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市川準ほか 『ぼくのしょうらいのゆめ』 プチグラパブリッシング 1722円 2006年07月27日
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今朝の担当は書評家の岡崎武志さんです。

市川準ほか 『ぼくのしょうらいのゆめ』
プチグラパブリッシング 1722円


★誰でも小さい頃、将来、なりたかった職業があると思います。ベネッセが親子およそ500人を対象にしたアンケートによれば、親が「子供の頃つきたかった職業があるか」の質問に、75%の人があったと答えています。しかしそのうち、夢がかなってその職業に就いたのは14・3%。やはり夢の実現がなかなか難しい。ちなみにいまの小学生のなりたい職業トップ10は、1位がサッカー選手、2位がお菓子屋・ケーキ屋、3位が野球選手と続きます。

★この本『ぼくのしょうらいのゆめ』は、いま各界で活躍する11人が将来の夢を 語ります。映画監督の市川準さんに始まり、画家の大竹伸朗さん、ピアニストの高橋悠治さん、舞踏家の田中泯さんと、まさに多士済々。

★意外だったのはロックンローラーの内田裕也さん。自分で職業をロックンローラ!)と名乗る人は珍しいですが。裕也さんは昭和14年神戸生まれ。関西の出身なんですね。おじいさんが大企業の役員をやっていて小学校まで門が3つぐらいある大きな家に住んでいた。金持ちのボンボンだった。将来の夢は「貿易商」。中一のとき、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』を読んで感動し、漱石、鴎外、内田百間などを読んでいたという。かなり今とイメージが違う。ところが家が没落し、急に長屋住まいとなる。中学のとき、ラジオから流れてきたエルヴィス・ プレスリーを聞いて、本人の言葉で言えば「ロックンロールに犯された」。同じようにプレスリーが大好きなどこかの首相もいましたが。それからバンドボーイになり、ジャズ喫茶でデビューし、と現在に至る道を歩んでいく。プレスリーによって人生が決まり、夢を実現していくわけです。

★詩人の谷川俊太郎さんは昭和6年の生まれ。少年期が戦争と重なり、男の子はみんな大きくなったら軍人になるという時代。将来の夢に選択の余地のない時代があった。17歳のとき、詩を書きはじめるが、「詩人になりたいなんて夢にも思わなかった」そうです。谷川さんは大学へ行ってない。学校嫌いで高校のころ、いまでいう登校拒否みたいになる。お父さんは哲学者で当時法政大の学長をしていた谷川徹三。ふつう、そういう親なら自分の子どもに大学へ行かせようとしますよね。でも無理強いをしなかった。そして、友人の三好達治に、谷川さんが書いていた詩のノートを渡して、それがきっかけで世に出る。谷川さんにはお子さんが二人いますが、「将来何になってほしいって言ったことはなかったな。総理大臣にだけはなるなよと言ったことはあるけど(笑)」という。

★一番すごいのは2005年にスペース・シャトル「ディスカバリー」で宇宙へ行った野口聡一さん。小学校1年のときの作文が、そのまま写真で載っていますが、「ぼくは、ロケットのそうじゅうしになりたい。わけは宇宙のいろいろのことがわかるから」と書いています。まあ、ふつう小学1年生が「宇宙飛行士になりたい」って言ったら、微笑ましいエピソードで終わるものですが、野口さんは本当になってしまった。ただ、小1の夢をそのまま目指して実現した、というのではないと言います。その後、高校のとき読んだ、立花隆さんの『宇宙からの帰還』が相当影響力を持ったようです。野口さんは言います。「ある時点であまり夢にこだわらず、その時その時で、自分が目指していくもの、自分が理想としていくものを、追っかけていけばいいんじゃないかなと。夢は変わっていいと思うんです」。

★この夏休み、お子さんと顔を合わせる機会が増えると思います。お母さんは、毎日うんざりでしょうが、この本をきっかけにして、お子さんの夢を聞いてあげて、お父さんお母さんも自分の子どものころの夢を語りあってはどうでしょうか。

