|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
番組への御意見・ ご感想お待ちしております。
メールアドレス
stand-by@tbs.co.jp
番組放送中(6:30〜8:30)は電話・FAXでも受け付けております。
電話 03-3584-0954
FAX 03-5562-9540 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
ブックナビ本のプレゼント応募はこちらまで → → → stand-by@tbs.co.jp |
|
|
|
|
K.M.ペイトン『駆けぬけて、テッサ!』徳間書店 2100円 |
2004年05月27日 |
|
|
|
|
今日の担当は本の雑誌社・顧問の目黒考二さん(文芸評論家の北上次郎さん)です。
★K.M.ペイトン『駆けぬけて、テッサ!』 徳間書店 2100円
★「馬」がテーマの作品としては、以前紹介した『シービズケット』級の感動作。昨年11月に発売された本だが、児童文学のコーナーにあるので最近まで見逃していた。子供だけの物にしておくにはもったいない青春小説の傑作。
★主人公は少女テッサ。父親は、サラブレッドのブリーダー(繁殖家)。テッサは、たった1頭の牝馬が産んだ盲目の馬アカリと仲良くなる。しかし、両親が離婚。テッサは生まれ育ったアイルランドを離れ、母親とともにイギリスへ。同時に、愛する馬アカリとも引き離されてしまったテッサは悲しみのどん底に。
★母親の再婚相手は、金持ちだが冷酷な男。サラブレッドの馬主としても知られているが、馬に対する愛情を持たず、馬を金儲けの道具としてしか考えていない。そんな義父に反発したテッサは次第に反抗的になり、自分のこころを頑なに閉ざし、殻に閉じこもっていく。
★テッサは12歳のときに「問題児」として、学校を除籍になってしまう。行き場のなくなったテッサを、義父は罰として、無理やり近所にある競走馬の飼育場に働きに出す。
★働きに出た厩舎でも、テッサは頑なな態度を変えることなく、誰も寄せ付けつけない日々が続いていた。そこに、見るからに貧相で不格好な子馬ピエロがやってくる。しかし、それは運命の出会いだった。ピエロはテッサが、かつて可愛がっていた盲目の馬アカリが産んだ子馬だったのだ。
★ピエロがアカリの子供だと知った日から、テッサは変わり始める。「シービスケット」と同じく、ピエロは誰が見ても競走馬としての素質はなさそうな馬。しかし、テッサは馬を金儲けの道具としか見ない冷酷な義父を見返したい気持ちもあって、ピエロを立派に育て上げたいと考える。そして、テッサ自身が騎手となり、障害レースの最高峰「グランド・ナショナル」を目指す。夢に向かって走り始めた彼女の変化を、周囲も認め、援助の手をさしのべ始める。しかし、そこで事件が、、、。
★飲んだくれながら、独りで応援する実父の姿などディテールの描写もうまい。レースのシーンも迫力がある。
★ペイトンは大河小説『フランバース屋敷の人々』でカーネギー賞、ガーディアン賞を獲得している実力派作家。児童文学の世界では有名だが、子供だけのものにしておくのは勿体無い。大人が読んでも感動できること間違いなし。 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
タイ・トッドウェル/ミッシェル・バーノン著 宇佐和通訳 『死刑囚最後の晩餐』筑摩書房 1680円 |
2004年05月20日 |
|
|
|
|
今朝の担当は書評家の岡崎武志さんです。
岡崎さんは、古本情報誌『彷書月刊』のHPに古本三昧の生活ぶりを綴った日記を連載中です。ぜひご覧下さい。
http://www3.tky.3web.ne.jp/~honnoumi/
★タイ・トッドウェル/ミッシェル・バーノン著 宇佐和通訳 『死刑囚最後の晩餐』筑摩書房 1680円
★よく、人生最後の日にあなたは何を食べたいか? というような質問があります。しかし、その日になってみないとわからない、という気もします。だいたい、今日が命の最後とわかる人は少ないし、病気で死ぬとしたら、たいてい好きなものは食べられない状態ですから。
★しかし、死刑囚ならそれが可能です。アメリカの死刑制度では、執行直前に囚人の方から食べたいものがリクエストできるそうです。初めて知りました。数時間後に「死」が決まっている時、人は何を食べたがるか。この本はそれを調べ上げて、64人の死刑囚の最後のメニューと、彼らの人生と死刑になった罪、理由を書いた本です。死刑反対論者も多いでしょうし、不謹慎を承知で言いますが、興味がありますね。
