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宮崎学 『万年東一』 角川書店 上1785円 下1890円 |
2005年06月23日 |
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今日の担当は本の雑誌社・顧問の目黒考二さん(=文芸評論家の北上次郎さん)です。
宮崎学 『万年東一』 角川書店 上1785円 下1890円
★グリコ・森永事件の重要参考人「キツネ目の男」と疑われた宮崎学の初の長編小説。「愚連隊の神様」と呼ばれた実在の伝説的アウトロー、万年東一の生涯を描いた痛快なアウトロー小説の傑作。岸信介、五島慶太、田岡一雄、、、政財界、アウトロー界の錚々たる面子が登場し、戦前・戦後の昭和史を裏面から一望できるのも魅力。
★「愚連隊」はヤクザでも暴力団でもない。組織を作らず、上下関係もない自由な不良少年の集団。そんな愚連隊のカリスマとして戦後の新宿に君臨したのが万年東一。愚連隊といっても万年はモダンでダンディ、男前でファッションセンスも日活スターのように都会的でスマート。しかも、明治大学と芝浦工大の両大学を出ているインテリ。弱いものを助け、強い者に逆らい、誰をも恐れない。金に執着せず、イデオロギーに関係なく「粋に生きている男」に力を貸す。とにかくカッコイイ男。酒は飲まないが、女性は大好き。ただ、顔にはまったくこだわらなかったという。
★昭和初期、良家の出でありながら万年は連日喧嘩を繰り返し、東京の名だたる不良をすべて叩きのめし、不良少年たちの頂点に君臨。不良少年たちの憧れの的となる。新宿を縄張りに暴れまわり、「新宿のヤクザの親分で万年に脅されたことのないものはいない」と言われるほど。20代にしてアウトロー界に名声を轟かした万年だが、ユニークなのは、ヤクザが大嫌いで、最後までヤクザにはならなかったこと。自由な愚連隊としての生涯を貫いた。
★戦争中は大陸に送られた万年だが、戦場でも持ち前の男気を発揮。上官の理不尽な命令には反抗し、勝新太郎の『兵隊ヤクザ』のモデルになったと言われる痛快な暴れっぷり。ここで宿敵、児島(明らかに児玉誉士夫のこと)と出会う。
★復員後、焼け跡・闇市の混乱の中で再び新宿で暴れまわる万年東一。大陸では中国利権、戦後はアメリカ利権をしゃぶる児玉一派との抗争が始まる。政界、財界、ヤクザ、、、汚い連中と対決する一方、安保闘争や東宝争議では、学生や労働者側に意気に感じてデモ荒らしやスト破りの要請を拒否する。
★最近のアウトローは、金の匂いばかりする。オレオレ詐欺なんて万年が生きていたら許さなかっただろう。万年は言う、「損を平気でできるのが任侠で、できないのが普通の男だ。それができれば、八百屋の小父さんでも、タクシーの運転手さんでも任侠で、できなければ、そんなもんは、たとえ組長・総長でも任侠ではない」
★戦前・戦後の混乱期だからこそ存在しえたヒーロー。小説なので美化されているのはもちろんだが、快男児の生き様に爽快な読後感が残る。 |
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丸谷才一 『綾とりで天の川』文藝春秋 1500円 |
2005年06月16日 |
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今日の担当は書評家の岡崎武志さんです。
★丸谷才一 『綾とりで天の川』 文藝春秋 1500円
★「教養」という言葉が死語となりつつあり、その実態がどういうものか、いまや明確にはつかみにくくなっていますが、少なくともぼくは、丸谷さんのエッセイ集を読むと、いつも「教養」という言葉を思いだすんです。和漢洋の文学、芸術に通じ、たくさんの本を読み、そこで得た知識を洒落た文章で、わかりやすく、しかもユーモアをもって語ることができる。読むほうも、丸谷さんの文章を読むと、ちょっと知的に、賢くなったような気になるのですね。なにかぜいたくな気分になる。