★あと、驚くのは、この本に登場するみなさんの、小学校のころの絵や作文などがちゃんと残されてあって、写真で公開されていることです。これ、いい記念にな りますね。ぼくなんか、何も残っていません。全部は無理だけど、一年に一つぐらい、お子さんの書かれたものを親が残してあげるといいですね。
高橋三千綱 『明日のブルドッグ』 草思社 1365円 2006年07月20日
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今日の担当は本の雑誌社・顧問の目黒考二さん
(=文芸評論家の北上次郎さん)です。

高橋三千綱 『明日のブルドッグ』
草思社 1365円


★ブルドッグに魅せられた著者の私小説で、著者がモデルと思しき主人公、橋本が飼っているブルドッグがブル太郎。このブル太郎も実際に著者が飼っているブルドッグがモデルだが、このブル太郎が可愛くて、犬好きにはたまらない。読み始めると途端に、この犬の魅力にとりつかれる。

★以前パグを早死にさせてしまった経験を持つ主人公、橋本は北海道の牧場に競走馬を観に行った際に、ブルドッグに出会う。映像や写真で見るよりずっとたくましく迫力がある姿を見て、胸が高鳴る。パグを可愛がっていた老いた母のためにも、という気持ちからブルドッグを飼うことを決心し、専門のブリーダーから1匹の仔犬を入手する。それがブル太郎。

★わたしも犬好きだが、ブルドッグを飼ったことはない。飼ったことがないので知らなかったが、ブルドッグはすごく変わった犬らしい。まるで猫のように頑固でマイペース。いつでも人のそばにいたがるのに、構われると無視したりして、家人の誰にも媚びない犬だという。飼い主に対しても、時には不機嫌な顔を見せるというから、犬の中でもきわめて変わった種族と言っていい。

★ブルドッグは、もともと牛と闘わせるためにイギリスで作り上げられた犬。つぶれた鼻も牛に噛み付いたまま呼吸が楽に出来るため。闘うために人工的に作られた犬なので、やたらと手がかかる。例えば、犬なのに暑いのも走るのも苦手。頭が極端に大きいため、自然分娩で生まれるのは困難で、しばしば帝王切開で助けてやらなければならない。自分では何もせず、「大便のあと肛門を拭くのも飼い主の役目である。そうしてくれと尻の穴を突き出してくるのである。耳の垢を取るのも、鼻を覆う 分厚い皺の下の溝を清潔にするのも飼い主の仕事である」ようだ。

★しかしながら主人公の言葉を借りれば、「こわい顔の内側に深い愛情がいっぱい溢れている」のである。子犬がいじめられていると、救出するためにでかい犬にも向かっていく。先祖が雄牛と闘っていた時代の記憶が残っているのだと主人公は言う。しかも助けた後は途端の無関心になるのもいい。

★心優しきブル太郎は、庭に舞い降りた傷ついたオオタカを助けたりする。本書の後半は、そのオオタカとの友情(?)を描いていくが、たとえそれがファンタジーであっても、そういうことが本当にあるような気がしてくる。すべての愛犬家に贈る一冊だ。

★犬には数え切れないほどの種類があり、犬種それぞれの性質があるが、愛犬家は自分が飼っている犬種が一番カワイイと思っている。以前コーギーを飼っている人に「コーギーって意外と気性が荒いんだよね」とうっかり言ってしまい、激しく怒らせてしまったことも。私自身は臆病な雑種犬(知らない人が来ると、ブルブル震えてしまう。番犬の役には立ちそうにない...)を飼っているが、本書を読んで今まで知らなかったブルドッグの魅力がわかった。著者が実際に飼っているブルドッグの写真も口絵のように使われているが、これがまた飄々としてイイ味。
黒鉄ヒロシ・ペリー荻野 『伝説 日本チャンバラ狂』 集英社 1260円 2006年07月13日
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今朝の担当は書評家の岡崎武志さんです。