★ちなみに何でもいいわけではなく、アルコールはダメです。テキサス州の死刑囚は一九七六年の死刑制度復活以来、一四四人の死刑が実施されていますが、そのうち四分の一が最後の食事に選んだのがチーズバーガー。それもほとんどがポテトもつけて、と注文つけてます。
★なぜ、こんな本が書けたか、つまり、死刑囚の最後のメニューがなんでわかったかというと、死刑囚のメニューは公開されていて、新聞に載ったりするそうです。不思議な国ですね、アメリカは。
★わかりやすいのはたくさん食べる人ですね。一九九九年アリゾナ州で死刑になったラグラン兄弟は、九歳の万引きに始まって、ゴルフ場の放火、三件の強盗とエスカレートして、銀行強盗で殺人を犯し死刑判決を受ける。兄のウォルターが最後に注文したのが、目玉焼き六個、ベーコン十六枚、ハッシュブラウン、ステーキ、イチゴシャーベット0.75リットル、ドクターペッパー、コーラ、セブンアップ、コーヒーと書き写すだけで胃がおかしくなる。そのためか、一緒に胃薬も注文してます。胃は大事ですからね。健康に注意、というところでしょうか。
★健康に注意といえば、ヘルシー志向の死刑囚もいる。一九九八年フロリダ州で死刑となったジュディー・ベノアノは女性で、夫と義理の息子を保険金をかけて殺害し「ブラックウィドウ」と呼ばれます。彼女が指定したのは、蒸しブロッコリー、イチゴ、アスパラガス、トマト、それもいずれも少量で、最後に紅茶。ヘルシーです。
★オクラホマ州で八十代の女性二人を殺したトーマスは、ダブルチーズバーガーやムール貝などといっしょに、ミートボール・スパゲティを注文する。彼の死刑直前の最後の言葉は「スパゲティはオレが頼んだブランドじゃなかった。この事実はきちんと報道してもらいたい」でした。よほどブランドが違ったのが気に食わなかったらしい。
★ほかに、一週間のうちに三人を殺したキャノンは、毎日旺盛な食欲をみせ、刑務所内の食事だけで足りないのか、鉛筆14本、スプーン15本、歯ブラシ、それに眼鏡まで呑み込んだという。その彼が最後にどんな食事を望んだか。特に指定がなければ、決められた定食メニューがだされるのですが、それも断って、彼は濃いコーヒー一杯だけを飲んだ。わけ、わかりませんが。
★そのほか、死刑囚の共通点(名前にリーがつく者が多い)、刑務所の一般食レシピ、州別刑務所ミシュランとコラムもユニークで、陰惨な内容ながら楽しく読める本なんですが、では日本はどうか、というのが気になります。日本では、死刑囚に最後の晩餐に好きな食べ物を食べさせる習慣はありません。それどころか、死刑の日時の通知も事前には行われない。ただ、通常の決められた食事は執行前に取ることはできる。訳者は、「日本にも最後の晩餐を」と提言している。
★ぼくだったらどうか、と考えてみましたが、結局、和風旅館の朝飯みたいなのが食べたくなるのじゃないか。つまり熱いごはんに味噌汁、焼きノリに漬物、最後にお茶漬けをかっこんで、みたいな。 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
サラ・ウォーターズ『荊の城 上・下』各987円 創元推理文庫 |
2004年05月13日 |
|
|
|
|
今日の担当は本の雑誌社・顧問の目黒考二さん(=文芸評論家の北上次郎さん)です。
サラ・ウォーターズ『荊の城 上・下』 各987円 創元推理文庫
★話題の若手作家、サラ・ウォーターズ(‘66年、イギリス生まれ)の新作。前作の『半身』(創元推理文庫 1113円)はアメリカ図書館協会賞、サマセット・モーム賞に輝き、日本でも昨年末の『このミステリがすごい!』と『週刊文春 ミステリーベスト10』でダブル1位の快挙。今作も英国推理作家協会賞を受賞、ブッカー賞の最終候補作にもなった。
★4部構成のストーリーは二転三転、どんでん返しの連続で本当に面白い作品なのだが、ネタばらしになってしまうので内容を紹介しにくいのだが、、、。
★舞台は19世紀ヴィクトリア朝時代のロンドン。舞台設定などはディケンズを思わせる趣もある。主人公は孤児で、貧民窟のスリの一家に育てられた17歳の少女、スウ。自身もスリを生業としている。ある夜、スウのもとに顔見知りの詐欺師が訪れ、ある計画を持ちかける。そこから、物語が始まる。
