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松浦 弥太郎  『本業失格』  集英社 440円 2007年03月01日
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★昨年末から今年初めにかけて、出版界で大きく話題になったのが、「暮しの手帖」新編集長就任でした。「暮しの手帖」はごぞんじの通り、戦後まもない昭和23年に創刊された、花森安治という名物編集長による生活雑誌でした。広告を一切載せないことで有名です。しかし、花森さんが亡くなり、最盛期に100万部売れていた雑誌が、いまは20万部を切っている。長く低迷の時期が続いてました。

★そこで、思い切った手が取られた。今朝御紹介する『本業失格』の著者、まだ四十歳を過ぎたばかりの松浦弥太郎さんが編集長に就任することになった。外部から編集長を招くというのも「暮しの手帖」では異例なことで、しかも本業はなんと古本屋さんです。雑誌の編集長は初めて。しかも本業を続けながら編集もやるといいます。

★さあ、その松浦弥太郎とはどんな人物か。興味がありますねえ。それが、この『本業失格』というエッセイ集に書かれている。「本業失格」というタイトルは、彼は古本屋という本業のほかに、文章を書き、編集、デザインをし、さまざまなことをやっている。そのことを「本業失格」というわけですが、肯定的な意味で使っている。こう書いてます。「本業がその人の全てではない。人生の全てでもない。本業で成功しなくてもいい。本業ではないからこそ面白い。仕事についてはできるかぎり広いまなざしをもって自由でありたい」

★ぼくはこのエッセイ集を読んで感じたのも「自由さ」「身軽さ」でした。なにより、じつに楽しそうに生きている。ニューヨークへ行くのでも、カードと少しの現金、それに着替えと文房具ぐらいの荷物で行ってしまう。宿泊するのもトイレ、シャワーなしの一泊30ドルのホテルです。じつに身軽です。じつは本を読んでみると、彼は昭和40年に東京に生まれているんですが、高校がイヤになって止めて、18歳でアメリカに渡ります。学歴は中卒なんですね。ニューヨークで古本あさりを始めて、以後10年間ほど、日本とアメリカ、そしてその他の外国を行ったり来たりの生活をする。そこで買った本をそのあいだ、日本に持ち帰り、洋書の古本屋を始めて、売るようになります。彼がユニークなのは、それだけで飽き足らず、ワゴンに古本を積んで、日本のあちこちの街に出没して、路上で本を売るようになることです。移動古本屋ですね。じつに発想が自由でユニーク。それも学歴がない、コネがない、資金がないという弱点を強みにしている。こんな生き方もあるんだな、という感じ。 いまは中目黒で「カウブックス」という、これも洋書中心の古本屋を開いていますがここの本棚に並ぶ本を教科書にして、いろんな向こうのビジュアルブックの楽しみ方を知る若者が非常にいま増えている。そんな若者たちにとって、松浦弥太郎さんは、ちょうどぼくがちの世代が植草甚一という人に憧れたように、憧れの人なんです。

★このエッセイ集には、ニューヨーク、サンフランシスコ、そして日本の神保町と、気軽に出掛けては古本あさりをする、その喜びや楽しさ、そして珍しい古本を買うコツなどが書かれています。古本屋が立ち並ぶ神保町には中学生の頃から通っているそうですが、ニューヨークやヨーロッパで見つからなかった本が、この町であっさり見つかったなんて体験をしている。こんな話を聞くと、僕なんかは神保町を歩きたくなってうずうずしてきます。

★といっても、この本は古本についての本ではない。むしろ、学歴のない松浦さんが、本業だけにこだわらず、自分の好きなことを信じて、それだけに賭けて生きて来た、人生のスタイルの本だと、私は読みました。彼が好きなアメリカの映像作家ジョナス・メカスが言った「あなたの好きなものを、たいせつにしなさい」という言葉を、松浦さんは大事にしている。

