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『チーム・バチスタの栄光』 海堂尊 宝島社 1680円 2006年02月02日
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今日の担当は本の雑誌社・顧問の目黒考二さん
(=文芸評論家の北上次郎さん)です。

『チーム・バチスタの栄光』 海堂尊(かいどう・たける)
宝島社 1680円


★今年度の「このミステリーがすごい!」大賞の受賞作。大学病院を舞台に、相次ぐ患者の死は医療過誤か殺人か、その謎をめぐって展開する。ミステリーとしては若干弱いところがなくもないが、病院内の人間関係や手術場面をはじめリアリティ満点で、すぐに作品世界に引き込まれる。

★東城大学医学部付属病院に、アメリカ帰りのスゴ腕外科医が赴任する。心臓手術エキスパートであるこの医師のもと、バチスタ手術の専門チーム「チーム・バチスタ」が結成される。バチスタ手術とは、心臓移植の代替手術で、肥大した心臓を切り取り小さく作り直すという大胆かつ極めて高度な技術を要する手術である。この奇跡的な手術を次々と成功させてきた「チーム・バチスタ」だが、3例続けて手術中に患者を死なせてしまう。しかも次に手術が予定されている患者は、海外からのゲリラ少年兵士。マスコミの注目も集まっている。

★非常に難しい手術であり、3例続けて失敗してもトータルの成功率からすれば「チーム・バチスタ」の成績は抜群に高いのだが、、、。院長から内々に内部調査の役目を押し付けられたのは、神経内科教室のうだつの上がらない万年講師で不定愁訴外来の責任者、田口。さらに後半にはもう1人の「探偵役」、厚生労働省の変人役人、白鳥が加わる。この白鳥がブッ飛んでいて最高。以前紹介した『イン・ザ・プール』、『空中ブランコ』(奥田英朗)シリーズの精神科医、伊良部にも匹敵するキャラクター。この白鳥が登場したとたん、コミカルな雰囲気が物語に立ち上がる。

★ミステリ部分はやや意外性に乏しいきらいもあるが、病院内の人間関係やバチスタ手術のディテールなどのリアリティが凄い。著者は現役医師だからこそ書き得たリアリティであろう。また、キャラクター設定が実に絶妙。主人公の田口&白鳥のキャラクターには大笑いさせられるし、チーム・バチスタの面々など脇役陣の描き方も実にうまい。リアルかつコミカル、このバランスが実に絶妙と言っていい。

★ここ数年のミステリ系の新人賞受賞作としては、頭ひとつ抜きん出た作品と言っていい。医学ミステリーを離れても、描写のリアリティとキャラクター造形の面白さで実に読ませる。ミステリ作家というよりもエンターテインメント作家としての才能を感じさせる、今後の活躍も楽しみな新人作家。読後感も非常に良い。
高橋呉郎 『週刊誌風雲録』 文春新書 798円 2006年01月26日
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今日の担当は書評家の岡崎武志さんです。

高橋呉郎 『週刊誌風雲録』
文春新書 798円


★今年二月で「週刊新潮」が創刊50周年を迎えるそうです。これがどういう意味を持つかというと、いまはどの出版社も週刊誌を出していますが、じつは、戦前まで週刊誌と言えば「サンデー毎日」と「週刊朝日」の二誌だけ。つまり週刊誌というのは新聞社が出すもので、出版社が出すとは考えられていなかった。そこへ、昭和31年、文芸出版の新潮社が「週刊新潮」を創刊させる。これ「革命ともいえる大事件」だと本書は言います。 以後、昭和30年代は、「週刊明星」「週刊文春」「週刊現代」「女性自身」と各社いっせいに週刊誌を創刊させる戦国時代に突入する。

★この『週刊誌風雲録』は、もと「週刊女性」(光文社)で編集者をした著者が、若かったころの週刊誌、群雄割拠のころを、名物編集者や名物ライターを中心に描いた本です。ほんとうに戦国時代の武将たちの争いのように、侍が揃っていた。いろんなエピソードに驚くとともに、週刊誌がバカ売れした時代の熱気を感じさせる本です。