★詐欺師がもちかけた計画とは、、、 田舎の城館「荊の城」に巨額の財産を相続する令嬢がいる。世間知らずの令嬢を誘惑して、財産を奪うからその手伝いをしないか?と。この設定はショーン・コネリー主演で映画化もされた『わらの女』(カトリーヌ・アルレー、創元推理文庫)などでも使われたのと同じ。
★話に乗ったスウは貴婦人の侍女となって城に入り込むべく、礼儀作法を特訓する。ここら辺はちょっと『マイフェアレディ』的なシーンも。
★しかし「荊の城」に乗り込んでみると、世間知らずの令嬢は心の美しい人物。スリ娘スウは、果たして詐欺師の言う通りに彼女を騙して不幸のどん底に落としていいものだろうか?と悩み始める。スウが令嬢に同情していくディテールが描かれ、こうなるとストーリーは、いったいどんな展開をするのだろうかと思いながら読み進むと、、、。このあとは読んでのお楽しみ、、、。
★読み進むにつれて、最初に見えていたことが、全く違った局面から見えてくる。単純に見えたストーリーが、実は非常に複雑なものであることがわかってくる。詐欺師の企みが単純なものではなく、いろんな人間の思惑が複雑に絡み合ったものであることが次第に明らかに、、、。先が読めない、えっ?えっ?と驚きながら読み進むことになる。
★ゴシック的な雰囲気漂うヴィクトリア朝時代のロンドンを歴史風俗小説としても楽しめる。また、妙にエロティックなところも。物語の構築力、そしてそれを支える描写、第1級の作品。 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
村松伸『象を飼う 中古住宅で暮らす法』晶文社 1890円 |
2004年05月06日 |
|
|
|
|
今朝の担当は書評家の岡崎武志さんです。
岡崎さんは、古本情報誌『彷書月刊』のHPに古本三昧の生活ぶりを綴った日記を連載中です。ぜひご覧下さい。 http://www3.tky.3web.ne.jp/~honnoumi/
★村松伸 『象を飼う 中古住宅で暮らす法』 晶文社 1890円
★『象を飼う』って変なタイトルですね。「飼う」は飼育するの「飼う」です。といったって、本当に象を飼うわけじゃない。著者は国立市在住のアジア建築の評論家なんですが、縁あって林雅子という建築家が設計した中古住宅を購入することになる。その顛末を書いた本です。
★日本では中古住宅というのは、20年ぐらいで建物としての資産価値がなくなると言われてまして、あとは土地代だけ、ということは、いい物件に当たればこれはお買得。最近、人気があるんです。平成12年には中古住宅購入融資という優良な中古住宅を買うとき融資が優遇される制度ができた。
★奥さんが国立市にある一橋大学の先生。それまで借りていた家の契約が切れて、家を買うことになる。村松さんは1954年生まれ。当時、40代半ば。ローンを組む最後のチャンス。これ、ぼくも一昨年、お隣の国分寺に建売の家を買ったので、気持ちがわかるんですねえ。なんかふんどしを締め直す気分というか、ふんどしは締めてませんが。 村松さんは、中古物件に的を絞り2年探しまわり、ついに理想の家に出会う。それが国立市にあった林雅子設計の「ギャラリーのある家」。建築雑誌などにも紹介された、ぼくなどの目から見れば豪邸ですね。
★1980年代初期、斜面に建てられた家。地下は森に面していてギャラリーがある。前の持ち主が画商だったんです。1階玄関は神殿ふうの大理石でできている。2階が暖炉のあるリビング。ここでプライベートコンサートも開ける。国立の町が見渡せ、屋上からは富士山が見える。写真をお見せできないのが残念ですが、めちゃくちゃかっこいい家。
★ところが、バブル崩壊の余波で売りに出され、これが5年も人が住まず放置されていた。雨漏り、湿気がひどかったんですね。家を見学に行ったとき、当時2歳だった娘さんが「おとうさん、キノコだよ!」と叫ぶ。なにわけわかんないこと言ってる、と思って見ると、ほんとうにリビングのカーペットにキノコが生えてた。中古住宅を買うリスクというのは、買ったときの費用プラス家の老朽化に対する今後の修理費用を考えねばならない。
★おまけにこの物件が抵当に入っていた。買い手がもう一人現われる。抵当権を持つ銀行、もう一人の買い手との間で係争になり、調停は6回に及び、やっと家を手に入れるまでの1年、艱難辛苦が待ち受ける。それでもあきらめなかったほど、この「ギャラリーのある家」は魅力的だったんですね。
★奥さんの裕子さんが、家というのは誰か世話する人がいないと三カ月でダメになる、その点では大きなペットを飼う、ちょうど象を飼ってそのお腹の中に住んでいるようなものだという。そこでタイトルの『象を飼う』がついた。
