およそ、ひと月ぶりにハワイに戻ってきました。
さて、今日ここハワイから日本に向けて旅立ったものがあるんです。それは「ホクレア号」という船なんです。
「ホクレア」というのは、ハワイ語で「幸せの星」という意味。
この船は、古代ポリネシアの遠洋航海用のカヌーを復元したもので、長細いカヌーを横に2つ並べてその間を板でつないだような形の船です。
羅針盤、コンパス、時計などは付いていません。もちろんエンジンも、電気も船室もない、本当に何も持たない船なんです。
どうやって航海をするかというと、スター・ナビゲーションと言って、
星、月、太陽といった空の様子から、船の位置や進路を割りだします。そのほかに海の潮の流れ、雲、風、渡り鳥で島の位置を読んだりするんですよ。
その昔ハワイ人の祖先は、このスター・ナビゲーションを駆使して、遥か4千キロも離れたポリネシアからカヌーで渡ってきて、定住したといわれています。西洋の「大航海時代」よりずっと昔の話です。
ハワイの人達は、1976年にホクレア号を造って、自分達の祖先がいかに優れた航海技術を使って海を渡ってきたのかを証明するために、古代ハワイアンのルーツとされるタヒチへ旅立ちました。この航海が成功したので、古代ポリネシアンの移住説が実証されました。そして欧米文化の前に消えようとしていたハワイ人の誇りも取り戻したんです。
それ以来ホクレア号は、30年間ポリネシアの島々への航海を続けてきましたが、今年は、初めて日本へやってくることになったわけです。日本もハワイとは移民などで古くからつながりがありますからね。
ホクレア号はハワイ島を出発してこれから3ヵ月ほど航海するんですが、実は私は去年の暮、ホノルル港でホクレア号を見せていただいたんです。
初めて見た時、「え? こんなに小さい船?」と驚いたほど、こじんまりとした可愛い船です。
船体は、長さが19メートル、幅が5メートルちょっと。2本のマストが立っています。エンジンがないので風だけが頼りです。
私は特別に停泊中のホクレア号に乗せてもらって、ナビゲーターでキャプテンの補佐でもあるカイウラニさんにお話を伺いました。
カイウラニさんは、29歳の女性航海士です。ハワイ大学の学生の時に、ホクレアのキャプテン、ナイノアさんの講義を受けてから、ホクレア号のプロジェクトに参加して9年になるそうです。
ホクレアには船室がないので、乗組員はカヌーのくぼみに横になって眠ります。屋根はないので、寝る時にはビニールシートでカバー。天気の悪い日にはレインコートを着たまま眠る。何ヵ月にも及ぶ船の生活で、ベットはなし! 辛くないですか? と聞くと、ニッコリ!「慣れるわよ!」。私じゃあ、慣れません!
電気がないので冷蔵庫もありません。食べ物はその日食べる分だけ魚を釣って「お刺身」やごま油であえたハワイ風の刺身「ポキ」にして、
あとはレトルト食品で過ごします。だから航海中に全員が体重が落ちるそうです。
初心者の船酔いも、数日経てばこれもまた慣れるそうです。
トイレなんですが、小さなカーテンを引いてするだけで、便器もないので中腰になったままするんですが、初めは苦労しても、これも慣れるそうです。
船をコントロールするのは長さ5メートルほどのオールのようなもの。れは海面を進む時には200キロの重さになるそうで、カイウラニさんは
体を鍛えることが日課となったとおっしゃっていました。
これからホクレア号は、まずミクロネシアの島々を回ってから、日本に向かいます。キャプテンのナイノアさんは、海の大切さを教えてくれた日系人に感謝し、ハワイの日系人の歴史と誇りを語り継ぎたい、とおっしゃっていました。
風と天候によりますが、沖縄に着くのが今年の4月上旬、その後、熊本、長崎、福岡、山口、広島、愛媛と回って、5月中旬に横浜に着きます。各地で楽しいイベントも予定されているそうです。