黒鉄ヒロシ・ペリー荻野
『伝説 日本チャンバラ狂』
集英社 1260円


★チャンバラという言い方はあまりしなくなりましたが、時代劇のことですね。映画、テレビドラマでたくさんのチャンバラの名作が生み出されて、日本独特の文化を作り上げた。マカロニ・ウエスタンなど、海外の西部劇にも影響を与えたことは有名。誰でも知っている、あの傑作時代劇がいかに作られたか、その舞台裏をペリー荻野さんが取材し、黒鉄ヒロシさんがマンガにした本なんです。取り上げられたのは新撰組血風録、木枯し紋次郎、三匹の侍、水戸黄門、てなもんや三度笠などです。

★第一話は「新撰組血風録」、昭和40年にNET、いまのテレビ朝日から放映されました。新撰組ブームを作ったドラマといってもいい。黒鉄さんのマンガは昭和39年の京都から始まる。冬の京の町を新撰組副長の土方歳三が歩いている。ただし栗塚旭扮する土方。ドラマの一場面かな、と思います。ところが、この土方がタクシーに乗る。あれ、タクシーなんか乗っちゃっていいの、と驚くと、嵐山の料亭の前に止まり、座敷に上がっていく。待っていたのは「新撰組血風録」原作者の司馬遼太郎です。

★どういうことか。テレビドラマの原作を探していたプロデューサー上月信二は、司馬遼太郎「新選組血風録」に惚れ込み、司馬と仲良しだという友人を誘い、司馬邸にドラマ化の許可をもらいにいく。ところが、答は「ノー」。理由は、以前この作品が映画化されたが、原作とおよそ違うものになって今回も不安だというのだ。

★どうすれば司馬を説得できるか。そこで思いついたのが、土方役の栗塚旭を、本番そのままの土方の扮装をさせて司馬と会わせることだったんです。そこでさきほど言った最初のシーン。土方になった栗塚が司馬の前に現れ「初めまして土方歳三の栗塚旭と申します」と挨拶した。それを見た司馬は「あんた…土方や…歳三や…」という。これでドラマ化が決まる。

★しかし、問題は低予算。セットを組んだら金がかかる。第一回はいきなり池田屋襲撃事件。「池田屋の階段だけで鼻血も出ん」というわけです。すると、ちょうど祇園の古いお茶屋が壊してビルになると聞き付ける。女将が言うには「どうせ壊すもんどっしゃろ。自由に派手につこうてもろて、ブワーやってもろてかましまへん」。「ほなやったろか」。というわけで、新撰組に扮した役者たちが本番で、障子は破る、火鉢はひっくり返す、柱に刀で斬り付ける、もうやりたい放題、むちゃくちゃに暴れます。これが迫力のある名シーンとなり、試写会でもその完成度に司馬が喜んだ。

★当時はテレビは映画より「下」と見られ、予算もなかったが、その分、スタッフの熱気で凄かった。彼らの熱気こそ「まさに新撰組そのものだった」と言います。

★TBSのいまだに続く長寿番組「水戸黄門」の話もあります。始まったのが昭和44年。40年近く前なんですね。これも最初のころ、相当苦労したようです。 あの「控えおろー」という印篭シーンも最初は出したり、出さなかったり。出さないと視聴者からなぜ印篭を出さない」と大反響がおきて、毎回出すようになった。また、印篭が毎回8時45分に出るのも、西村晃黄門時代、西村の友人の裏千家・千宗室(現・玄室)さんが、そのシーンを見逃したという抗議により、出す時間が決まったと言われている。

★しかも、当初は一回完結ではなくて、次回に続く長いストーリーのものもあった。すると高齢者から「拝啓水戸黄門様」という手紙がきて、来週生きていられるとは限らないので「続く」はやめて下さい、という。ここに一回完結のスタイルが固まる。予定調和とかマンネリとか批判がありながら、じつは「水戸黄門」が茶の間で楽しんでいる視聴者たちの要望を取り込みながら、いまのスタイルになったことがこの本でよくわかります。だから安心して見ることができる。長寿の秘密はそこにあるんですね。

★「チャンバラ」という言い方には、このジャンルを少し低く見るニュアンスがありますが、作る側は誇りと熱気を持って作っている。京都太秦映画村の誕生秘話もあり、とにかくワクワク楽しませてくれる本でした。
高野秀行 『アジア新聞屋台村』 集英社 1680円 2006年07月06日
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今日の担当は本の雑誌社・顧問の目黒考二さん
(=文芸評論家の北上次郎さん)です。