★わたしはよく本を読むときそうするのですが、索引のない本は、自分で扉の裏に人名や事件、エピソードを抜き出してページ数を書き込み、索引を作ります。この本もそうしました。いま、見ると「扇谷(おうぎや)正造、小野田政の耳を食いちぎる」54とあります。なんでしょう。扇谷は、当時10万部台だった「週刊朝日」の編集長に昭和22年に就任して、29年には100万部の雑誌に押し上げて、週刊誌時代を作る伝説的な編集者です。

★彼は「鬼軍曹」と呼ばれ、部下を徹底的にしごくことで有名ですが、酒癖も悪かった。昭和25年ごろ、新宿の文壇バー「ととや」で、文藝春秋の池島信平、源氏鶏太などと飲んでいるときに、「改造」編集長だった小野田政とケンカになる。「表へ出ろ」で、扇谷はあっさり負けて小野田に組み伏せられますが、かわりに扇谷は小野田の耳を食いちぎる。

★のち、小野田は改造社をケンカして辞めますが、池島の推薦で「サンケイ」に入社し、「週刊サンケイ」初代編集長となる。池島は産経の社長・前田久吉に推薦するとき「朝日の扇谷正造に耳を食いちぎられた男だ」と言ったら「それはおもしろい」と即座に決まったという。いま、考えられないような話です。

★「週刊新潮」は、「週刊新潮は明日発売です」というテレビCMとともに谷内六郎さんの表紙が懐かしい。編集長はいちおう社長の佐藤亮一だったのですが、実質上の編集長は、これも伝説の男・斎藤十一。「陰の編集長」「天皇」と呼ばれる実力者です。出版社は新聞社と違って、「記事のモトになる情報源がない。社内に書き手がいない。書店以外に販売ルートをもっていない。広告収入があてにできない」とないないづくしで、創刊当時、すぐつぶれるだろうと言われていた。ところがおもしろいもので、昭和33年全日空下田沖墜落事故のとき、「週刊新潮」の記者も取材で本社へ駆け付けるが、慣れていないため、何を取材していいかわからない。報道陣に押され、気がついたら、乗客名簿がすべてほかの記者に取られていた。残ったのは「キャンセル名簿」だけ。仕方なくそれを持ち帰って、キャンセルしたために命が助かった人物の話を「特別レポート 私は死神から逃れた」という記事に書く。この記事が評判になり、「週刊新潮」の一つのスタイルを作るきっかけとなる。

★昭和33年創刊の「週刊明星」編集長の本郷保雄は、人気の柱を作るために、当時スターだった三島由紀夫に原稿依頼に行く。その場面。「本郷は深々と頭を下げて、初対面の挨拶をすますと、『私は先生の作品を一冊も読んでませんが……』と切り出した。三島は『こんな正直な編集者と初めて会った』と喜んで、連載を引き受ける。それが「不道徳教育講座」。そのほか草柳大蔵、梶山季之が作ったライター集団の話、あと、井上光晴、種村季弘、後藤明生など、意外な人物が週刊誌に編集者、ライターとしてかかわっていたという話もあります。

★週刊誌は100万部売れたような、この黄金時代から比べるといまや凋落の一途で部数は軒並み半減、という状態。写真週刊誌のブームや、その後、ヘアヌード合戦といった盛り上がりはありましたが、著者は、昨今の週刊誌が「これが得!」「ズバリ儲かる」などの断定口調の見出し、あるいはいまのホリエモン報道もそうですが、人物を断罪するような「正義の騎士」気取りの表現、それから、売らんかなの「スクープ主義」に疑問を持っています。そのために「編集者のセンスを競う洒落っ気が、誌面から消えていった」と言います。