★丸谷才一さんは1925年8月27日生まれ。昭和と同じ年齢。今年80歳。昭和も80年。同世代の作家、評論家が多く物故されたり、隠居みたいな仕事ぶりなのに対し、十年ごとに長篇小説を執筆し、評論を書き、エッセイを書き、日本語論を書き、ますます旺盛な執筆力で現役感を漂わせています。
★このエッセイ集は、目次を見ればわかりますが、とにかく話題が豊富で、ほとんどあらゆる分野にわたってテーマが拾われている。例えば、「牛肉と自由」「吉田兼好論」「ある婦人科医の考古学的意見」もあれば、「君の瞳に乾杯」は、あのハンフリー・ボガート主演の映画「カサブランカ」論、かと思えば、「『ギネス・ブック』の半世紀」でギネス・ブックの歴史と裏話を紹介する。そして最後が「野球いろは歌留多」。野球についての「いろは歌留多」を丸谷さんが作って楽しんでいる。これは全体の一部で、いかに、いろんなことが書かれているかがわかる。
★丸谷さんのエッセイは、基本的に一冊の本の紹介がまずあって、そこに付随して、ほかの本から関係することがらが引っ張られて、丸谷さん自身の体験や知識が織り込まれていくというスタイルです。その書き方も「えーと、まづ断つて置きますが、今回はイギリス人と牛肉について、ベン・ロジャースの『ビーフと自由』といふ本を大いに参照して、といふよりも全面的に寄りかかつて書くのですよ」という感じ。読者に語りかけるように書きます。関心のないことでも、つい、耳をかたむけようという気になる。
★驚くような話がいっぱい出てきます。「ミイラの研究」。朝っぱらから不景気な感じですが、なぜか最初は福沢諭吉から話が始まる。たとえば、彼は身長173センチあった。当時の人にしては大きい。それから子供のころから酒を飲んだ、という話もある。まあ、そうなのかという感じ。ただ、次がびっくり。福沢諭吉のミイラが没後76年のときに発見されたというんです。諭吉は1901年に亡くなり土葬される。1977年、昭和52年に福沢家の墓を一つにまとめるために墓を掘り起こしたら、棺のなかから、着物をきたままの諭吉の遺体が、屍蝋化つまり、蝋みたいになって水にひたって出てきた。地下水に浸っていたのが保存によかったらしい。けっきょく、このあと福沢諭吉のミイラは火葬されてしまう。そこから、レーニンのミイラ、紀元前3300年の男のミイラと、話はどんどん広がっていく。ミイラによる文化人類学の趣きがある。
★「君の瞳に乾杯」では、「カサブランカ」について。あの名作は、「監督の名前が覚えてもらへない映画の随一」なんて言われてるらしい。たしかに、思いうかばない。答はマイケル・カーチス。あのラストシーンで、ボガートの手助けでイングリッド・バーグマンとその亭主が飛行機で飛び立つ。丸谷さんは、ある本を元に、あの晩の日付けが特定できるという。どうやらアメリカで『もうひとつの「カサブランカ」』という、あの映画のあと話がどうなったかを書いた本があるらしい。読んでみたい。で、その本をつきつめていくと、ラストシーンは日本が真珠湾攻撃を行った日、だということがわかる。まさに驚きですね。
★ぼくがいま紹介しただけだと、いま流行りの「トリビア」、役に立たない些末な知識、みたいですが、丸谷さんのエッセイの場合は、そこを手がかりに方々手をつくして、話を文化論、文明論にまで広げていく。「カサブランカ」の設定は歌舞伎の「勧進帳」に似ている、なんて比較はその一例。読んだ後、自分がものすごい物知りになった錯覚を起こす。ほんとうにものしりなのは著者の丸谷さんのほうなんですが。
★最後に丸谷作の「野球いろは歌留多」をいくつか紹介しておきましょう。「い」は長嶋茂雄でつくられている。「いわゆるひとつのプロ野球」。「よ」は「4番をずらり並べたあげく」。これは説明不要。「こ」は「御婦人にはわからぬ痛さ」。これは往年の名解説者、小西得郎の名セリフ。