★今日から三月を迎え、いよいよ2007年問題である、大量の団塊の世代のリタイアを迎えます。もう四月から本業がなくなる生活が始まる。しかし松浦さんの言い方を借りれば、何か本業とは別におもしろいことが見つかるかもしれない。「自由」になるわけですから。『本業失格』には、そんな生き方を支えるヒントが隠されているようです。
真保裕一 『最愛』  新潮社 1575円 2007年02月22日
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今日の担当は本の雑誌社・顧問の目黒考二さん
(=文芸評論家の北上次郎さん)です

真保裕一 『最愛』
新潮社 1575円


★映画化もされた『ホワイトアウト』などで知られる真保裕一の新作。江戸川乱歩賞を受賞した『連鎖』でデビューした真保裕一だが、この新作の帯には「慟哭の恋愛長編」とあり、「ミステリー」という言葉は使われていない。実際にはミステリ的な要素はあるのだが、この作者の別の才能も示す作品になっている。

★一言で言えば「姉弟小説」。主人公は小児科医の押村悟郎。18年間音信不通になっていた姉の千賀子が救急病院に搬送されたと警察から連絡を受けるのところからストーリーが始まる。姉は頭部を銃で撃たれ、脳に重大な損傷を受けている可能性が高いという。しかも前日には婚姻届を出したばかり。そのうえ姉が選んだ最愛の夫は、かつて人を殺めた男だという...。そして姉の通帳には不審な出金の形跡が。 空白の18年の間にいったい姉に何があったのか?

★悟郎が4歳のとき、両親が交通事故で突然亡くなってしまう。悟郎は伯父に、2歳上の千賀子は伯母の家にそれぞれ引き取られる。経済的な理由でふたり一緒に面倒を見ることはできず、仕方なく一人ずつ引き取られることになったのである。それでも、時折祖母の家で親戚が集まる機会があり、そのときだけは幼い姉弟が対面することができた。しかし祖母が亡くなると、遺産をめぐって伯父と伯母が対立、姉弟は会うことが出来なくなる。その後は姉は伯母の家でも学校でも揉め事を繰り返してるという噂を聞くだけになる。

★ 悟郎が16歳になったとき、姉がデイパックひとつを背負って目の前に現れる。7年ぶりの再会で11歳の少女は白いタンクトップにグレーの短パンという、身体のラインを自慢げに見せるような格好の若い女になっていた。それは姉が伯母の家を出てアパートで独り暮らしを始めたときで、その部屋に案内され、母の味噌汁や煮物の味を再現しようと悪戦苦闘してくれた。会いに来るのが遅くなってごめんね、と泣いた姉のことを、悟郎は決して忘れていない。伯父の家は居心地がよく、義理の兄たちも悟郎に対し本当の弟のように接してくれた。しかし伯母の家には問題があり、姉は苦労したらしい。しかしそれから18年姉は音信普通になり、再会したときには危篤状態になって病院に運ばれていた。家族ものに弱い私としてはもう胸がジンとしてくる。

★こうして悟郎は姉の交友関係をあたって、その18年の間に何があったのかを調べ始める。この展開が実にうまい。読み始めたらやめられなくなる。とにかく姉の人物造詣が群を抜いているのだ。いじめられている同級生を救うために男子3人に石を握って立ち向かって立ち向かっていった小学生時代の姉。通りがかった商店で、いやがらせをしているヤクザを見かけると出て行けと啖呵を切る姉。聞き込みを続けるうちに、かわいそうだと思っていた姉が、世の中の悪意に立ち向かう強いヒロイン像に変わっていく。きらきら光る姉の肖像にひたすら圧倒される。

★だから、読み終えてもずっと胸に残り続ける。危篤状態にある千賀子のことが、姉のように強くは生きられないと思う悟郎のことが、読み終えても残り続ける。ストーリーについてはネタバレになるので詳しくはふれることができない。なぜこれが「恋愛小説」なのかも言えない。しかし最後にどーんと出てくる回想が実にいい。胸が苦しくなるような恋愛小説の傑作。
千原ジュニア 『14歳』 講談社 1470円 2007年02月15日
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今日の担当は、書評家の岡崎武志さんです。