★わたしもいくつかの週刊誌にライターとして関わってきたので、大きなことは言えませんが、なにか電車の中吊り広告の見出しを読んでいるだけで、それでじゅうぶんという記事が多いような気がします。お金を払ってまで読みたい、と思わせる週刊誌はなかなかありません。たまに、古本市で昭和30年代の週刊誌を手に取ることがありますが、洗練されていない、原初のエネルギーを誌面から感じます。いま、週刊誌の編集部にいる人たちがこの本を読めば、現状打開の何かのヒントを得られるんじゃないか、と思いました。
アリステア・マクリーン 『ナヴァロンの要塞』
ハヤカワ文庫 777円
2006年01月19日
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今日の担当は本の雑誌社・顧問の目黒考二さん
(=文芸評論家の北上次郎さん)です。

アリステア・マクリーン 『ナヴァロンの要塞』
ハヤカワ文庫 777円


★今日は新刊ではなく、古典的名作。先日、某誌でオールタイムミステリー・ベスト3を選べという企画があり、その中でベスト1に選んだのが本作。グレゴリー・ペック、デヴィット・ニーヴン、アンソニー・クインらが出演した映画版でご存知の方も多いと思うが、原作も第二次大戦後のイギリス 冒険小説の傑作。

★冒険小説にはいくつかのパターンがあるが、これは「敵中潜入もの」の典型。第二次大戦中の1943年、ドイツ軍はエーゲ海を完全に制圧し、ケロス島に残された1200名の連合軍部隊は絶体絶命の窮地に陥る。難攻不落を誇るナヴァロン島のドイツ軍要塞の断崖には巨大な2門の大砲が設置され、ケロス島に残された連合軍部隊の救出を阻んでいた。この要塞を爆破する命を受けたのは、ニュージーランド人探検家で登山家のキース・マロリーをリーダーとする男たち。アクシデントに次ぐアクシデントを次々に乗り越えていくテンポの良さと全編にみなぎる緊迫したスリルから目が離せない傑作冒険小説。

★この小説のもっとも大きな特徴は、冒険小説であると同時に謎解き小説でもあること。物語は、目的を無事なしとげることができるかどうかという興味以外に、潜入行のメンバーの中にいる裏切り者は誰かという謎をめぐって進展するのである。主人公のヒーローは探偵役でもある。念の入ったことに、クラシックな探偵小説の大団円で容疑者を一同に集め、それまでの事件を解説しながら理詰めで犯人を名指しするようなシーンまで、きちんとある。その主人公の謎解きが痛快だったのは、ストーリーが起伏に富み、プロットが実に巧み錯綜していたからであることは言うまでもない。

★この作品が戦後小説らしいのは、主人公が平民であること。戦前のイギリス冒険小説の主人公の多くが、貴族など上流階級の冒険であった。しかしマクリーンの小説の主人公は選ばれた階級ではなく、無名の「平民」である。冒険は金と暇にあかせた特別のものではなく、そういう庶民の日常にもあり得ることを強く描いたのが、マクリーンの新しさだったのである。

★マクリーンの描く主人公は、「平民」出のエージェント。国や組織の使命を帯びたエージェント・ヒーローを描き続けたことにマクリーンの実直さと不幸がある。70年代に入ると、国や組織の使命を屈託なく信じるエージェントの存在は、あまりに無邪気でリアリティを失ってしまった。時代の流れのなかで後に失速せざるを得なかったマクリーンだが、1957年に書かれた初期の代表作『ナヴァロンの要塞』は、今なお色あせない傑作である。
四方田犬彦 『「かわいい」論』 ちくま新書 714円 2006年01月12日
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★四方田犬彦(よもた・いぬひこ)『「かわいい」論』
ちくま新書 714円


★カラオケ、スシ、カラテなど世界語になった日本語はたくさんありますが、「カワイイ」もそうなるかもしれない。いや、そうなりつつあるという話です。『「かわいい」論』は、映画からマンガ、都市、現代思想など幅広いジャンルで批評活動を続ける著者が、いま挙げた広いジャンルから見た、日本における「かわいい」といわれる美学を論じた本です。

