どんどん引き込まれ、最後は読み終えるのがなんだか残念で、もっと読んでいたいという気になってしまった。本を閉じた瞬間に面白かったと思う本は結構あるが、その面白さが後をひく本は少ない。これはそういう希有な書だ。

★舞台は、タイトルに「鴨川」とあるとおり京都。主人公は二浪の末に京都大学に入学したばかりの新入生、安倍。現役生たちよりも年長の安倍は、今さらサークルに入ってもな、、、と思っていたが、ふと誘われて行ったサークルの新歓コンパで理想の美少女に出会い、そのサークル「京大青竜会」に出入りするようになる。キャンプだバーベキューだ、と名前のわりに健全な活動ばかりだったが、祇園祭の夜に「青竜会」の本当の活動が明らかになる...。 

★帯にも書いてあるし、全体が280ページある本の73ページで明らかになることなので言ってしまうが、鬼や式神(陰陽師が呪術で使用した鬼神)を使って大学生が戦争ごっこをする話だ。東は京都大学、南は龍谷大学、西は立命館大学、北は京都産業大学。それぞれのサークル名は、青龍会、フェニックス、白虎隊、玄武組。青、赤、白、黒の浴衣を着た、それらのサークル員が祇園祭の夜に集結する冒頭から、この奇妙な世界にどんどん引き込まれていく。鬼や式神が出てくるあたりはファンタジー的だが、実にセンスが良いので、ファンタジーが苦手な私もまったく気にならなかった。リアルな学生生活が描かれる一方、奇想の部分も細部の設定まで非常によく考えられているので、違和感なく読むことができる。

★四つの大学が、鬼や式神を使って用兵の妙を問われる戦争ごっこをするのがホルモーなのだが(ホーム&アウェー方式だ)、こういう設定なら、その対戦型競技で史上最弱の青龍会に入った阿部青年(これが主人公)を軸に、おんぼろチームがいかに勝ち進んでいくかを描いていくのかな、と思うところ。

★これがスポーツ小説なら、そうなる。ところがそうはならないのが本書のミソ。途中から「十七条ホルモー」という別の対戦型競技が始まるのである。このズレ方が群を抜いている。この展開が実に面白い。またうまいのは、安倍青年の初恋の顛末が物語の彩りでなく、物語の構造を変えてしまう点。理想の美少女が登場し、主人公が恋をするのだが、不器用な主人公は告白も出来ない。だから片思い相手の美少女はなかなか振り向いてくれないが、一方で別の不器用な女の子が登場し、彼女が主人公に接近してきて...。と、青春小説の常套スタイルを踏襲しつつも、なにせセンスがいい。よくある枠組みを借りながら、細かいディテールのうまさがずば抜けている。非常にバカバカしい設定なのだが、ちゃんと理に落ちている。

★ようするに、センスがいい。特にラストを見よ。すべてが終わったあとにこういうラストをつけることで、閉じない物語になっている。この瞬間に、終わったはずの物語がぐんぐん大きくなっていく。あとを引くのはそのためだ。「奇想青春ファンタジー」とチラシにはあるが、この特異な新人作家が次にどんな物語を紡ぎ出すか、大いに楽しみである。こういう新人が突然出てくるから油断できない。 著者は1976年生まれの29歳。デビュー作にして今年の上半期ベストスリー入りは確実。もしかするとベスト1かも?いやはや、すごい新人の登場である。
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