千原ジュニア 『14歳』
講談社 1470円


★昨年、「14歳才の母」というドラマがヒットしました。名門私立中学の女子学生が妊娠するというショッキングなストーリーでした。そのほか、池田晶子『14歳からの哲学』という本もよく売れましたし、香川リカ『14歳の心理学』も文庫化された。いろんな意味で、子どもから大人への曲り角として、14歳、中学2年生ぐらいの年ごろが注目されています。

★この本『14歳』を書いたのは、いま若者に非常に人気のある兄弟漫才コンビ「千原兄弟」の弟です。1974年生まれだから、今年33歳になる。どんな話かと言うと、「人生最悪の14歳。僕は、僕を守る」と帯にありますが、著者の千原ジュニア自身が14歳の体験を書いたものです。ちょっと不良っぽいイメージあるから、やんちゃをしていた話かと思ったら、とんでもない。彼は、中学に入って2年目に学校へ行かなくなる。そして部屋に閉じこもる。つまり登校拒否で、引きこもりの中学生だった。

★ ファンにもほとんど言ったことがない告白らしく、その中身は衝撃的です。学校へ行かなくなる直接のきっかけは、たまたま鉛筆を削るために学校へ持っていったナイフを、校門検査で発見され、先生に「ナイフなんか持ち歩いていると、いつかそれで人を傷つけてしまう」と怒られたことにあります。小さい頃からずっと、千原ジュニアは、自分はどうも人と違うところがある、と感じていました。例えば幼稚園のとき、お絵描きの時間に、太陽を紫色に塗って怒られます。中学でそれがナイフ事件をきっかけに教師も学校もイヤになる。一日中、自分の部屋に鍵をかけ、パジャマ姿で過ごし、タバコを買いに行く時だけ外へ出る。中学で喫煙していたんですね。

★親はもちろん心配して、いつも学校へ行かない次男のことを話し合っている。著者はそれをいつも親に対し悪いと思っている。しかし言葉に出せないんです。その心の葛藤がじつに細かく書かれて、思わず、14歳の内面に引きづりこまれます。例えば、部屋から出られない気持ちを書いた、こんな個所がある。「誰よりも大人に怒られる14歳。誰よりも大人に嫌われる14歳。誰も触りたくない14歳。誰にも触らせない14歳。そして今以上にお父さんとお母さんを悲しませる14歳。やはり僕は今、こうするしかないんだ。あの部屋の中で何かを見つけるしかないんだ。僕が歩くべき道を。一刻も早く」

★しかし、親は困り果てて、父親が著者と二人で家を出て別の場所で暮らそうと言い出す。思わず彼は暴れて、拳で壁に穴を開ける。次の日、壁には穴を隠すためハンカチが貼ってあって、食卓には朝ごはんが作ってある。いつも朝食は果物なんです。そこで彼は気づく。母親がごはんに精神安定剤を混ぜていることに。著者はもっと深く絶望するわけです。もっと子どもの気持ちをわかってやれ、と端から見ると、そう言いたくなりますが、毎日、学校へ行かず、家にいる子どもと接する母親の気持ちも分かる気もする。もちろん14歳の著者自身もそのことがよくわかっている。だからこそ苦しい。

★千原ジュニアの唯一の救いは、少し離れたところに住んでいる祖父と祖母の存在です。学校へ行ってないと聞いたおばあちゃんがある日、ジュニアを迎えに来る。おじいちゃん、おばあちゃんのいる家に泊ります。このおばあちゃんがいいんですね。ジュニアと一緒に歩きながら喋っていて、彼が学校へ行かないことを決して責めない。説得もしない。ただ、電車のレールの上を歩いている鳥を見て、「鳥だってたまには歩きたいもんね」と言う。その言葉に著者は救われます。

★けっきょく、早くに家を出て、吉本に入った兄からの誘いで、兄弟で漫才コンビを組むことになる。同じ漫才師を目指す仲間の前で、初めて人前で兄と漫才をする。それがウケる。著者は漫才に自分を生かす道を見い出して、部屋を出ます。そして成功する。

★14歳という大人でも子どもでもない不安定な年齢が、いったいどんなことに苦しみ、何を考えているかが、この本には非常に正直に、魅力的に書かれています。同じ年齢の子どもを持つ親、それに14歳の少年少女に読んでもらいたいと思いました。