★まず、最近やたらに「かわいい」という言葉を聞くようになったと思いませんか。とくに女性。「カ・ワ・イ・イ」と、独特なエロキューションで、やたらになんにでもそう言う。もちろん「かわいい」という言葉は本書でも分析されていますが、『枕草子』にも出て来る。ただ、現在はその使われる範囲が広がり、しかも複雑化している。一例を挙げれば、大人の男、もっと言えばおじいさんにも「カ・ワ・イ・イ」と言う。著者はある女性エッセイストが昭和天皇について「天皇って意外にかわいい」と書いているのを読んで驚いたと言っています。あきらかに「かわいい」の使われた方が変わってきています。笠智衆さんなども、晩年、「かわいいおじいちゃん」というような言われ方をしていた記憶があります。

★またさらに。キティちゃん、ポケモン、セーラームーンなど、日本が生んだアニメなどのキャラクターが市場として世界に輸出され、その規模は二兆円とも言われる。日本は「カワイイ」大国なんです。宮崎アニメ、フィギュア、キャラクターグッズ、コスプレ、それに携帯ストラップにいたるまで、この世はかわいいもので満ちあふれている。著者に指摘されて客観的に見ると、かなり気味が悪いことになっている。

★著者は韓国やアメリカやイタリアなど方々の大学で客員教授を務めたり、海外での活動が多い学者ですが、イタリアのボローニャという大学町に1994年に滞在したとき、夏休み前の駅のポスターがいっせいに「セーラームーン」に変わったのを目撃しています。2004年にはコソボ難民のキャンプで、子供達がやはりTVで流れる「セーラームーン」のアニメ、日本語のまま、を食い入るように見ていたと言います。ちなみに、セーラームーンとはセーラー服を着た金髪の少女・月野うさぎが、悪と闘うという大ヒットしたアニメです。「月に代わっておしおきよ」とか言うんですね。なんだか照れますが。ここでぼくみたいな中年男が照れると「 カ・ワ・イ・イ」とやられてしまうわけですまったく、困ったもんです。

★さあ、著者はこの日本を、そして世界を席巻しつつある、「かわいい」の正体を探るべくいろんなアプローチをして、奇しくもそれは現代日本文化論みたいなところまで発展していくのですが、一つは「縮み文化」と言われる、小さきもの、ミニチュアールに対する日本人の嗜好、これは昔からある。それを「かわいい」と感じる。著者はその集大成が「プリクラ」にある、と言います。くわしくは本書を読んでもらうとして、この本のカバーにある著者の写真もプリクラで撮ったものです。目にキラリと星が光り、背景にも星が流れている。

★それから「かわいい」という美学の複雑な点として、「かわいい」と「美しい」を比較して、さらにそこに「きもかわ」という概念を持ってくる。「気持ち悪いがかわいい」の略です。例は「E・T・」に登場する宇宙人。あるいはいま人気のお笑いコンビのアンガールズ。これ、気持ち悪いけどかわいいわけです。だから、「かわいい」の隣りに置くのは「美しい」ではなく「醜い」ではないか、と著者はいう。ここに著者の「かわいい」論の主眼がありそうです。それから年代別の4冊の女性雑誌で扱われる「かわいい」を比較した章もありますが、中高生の読むズバリ「Cawaii!」、「CUTiE」、女子大生相手の「JJ」、それに中高年の「ゆうゆう」まで、ほとんど特集に「かわいい」を使っている。「JJ」の「可愛い大人になりたい」はまだわかりますが、「ゆうゆう」の「いくつになっても大人の可愛さがもてる人」には、いいかげんにしろよ、と言いたくなる。でも、いかにも言いそうではありますよね。