高野秀行 『アジア新聞屋台村』
集英社 1680円


★これは面白い!びっくりして高野秀行の本をすべて買い込むために書店に走ってしまった。私は年に一度くらい、こういうふうに「大変だ」と書店に走ることがある。逆に言えば、そんなふうに興奮するのは年に一度しかない。

★これまで高野秀行の本を読んだことがないというのは、それだけで恥ずかしいことなのだが、そんなことを言っている場合ではないのだ。超面白本をたくさん読むことが出来るのだから、それを素直に喜びたい。高野秀行は早稲田大学の探検部出身。『幻獣ムベンベを追え』、『西南シルクロードは密林に消える』などの探検紀行と、『ワセダ三畳青春記』『異国トーキョー漂流記』など貧乏学生生活を綴ったものがあるがどれも面白い。ノンフィクションではあるが、文体が実に軽妙洒脱。特に人物描写が秀逸で、その人の面白いところを巧みに掘り下げていく。あの宮部みゆきが「小説を書きなさいよ」と薦めていただけのことはある。

★本書は高野秀行にとって初の小説。小説はいえ自伝的で『ワセダ三畳青春記』と『異国トーキョー漂流記』足して2で割ったような内容。舞台は東京にあるアジア系の新聞社。中国語、タイ語、ビルマ語、マレー・インドネシア語が飛び交うオフィスで、日本に住むそれらの国の人向けの新聞を作っている新聞社だ。そこに編集顧問として通うことになった主人公を軸に、奇妙な人々との日々を軽妙に描いていく。「小説」ということになっているのは、モデルはいても現実と少し異なっているということだろう。

★『異国トーキョー漂流記』と同じく怪しげな人物がここにもわんさか登場する。その筆頭は、この新聞社の社長劉さん。三十一歳の台湾女性で、「タンクトップにショートパンツ、スニーカーに茶髪のロングヘエ、ピンクの口紅という、遊びに来ているとしか思えないようなねえちゃん」だが、そのバイタリティにひたすら感服。例えばベトナム人と知り合うと何の準備もせずにベトナム新聞を創刊する。で、思ったよりも売れないとすぐにやめてしまうのである。発行するかどうかを考えるのではなく、作ってから考えるという発想で、乱暴きわまりない。

★なにしろ編集の経験者もいなければ、校正もしないのである。現地の新聞を取り寄せて、ちゃちゃっと引用してでっちあげるのである。「一九九六年にはアメリカ留学希望者が三十三%だったのが、五年後の二〇〇二年には二十四%と八%も 落ちた」と台湾新聞に平気で書くんだそうだ。特に引き算が苦手で、足し算はわりに合っている、というけれど、一九九六年の五年後というのは足し算だぞ。五年後なら二〇〇一年で、全然合ってない!

★集まっている外国人連中も実にいい加減。編集会議を開いても面倒くさがって誰も来ない。会社の机で自分のアルバイトばかりしている。主人公≒著者も相当にとぼけた男(なにしろもう何年も風呂に入っていない。週2回通う市営プールが風呂代わり)だが、この中にいるとずいぶんマトモに見える。ところが読んでいるうちにもしかするとこの奇妙な外国人たちの生き方の方が正しいんじゃないか?という気になってくる。劉さんが言うように「日本人は固定観念に囚われすぎている」ような気がしてくる。読むと元気が出てくるし、読後ほんわかとしたものに包まれて優しい気持ちになれるのが心地よい。読むとクセになる面白さ。もっともっとこの著者の作品を読みたくなる。
小林信彦 『うらなり』 文藝春秋 1200円 2006年06月29日
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きょうの担当は、書評家の岡崎武志さんです。

小林信彦 『うらなり』
文藝春秋 1200円


★「うらなり」という言葉で、「ああ」と気付いた方もあるかと思いますが、夏目漱石『坊っちゃん』に出てくる登場人物で、古賀という英語教師のあだなが「うらなり」です。この本は、坊っちゃんの視点で描かれた『坊っちゃん』を、「うらなり」を主人公にして見るとどうなるか、という試みで書かれた小説です。発想がおもしろいですね。ちなみに今年は、『坊っちゃん』が書かれてちょうど百年。『坊っちゃん』百周年にあたる記念すべき年でもあります。