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中場利一 『シックスポケッツ・チルドレン』 集英社 1575円 2007年02月08日
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(=文芸評論家の北上次郎さん)です。

中場利一 『シックスポケッツ・チルドレン』
集英社 1575円


★映画にもなったデビュー作『岸和田少年愚連隊』以来の傑作ワルガキ小説。 中学3年生から高校生にかけての不良少年を描いた『岸和田少年愚連隊』シリーズと設定はよく似ている。舞台は70年代、大阪の漁師町、岸和田。父親はぶらぶらしながら、子どもに牛乳配達をさせてその上前をはねているようなろくでなし。夫に呆れる母親は家出を繰り返している。そんな両親に挟まれて胸を痛めつつも、ケンカに勝負に恋に友情に忙しい日々を送る少年、ヤンチが主人公。『岸和田少年愚連隊』シリーズと違うのは、ヤンチがまだ小学生という点。岸和田〜の不良たちの行為はもう犯罪スレスレだが、この作品でのヤンチの行為はまだ幼いいたずらというべきものが多い。

★そしてその行動原則はむしろ「正義」の感覚に貫かれている。たとえば、ヤンチが次のように言うくだりがある。「十人相手に一人でケンカしに行くんが不良で、一人相手に十人で行くんが非行。それを見てんのが金持ち。うちのお父んが言うてたわ」。父親もまた昼間からぶらぶらしているような人間ではあるが、やはり卑怯なことは許さないというタイプ。この不良と非行の差がこの作家の原点ともいえるところなので、これは象徴的なセリフと言っていい。デビュー作の『岸和田少年愚連隊』がなぜあれほど胸に残ったのか、納得できるくだりでもある。この作品でもヤンチたちの胸に灯るのは非行を憎む感情であり、つまりは不良の心意気なのだ。それが爽快感を生み出している。

★小学生が主人公ということで、学校のクラスなどでのさまざまなエピソードが語られる。巧みなエピソードの積み重ねがいい。特に好きなのは第六章の『ロールオーバー・ベートーベン』。クラスメートのコケミはいじめられっ子の女の子。複雑な家庭環境で、特に新しい母親になってからは服が汚れていたり、あざが出来ていたりして、虐待を受けているらしい。そんなコケミは優等生の男子に憧れているが、その男子は憧れられていることにつけこんでコケミをパシリとしていいように使っている。それが許せないヤンチは優等生を懲らしめるのだが、相手をやっつけるだけではダメだ、コケミに笑顔を取り戻せてあげなくちゃ、とヤンチは考える。実はコケミはすごく足が速いということを知っていたヤンチは、コケミを運動会のリレーの選手にすることを提案する。クラスメートは意外に思うが、実際に選考会を開いてみると 速い速い。なんとヤンチ自身をも破ってしまう。まさかと悔しがるヤンチがふっとコケミを見ると笑顔が浮かんでいる。そして運動会当日、コケミの家の前を通るとシミーズ1枚の姿でしょんぼりと立たされているコケミの姿がある。義母の虐待という現実がそう簡単に変わるわけではないのだ。それでもヤンチが「今日のリレー頑張ろうな」と声をかけるとコケミは「うん!」と言って顔を上げる。そこで物語はすとんと終わる。この感じが実にいい。

★傑作デビュー作『岸和田少年愚連隊』以後、やや足踏みしてきた感もあったが、ついにデビュー作に並ぶ、いやひょっとすると超える傑作をついにものにした。デビュー作とほぼ同じ設定ながら、転校生のヨコワケあど新しいキャラクターを導入することで、物語に奥行きが生まれている。爽やかで、読めば元気が出るような王道少年小説。
池内紀 『あだ名の人生』 みすず書房 2730円 2007年02月01日
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池内紀 『あだ名の人生』
みすず書房 2730円


★これは、本名以外の「あだ名」で呼ばれた人たち、24人の人生をスケッチした人物評伝です。泉鏡花、井上円了、大宅壮一、高見順など名前をよく知られた人たちもいますが、多くは、この本で初めて名前を知ったような人たちです。