★ぼくは著者が「ひと夏の間、閉じこもってこの書物を執筆してると、だんだん気が滅入ってきた。「かわいい」について書くことは、けっして「かわいい」ことではないのだ」告白した部分にいちばん共感を持ったんですが、これだけ「かわいい」ものの洪水を浴びると、たしかにうんざりしてきますね。この「成熟への拒否」を示す「かわいい」美学の蔓延は、どうも日本人をますます幼稚にしているところがあるんじゃないか、と思います。子どもにつける名前なんかも、子どものうちはいいけど、大人になったら困るぜ、と思われる「かわいい」ものも多い。「かわいい」は批評をも拒みますから、反論もできない。そういう意味で、真っ当な批評家の著者がこういう本を書いてくれたことはよかったなあ、と思ってる次第です。
佐藤賢一 『カポネ』 角川書店 1995円 2006年01月05日
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今日の担当は本の雑誌社・顧問の目黒考二さん
(=文芸評論家の北上次郎さん)です。

★佐藤賢一 『カポネ』
角川書店 1995円

★『傭兵ピエール』『双頭の鷲』『二人のガスコン』『王妃の離婚』...中世ヨーロッパを舞台にした歴史小説を書き続けてきた佐藤賢一が、初めて近代アメリカを描いた。しかも主人公はあのアル・カポネとカポネを逮捕に追い込んだ男、エリオット・ネス。

★前半の主人公はアル・カポネ。20世紀初頭のニューヨークで若きアル・カポネは度胸の良さを買われて、地元ギャングのボス、ジョニー・トリオの経営するクラブのバーテンになる。そしてカポネは初めて殺人を犯す。その手際を評価されたカポネだが、本には良心の呵責に苛まれ、一度はギャングの世界から足を洗うことを決意する。しかし、父の急死で窮乏に陥った家族を養うため、再び闇社会に舞い戻り、今度はシカゴで密造酒に手を染める。ギャングの世界で頭角をあらわし始めたカポネは、ライバルのオバニアンを殺し、さらに自分のボス、トリオをも引退に追い込む。物語の前半は一介のチンピラがギャング界の大立者へとのし上がっていく様が描かれるピカレスク・ロマン。

★オバニアンの部下との抗争が激化するなか、カポネはマイアミに移住する。そこでカポネを捕らえようと待ち構えているのが、禁酒局特別捜査官のエリオット・ネス。後半はこのエリオット・ネスが主人公となる。ネスが率いるカポネ摘発チームは、厳選されたメンバーで構成され、脅迫にも買収にも応じないことから「アンタッチャブル」と呼ばれた。

★脱税容疑でカポネを逮捕し、一躍全米のスターとなったネスだが、その後の人生は挫折と転落の連続だった。「カポネを捕らえた男」としての虚像だけが一人歩きし、最後は悲惨な形で人生を終えることになる。

★エリオット・ネスについては、これまでよく知らなかった。「こんな男がいたのか」という情報小説の面白さがひとつ。そしてなんといっても佐藤賢一の小説の魅力はそのリズミカルな文体。まるで西洋講談を読んでいるかのよう。例えば、「無視してもよかったのだが、アルは振り返ってしまった。なんだ、なんだ、なんなんだ」

★ときどき地の文と会話の区別がつかなくなるが、これも確信犯。主人公の肉声が地の文にもあらわれ、このリズム感に引き込まれる。これまで英仏百年戦争など、日本人にはあまり馴染みのない題材を選びながら、文体の魅力で読者を引き込んできた佐藤賢一だが、今作でも題材は違えど、やはり佐藤流に近代アメリカを描く。

★実はエンターテンメントの世界には、自分の文体を持っている作家が意外と少ない。しかも「しっとりとした名文」ではなく、リズミカルな畳みかける文体は貴重。かつて講談が持っていながら、その後の軽んじられてきた文体の心地良さを持つ、現代日本には珍しい作家。「文体で読ませる」という新鮮な体験ができるので、ぜひ読んで欲しい。
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