★愉しみながら知識を増やして、柔軟な発想をする訓練にもなる。梅雨のうっとうしい時期ですが、冷えたビールで寝る前に丸谷さんのエッセイを読む。これがぼくのぜいたく、です。 |
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テリー・ケイ 『ロッティー、家へ帰ろう』 新潮社 2100円 |
2005年06月09日 |
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今日の担当は本の雑誌社・顧問の目黒考二さん(=文芸評論家の北上次郎さん)です。
テリー・ケイ 『ロッティー、家へ帰ろう』 新潮社 2100円
★数年前、映画化もされた『白い犬とワルツを』のベストセラーで知られるテリー・ケイの新作。
★日本人選手が活躍するようになってから、日本でもメジャーリーグの様子が克明に伝えられるようになったが、そのメジャーリーグに上がれず、夢破れて故郷に帰る若者も少なくない。本書の主人公ベンもそんなひとりだ。
★舞台は1904年、およそ100年前、未だ若きアメリカが舞台。 ナショナル・リーグの覇者と、アメリカン・リーグの覇者が戦うワールド・シリーズが始まったのは1903年なので、その翌年の話。
★マイナーリーグから解雇を言い渡されたベンは、同じく解雇された年長の同僚、フォスターとともに故郷の小さな町に向かう夜汽車に乗る。そこで出会ったのが美しい娘、ロッティー。ベンとロッティーは会った瞬間に恋に落ちる、、、となれば普通の恋愛小説だが、それではこれほど人の胸を打つことはないだろう。惹かれるのは事実だが、恋には落ちないのである。なぜならベンには、いずれ結婚することになる相手が故郷にいるからである。
★では、三角関係になるのか、と気を揉むところだが、そうもならないところが本書のミソ。もっと強い絆を描いていくのだ。人生の出会いと別れ、そのドラマを彫り深く描いていくのである。
★ロッティーが結婚する相手は、主人公のベンではなく、同僚フォスターの方。しかし、フォスターは病に倒れ、ロッティーは娘と共にベンの故郷に居付く。ロッティは、ベンの婚約者の洋品店で働き始め、美しいロッティーに村中の男たちが夢中になる。この後、殺人事件も起きミステリ的な要素も加えつつ、物語は意外な展開をしていく。
★とにかく魅力的なのがロッティーの人物造形。とびきりの美女なのだが、幸せとはいえない過去があり、陰影に富んだキャラクター。奥ゆかしさの一方で、天性の媚態が悩ましい。天使のようであり、また男の人生を狂わせる悪女でもある。
★そして何より、ロッティーの孫が語り手となるエピローグがいい。後日譚を語る項だが、余韻たっぷりに物語を引き締めている。恋愛を超えた男女の不思議な絆を見事に描き切った。
★『白い犬とワルツを』があまりにも売れ過ぎたので、本読みからは偏見を持たれがちな作家だが、あれはたまたま売れただけ。本質的は地味ながら良質な小説家。 |
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武居俊樹 『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』 文藝春秋社 1680円 |
2005年06月02日 |
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今日の担当は書評家の岡崎武志さんです。
武居俊樹 『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』 文藝春秋社 1680円
★漫画家の赤塚不二夫さんのことを知らない人はいないと思います。ストーリーマンガの神様を手塚治虫とするなら、ギャグマンガの神様はまちがいなくこの人。「おそ松くん」「ひみつのアッコちゃん」など、昭和30年代からヒット作を次々飛ばし、「天才バカボン」を連載した「少年マガジン」は150万部を突破しました。これが絶頂期。