★さて『坊っちゃん』のストーリーはいまさら紹介する必要はないでしょう。短気で正義感の江戸っ子である青年が、四国の地方都市にある中学の数学教師として赴任して、キザな教頭である敵役の赤シャツと闘ったり、生徒にからかわれたり(「いなご事件」)、騒動をまき起こす小説です。その後、『青春とは何だ』を始め、テレビドラマの青春もので、若い先生を主人公にしたシリーズがたくさん作られますが、みな『坊っちゃん』がルーツだといっていい。

★そのなかで「うらなり」というのは、気が弱く、赤シャツに婚約者だったマドンナを取られて、地方へ追っ払われる役柄で登場する。影の薄い人物です。この小説『うらなり』は、あの『坊っちゃん』から三十年後、昭和九年の東京、銀座四丁目交差点から始まります。ここで姫路から上京してきた「うらなり」が、三十年ぶりに「山嵐」と会う。山嵐は坊っちゃんと一緒に四国の中学を辞めて、 東京へ出てきますが、その後も赤シャツの手が伸びて、あちこち学校を変り、いまは学習参考書を書いているという設定。それがよく売れてけっこう有名になっている。

★山嵐と会ったことから、うらなりは当時のことをその晩、あれこれ思い出すのですが、正義感が強い江戸っ子というかたちで語られる『坊っちゃん』の主人公も、うらなりの目からは「人の心に土足で入ってくるようなところ」のある「迷惑」な男に映る。「自分の考えや行動はよろず正しいと思っているらしいのが私とは合わなかった」と書いている。これは地方で静かに暮らす知識人による江戸っ子批判ですね。

★うらなりは「坊っちゃん」の名前も覚えていない。そう言えば、われわれも彼の名を知らない。うらなりは自分に「うらなり」と坊ちゃんがあだ名をつけたことを知っていて、それも不愉快に思っている。そこで彼は坊っちゃんに「五分刈り」とあだ名をつける。あだ名の仕返しですね。

★『坊っちゃん』のクライマックスの、赤シャツを粉砕すべく、山嵐と坊っちゃんコンビが生卵をぶつけてやっつける事件も、うらなりはすでに九州へ旅立ったあとで知らない。あとでそれを知るのですが、坊っちゃんが赴任する以前から同じ中学にいるうらなりからすると、この事件は「堀田と教頭」の確執にあると見る。坊っちゃんはあとから来た部外者なのに、主人公のような面をしてしゃしゃり出たために、事件は喜劇になってしまったと言います。完全な「坊っちゃん」批判ですね。確かに、坊っちゃんはおっちょこちょいの軽薄な人物に見えてくる。

★結局、うらなりはその後、見合いをしては断られ、三度目にやっと結婚、子どもも生まれ、ときどき随筆を発表する地方の名士として静かな生活を送る。その後、ラジオに出演したとき、あのマドンナから手紙が来て、再会も果たします。あの美女のその後がどうなっているかはここで話さないほうがいいでしょう。

★レコードで言えば、『坊っちゃん』のB面ともいうべきなのが、この『うらなり』です。単なるアイデアで終わっているのではなく、本家の『坊っちゃん』にはない、苦い人生の味わいがある傑作小説だと思いました。

★ところで、『坊っちゃん』にはいくつかの誤解があるんです。まず、みんな『坊っちゃん』の舞台は四国の「松山」だと思っていますが、じつは小説のなかにはどこにも「松山」とは書かれていないですね。まあ、漱石が松山中学で教えていたことや、言葉や舞台設定から松山をモデルにしていることは疑いないですが。それと、教頭の赤シャツは、映画やドラマでは必ず洋服、スーツを着ていますが、本当は和服なんですね。着物の下に赤シャツを着ている。これは、『坊っちゃん』をよく読めば、ちゃんと書かれています。『うらなり』は、もう一度『坊っちゃん』を読みたくなる小説です。
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