★「あだ名」とは、「通称、あるいは身代わりのようにしてつけられた呼び名」と著者は定義していますが、「あだ名」のつくような人は、まず間違いなく個性的な生き方をしています。なかには悪口の場合もありますが、それだって、個性の表れで、あだ名がつかない人生ってやはり淋しい。考えてみれば、いまの総理大臣、安倍晋三首相にはいまのところ、特にあだ名がついてないようです。前首相の小泉さんには、髪形から「ライオン」、それに田中真紀子議員がつけた「変人」と二つあった。歴代の総理にもあだ名のつく人、つかない人がいますね。あだ名から歴代総理を採点するというのもおもしろいかもしれない。

★さてこの本に登場するのはどんな人たちか。たとえば「不二のかくし坊」。「不二」は「富士山」の「ふじ」ですが、「二つない」という方の「不二」と書く。「富士山」は「不二山」とも書いたんですね。これは「かくし坊」という名の江戸期のお坊さん。もと武士だったのが、頭を丸めてお坊さんになる。それも東海道をふらふら旅しながら生きた人で、書が巧みで 舞いができて歌も唄う。三味線、俳諧、狂歌がつくれて、宴席でたいこ持ちのようなことをしたりして、宿場町で重宝されたらしい。なぜ「不二のかくし坊」とついたかというと、大の富士山好きで、富士山の見えるところから離れられない、それほどの富士山マニアだからです。「朝な夕なに富士をながめて飽きることがない」といいます。それで、いつも富士が見える東海道をうろついて、それで一生を終えた。ある意味、幸せな生き方ですね。

★「てっぽう一貫斎」と呼ばれた、いまの長浜市生れの、やはり江戸期の人物がいる。本名は国友藤兵衛ですが、自ら「一貫斎」と名乗り、ひとから「てっぽう」とつけられた。そのあだ名の通り、旧来の火縄銃とはまったく違った銃、てっぽうを考案した。それは圧縮空気により弾丸を発射する銃で、当時、画期的なものでした。続いて、弾倉をつけて、二十発続けて撃てる、つまり二十連発の近代銃も作ってしまう。しかも著者によれば、てっぽう一貫斎は、銃が人を撃つ道具だとは考えてなかった。だから、完成品には制作者の銘を入れ、「銃身に革を巻き、蒔絵や紋様をほどこし、ときには金箔や漆で飾った」という。まるで工芸品ですね。いかにも日本人らしい。こういう人たちは、学校で教わる歴史の教科書には出てこない。でも、こんな人も日本にいたということ、教えてほしいですね。

★ちょっと馴染みのない名前が続きましたが、もう少し時代が近いところで、しかも有名人では「狂歌師鶴彦」。えっ、そんな人知らないよ、とおっしゃるかもしれませんが、じつはこれ、日本経済界の巨人、大倉喜八郎です。創立に関わった企業は、大成建設、サッポロビール、帝国ホテルなどなど。ホテル・オークラは、この喜八郎の遺産を寄与してできたホテルです。ただ金もうけしただけではなく、趣味人としても知られ、彼が蒐集した古美術が、いま大倉集古館に収まっている。そして「狂歌師鶴彦」の名のとおり、狂歌を作った。狂歌、五七五七七の戯れ歌ですね。例えば「四十五十は 鼻たれ小僧/男盛りは 七八十」なんて歌を色紙に書いた。彼は、八十になっても髪は黒く、背がのび、かくしゃくとしてたそうです。で、ある日見ると、色紙の「七八十」が「八九十」に直してあったといいます。あるいはアメリカで排日法案が通過した時、彼は大国のエゴを痛烈に批判してこんな歌を作った。「アメリカの 議員諸君も 心せよ/おごる平家に 似たる振舞い」作るだけでなく、新聞記者を通じて、アメリカに送りつけた、というからすごい。

★池内さんの書き方は、こんな個性的な人たちに、本や資料の上で出会ってうれしくてしかたない、という感じで書いています。また実際にゆかりの地に旅もしている。本名は忘れ去られても、あだ名の方は後世まで残る。それは素敵な人生ではないか、とこの本を読みながら思いました。
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