★まだ赤塚さん、三十歳を過ぎたばかり。この大人気マンガ「天才バカボン」を、ライバル誌「少年サンデー」に引抜いて、担当したのが、当時編集者だったこの本の著者武居俊樹さんです。僕ら、この武居さんのことはよく知っている。なぜかというと、当時の「天才バカボン」に、よく、この武居さんがマンガのなかに出てきたからです。マンガの編集者が、担当するマンガのなかに実名で登場するなんて前代未聞。ハチャメチャなマンガだったんですね。そのハチャメチャに手を貸したのが、この小学館の武居さん。マンガ界では伝説とされる赤塚番「武居記者」が、退社後に回想したのがこの本です。
★この本を読んで驚くのは、絶頂期にある表現者のバイタリティ、エネルギー、それにつきあう編集者の凄さですね。たんに、原稿を催促して、できあがった原稿を受け取ってくるだけではない。赤塚番の場合は、アイデアづくりから参加して、毎晩のように酒場で宴会、それにもつきあう。まさに一心同体の仲なんですね。赤塚不二夫の絶頂期は昭和四十年代ですが、12本の連載を抱え、月収は当時のお金で1億あったといいます。月収、ですよ。これをすべて使ってしまう。
★500万円で都内に家が建った時代に、1200万円のキャンピングカー、2000万円の船を買って、すぐタダ同然で手放す。毎晩、どんちゃん騒ぎをやらかして、昭和50年頃、寿司屋の二階で宴会して、ここに山下洋輔、タモリが参加します。伝説のタモリデビューに力を貸したのが赤塚さんでした。とにかく「どうやったらひとが笑うかだけを追及していた」と著者は言います。そのためには何でもやった。編集者までそれに巻き込む。
★例えば、さっき申したとおり、「天才バカボン」は最初、マガジンに連載されていた。担当はこれまた有名な五十嵐さんです。彼は当時、新人だった。あるとき、赤塚さんが五十嵐さんに天才バカボンの原稿をわたす。その場で編集者は読みますね。大笑いして読んでいた五十嵐さんが、終りのところで凍り付く。なぜなら、バカボンのパパとママの夜の夫婦生活が描かれてある。「これ、まずいんじゃないでしょうか」という五十嵐。「大丈夫」という赤塚。これから新宿へ行くと赤塚がいう。「せんせーっ!」と悲鳴を上げる五十嵐。
その一部始終を武居さんも見ている。ここまで、と思った赤塚は、正式な、ちゃんとした原稿をわたします。つまり、忙しいなか、五十嵐さんをいじめるため、わざわざ一枚余計に原稿を描いたんですね。
★とにかく、赤塚不二夫は、マガジンからサンデーに「天才バカボン」を移籍させたり、ときに左手でふにゃふにゃのマンガを描いたり、名前を突然「山田一郎」に変えたり、ありとあらゆる手を使って、ギャグを考えだします。考えてみれば、ストーリーを考えるより、ギャグを考えるほうが、消耗するし、作家としての寿命も短いんですね。赤塚さんはつねにトップを走ったけど、そんなに長続きしなかった。人気が低迷し、仕事が減り、やがて酒に溺れるようになる。いま、赤塚さんは意識のないまま病院のベッドに寝たきりになっています。もう三年近く、眠りっぱなしの状態のようです。
★ぼくは雑誌のインタビューで、7、8年前に赤塚さんに会っています。そのときも取材中、ずっと焼酎を呑んでらした。持参した「天才バカボン」のマンガに、バカボンの絵とサインをもらったのですが、途中で、鼻血がブッと噴き出して、絵の横に少しかかった。びっくりしましたが、赤塚さんは「だいじょうぶ、慣れてっから」と平気でした。いまでも、この血のついた「天才バカボン」はぼくにとっては宝物です。 |
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上原隆 『雨にぬれても』幻冬舎アウトロー文庫 520円 |
2005年05月26日 |
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今日の担当は本の雑誌社・顧問の目黒考二さん(=文芸評論家の北上次郎さん)です。