★また、家を購入したことで、周りの環境とのつきあい方、町とのつきあい方が変わってくる。舞台は国立ですが、国立は自転車で駆け回るのにいい町だ、と著者はいう。国立駅の駅舎にある三角屋根は、右と左と長さが違うんですが、これは、駅から伸びる2本の放射道路と同じかたちをしていることに気づく。そういう意味でも駅は町の要となっている。
★家を買うのになにも問題がないほうがいいに決まってる。だが、著者は魅力的だが問題多い中古住宅を、自分たちの手で再活用しながら暮して行く。つまり多大な労力と情熱で飼いならしていく。そこから知る暮らしの楽しみもあるわけです。ペットを飼う楽しみと同じですね。苦労させられながら自分たちのものになっていく。ちょっと変わった視点から、家と暮らしについて考えさせられた一冊でした。 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
奥田英朗 『空中ブランコ』 文藝春秋 1300円 |
2004年04月29日 |
|
|
|
|
今日の担当は本の雑誌社・顧問の目黒考二さん(=文芸評論家の北上次郎さん)です。
奥田英朗 『空中ブランコ』 文藝春秋 1300円
★直木賞候補にもなった『イン・ザ・プール』の続編。異色のユーモア小説。前作に引き続き、トンデモ精神科医・伊良部一郎が登場する連作。まさに待ちに待った1冊。こちらから読んでも問題なし。
★伊良部一郎はとにかく変な精神科医。性格はわがままな子供のまんま。40代前半の丸々と太った色白の医師で、総合病院の院長の息子。病院の地下の片隅に部屋をあてがわれて、滅多に来ない患者を待ちかまえている。たまに患者が来ると嬉しくて、「いらっしゃーい」と妙に明るいのがまず変。 しかも、どんな患者にも太い注射をする。カウンセリングなんてしない。 注射を打つのはマユミという無愛想で肉感的な露出狂の看護婦。セクシーな谷間に見とれている間に、ぶすっと打たれて、ふと見ると「顔を上気させ、針が皮膚に刺さった箇所を凝視している」伊良部が横にいたりする。毎回定番のシーンだが、その都度仕掛けがあって笑える。注射マニアというのか、要するに変人。しかもマザコン。 患者たちは自分以上にビョーキっぽい伊良部を見て、ひと目でヤバイと感じ、果たして治療してもらえるのかと、激しく不安になる。
★前作では水泳中毒、ケータイ中毒、勃起持続症など、様々な強迫観念に悩む患者が登場したが、今作では、空中ブランコに乗れなくなったサーカス団員や、尖端恐怖症のやくざ、スローイングが出来なくなった野球選手、義父のかつらを剥がしたいという衝動に苦しんでいる精神科医などが伊良部のもとを訪れる。しかし、伊良部は診断などどこ吹く風。
★たとえば、「ぼくに もできるかなあ」と空中ブランコに乗ることしか考えないから、いつものように患者のほうが呆れてしまう。しかし、「僕にもやらせて!」と言って空中ブランコを楽しむうちに、サーカスの人気者になってしまう伊良部の姿を見ているうちに、患者はだんだん自分の悩みがバカバカしくなり癒されていく。
★奥田英朗の秀逸さは、この特異なキャラクターを作り上げるだけでなく、その子供のような精神構造を持つ医者が結果として患者たちを癒してしまう過程をディテール豊かに描きだすことだ。たとえば非常ベルを押したくなる衝動に耐えていると訴える患者に「押して逃げればいいじゃん」とこの男は平然と言うのである。
★患者たちの抱える心の病は、ユーモラスでありながらどこか現代性を帯びている。そこには我々にも心当たりのあるような、現代の様々な問題が集約されている。心を病むのはどこか真面目すぎるからだが、伊良部はまったく無責任。しかし、だからこそ、その伊良部が結局患者を癒してしまうのだから、読むと何だか生きるのが楽になる。伊良部が癒すのは患者だけではなく、読者も癒される。
いやはや、愉快。才人・奥田英朗の傑作だ。 |
|
|
|
|
|
|
|
|
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
19 |
20 |
21 |
22 |
23 |
24 |
25 |
26 |
27 |
28 |
29 |
30 |
31 |
32 |
33 |
34 |
35 |
36 |
37 |
38 |
39 |
40 |
41 |
|
▲ ページ上部へ |
|
|
|
|
|