上原隆 『雨にぬれても』幻冬舎アウトロー文庫 520円
★普通の人々の普通の生活を取材して、センスのいい短文にまとめる「コラム・ノンフィクション」。ノンフィクションとはいえ、まるで切れ味のいい短編小説を読んでいるかのように錯覚する。胸に残る風景が語られる。
★冒頭の1篇、「雨にぬれても」は語り手の竹内敏子が所沢霊園にいるシーンから始まる。勤め先の社長が4年前に自殺してから、彼女は毎月命日になると墓まいりしている。ジーンズにジージャン、ポニーテールの彼女は56歳には見えない。「竹内さんと社長とは恋人の関係だったんですか?」と尋ねられると、彼女はこんなふうに答える。「そんなんじゃありません。社長には奥様も子どももいたし、どちらかというと父親みたいな存在だったかな」
★小さな頃に両親が離婚し、竹内は母親にひきとられたので実父を知らない。それで10歳年上の社長を父親のように思いたかったのかもしれない。27歳の時に離婚し、社長の印刷屋に入る。やがて会社は生命保険会社のPR誌を作るようになり、編集プロダクションのようになった。社員は10人いた。
★ところが10年くらい前から不況になり、社員が減り続け、最後は社長と竹内だけとなり、おまけに6000万近い借金が残る。竹内は自分の貯金を会社のためにつぎ込むようになって、とうとう4年前に社長が自殺する。
不況に喘ぐ現代の、どこにでもあるような話といっていい。社長はずいぶん前から自殺を考えていたらしく、そのことに気付かなかったことを、今になって竹内は悔いているが、それも珍しい話ではない。
★私の胸に残るのは次のエピソードだ。社長の趣味は競馬だった。その土曜の風景が語られる。竹内が10時頃出社して、社長が昼頃来て、いっしょにお昼を食べて、車で後楽園まで馬券を買いに行って、2時頃からおしゃべりしながらテレビを見て、4時頃になると、じゃあ帰ろうかと社長の車に乗る。竹内の家が途中にあるので、いつも社長の車に乗って、だべりながら帰る。
★竹内がコーヒーが飲みたい、社長がラーメンが食べたいってときは、東大島のミスタードーナツに寄る。隣が本屋さんなのでよく文庫本と競馬新聞をそれぞれ買って、明日の予想をして、じゃあねって帰っていったという風景。毎週土曜はそうして過ごしていたという。たしかに、男女の関係ではない。しかし、土曜は仕事をほとんどしてないことに留意。2人とも出社しなくてもいいのだ。いっしょにお昼を食べて、馬券を買いにいって、テレビを見て、それで帰るだけだ。
★つまり、社長も竹内も、週末に居場所のない人間なのである。いや、週末だけではない、会社以外に居場所のない人間たちといっていい。仕事が忙しいから遅くまで残っていたわけではないはずだ。帰ろうと思えば、帰ることは出来る。帰りたくないのだ。社長と竹内敏子の関係が、男女の関係よりも、そして疑似親子関係よりも、もっと濃密な関係に見えるのは、居場所のない人間同士だからである。その寄り添うかたちが羨ましい。そういう相手を互いに持ちえたというのは奇跡的なことのように思える。
★とりたてて珍しい話でもないのに、社長の首吊り死体を出勤してきた彼女が発見したときの、「その日は家に帰ってないんですよ。たぶん寝てないと思うんですよね。夜に飲んだと思うんですけど、500ミリリットルの缶ビールと枝豆のさやが置いてあったんですよね。それを見た時に、どうせなら、なんでもっとおいしいものを食べていかなかったのって」と語る
竹内敏子の涙が胸を打つのは、その奇跡が崩壊してしまった哀しみに圧倒されるからにほかならない。
★風俗嬢、ホームレス、中学生にサラリーマン。ここにはさまざな人が登場するが、その生のドラマを提出する手つきが鮮やかだ。ほとんど何も作者はそこに付け加えない。だからこそ、余計に彼らの哀しみが浮かび上がってくる。あとを引く本だ。著者は日本のボブ・グリーンというべき存在。 |
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