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リチャード・モーガン 『ブロークン・エンジェル』 アスペクト 3150円(上下巻セット) |
2007年04月05日 |
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今朝の担当は本の雑誌社・顧問の目黒考二さん (=文芸批評家の目黒考二さん)です。
リチャード・モーガン 『ブロークン・エンジェル』 アスペクト 3150円(上下巻セット)
★以前『オルタード・カーボン』 という作品を紹介したが、この作品は同じ主人公タケシ・コヴァッチ(日系と東欧系の血を引く)が活躍する第2弾。前作をお読みでない方のために説明しておくと、時は二十七世紀。人間の心はデジタル化され、小さなメモリーに記録されて頭部のつけねに埋め込まれている。スリーブと呼ばれる外側の肉体を買う金がある人間は永遠の生命を得ることが出来、メモリーを破壊された人間のみが死を迎えるという時代。
★設定はSFだが、群を抜く人物造形、めまぐるしいアクション、巧みなプロット。どれを取っても一級品だった前作『オルタード・カーボン』の結構は正統派のハードボイルドだった。そして今回は冒険小説。
★舞台は地球から遙かに遠いサンクション系第四惑星。この星では内戦状態が続いていて、名ばかりの政府と反政府軍が戦っている。主人公タケシ・コヴァッチは政府軍側の機甲部隊の傭兵として戦うが負傷して病院に担ぎ込まれる。そこにある男が来て、第四惑星にある火星人の遺跡をめぐる儲け話を持ちかけてくる。火星人は滅んだのか、どこか遠い星に行ってしまったのか、今はその姿もないのだが、遺跡だけが残されていて、それが幅二十キロ、長さ六十キロの巨大な宇宙船。これを解明すればとてつもないテクノロジーが残されているはずだから、莫大な利益を生み出すことになる。そこで、その遺跡にたどりつくための案内人としてワルダーニという女性考古学者をまず強制収容所から救出し、遺跡探検の資金調達のために、マンドレーク社という商社に話を持ちかける。さらに探検隊のメンバーを集めて、宇宙船探検の旅に出かけていく。
★つまりこれは、探検型の冒険小説。しかも秘境冒険小説だ。アフリカの奥地などを探検する秘境冒険小説は、冒険小説の数あるターンの中でも、もっとも原型に近いもの。だから秘境冒険小説のかたちを借りた本書が、冒険物語の本質と醍醐味に限りなく接近していくのも当然のこととなる。となると当然、さまざまなアクシデントが起こり、タケシ・コヴァッチはその一つずつを克服していかなければならなくなる。残留放射能に汚染されたり、宇宙船に入り込むと手榴弾が仕掛けられていたり、さらには一行の中に裏切り者までいたりする。物語はまっすぐに進まず、複雑な様相を呈してくる。これもまた『ナヴァロンの要塞』のような敵地潜入型の冒険小説のパターン。時が二七世紀でも、舞台がサンクション系第四惑星でも、本書にもまぎれもなく冒険者の血が脈打っている。めまぐるしいアクションが頻出するが、人間臭いドラマも絡み合って、読み始めたらやめられなくなる。
★もちろん、舞台はアフリカの奥地でもエーゲ海でもなく、サンクション系第四惑星であるから、幾多の冒険物語と異なる点も少なくない。その第一は、メンバーを集めるくだり。市場に行ってメモリーをひと山幾らとかで買ってくるのである。デジタル化されているから、そのメモリーを読めばだいたいの経歴はわかる。ある程度選抜して肉体を与え、そして面接してメンバーを決定するまでの過程が面白い。一九世紀や二〇世紀の小説では絶対に起こりえない設定だ。
★もう一つは、冒険物語の結構を備えていても、前作に引き続き、ハードボイルドの心がここにもあることだろう。主人公のタケシ・コヴァッチが今回もひたすらカッコいい。へらず口は叩くし、ロマンスの主役もつとめるし、その魅力がここでも全開である。タケシ・コヴァッチはタフでドライだが、妙にセンチメンタルでもあり、それがこの男の魅力ともなっている。
★新たな肉体を買うことの出来る金持ちだけの特権ではあるにしても、人間がある意味での不死を獲得した時代であるというのに、全編の底を哀しいひびきが流れている。緊迫したアクションと緻密なプロットが交錯するので一気に読まされてしまうのだが、しかし、どこかに物哀しいひびきが本書にはある。スリーブを交換すれば、新たな生命を次々に得られる時代ではあるのだが、再スリーブを繰り返すと精神に変調をきたす。すなわち、ある意味での不死を獲得した時代でありながら、それは真の不死ではない。リチャード・モーガンが描く二十七世紀は、そういう中途半端な、猥雑な、そして哀しい時代なのである。物哀しいひびきはそこから生まれている。
★タケシ・コヴァッチはけっして超ヒーローではない。何か文句のあるやつは一列に並んでくれと言い放つタフでドライな男だが、しかしセンチメンタルな男だ。物哀しいひびきの似合う男だ。真にカッコいいのはそのためにほかならない。読み始めたらやめられなくなる冒険物語の傑作! |
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加藤義彦 『「時間ですよ」を作った男』 双葉社 1575円 |
2007年03月29日 |
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今日の担当は書評家の岡崎武志さんです。
加藤義彦 『「時間ですよ」を作った男久世光彦のドラマ世界』 双葉社 1575円
★先日、17日に俳優の船越英二さんが亡くなられて、各テレビ局のワイドショーなどで、船越さんが出演された番組として、けっこう「時間ですよ」の画像や写真が映っていました。なつかしいなあ、と思いながら見てたのですが、昭和45(1970)年2月に、ここTBSから全国のお茶の間に流れたのが、超人気ドラマ「時間ですよ」で、下町の銭湯をきりもりする船越英二さんと森光子の夫婦の物語でした。ぼくは当時、中学生ですが、毎週欠かさず見てたんです。
★このドラマを演出したのが久世光彦さん。久世さんも昨年3月に亡くなられましたが、「時間ですよ」以外にもごぞんじ「寺内貫太郎一家」、ジュリ-が三億円犯人になった「悪魔のようなあいつ」、「ムー一族」、「向田邦子スペシャル」など、多くのヒット作、話題作を作ってこられた、まさに鬼才です。最後の十年ぐらいは小説を書いて、数々の文学賞を受賞され、作家としても名を残されたましたが、やはりなんといってもドラマでの功績が大きい。
★この本は、テレビ番組について文章をたくさん書いているライターの著者が、久世さんに6年も密着取材して、久世ドラマの作り上げた世界をていねいに分析しています。ぼくのように久世ドラマを見続けてきた者としては、めちゃくちゃ面白い本です。また、驚くような裏話もいっぱい出てきます。
★まずは「時間ですよ」の話。さきほど、船越英二さん、森光子さんが夫婦役と言いましたが、以下敬称略でその息子が松山英太郎、その嫁が最初大空真弓、のち松原智恵子。そのほか銭湯の従業員3人に堺正章、悠木千帆(現・樹木稀林)の名コンビに、あと川口晶……これはシリーズ3作作られるうちに変わります。浅田美代子もこれでデビューした。ああ、そうそうと、いまラジオの向こうでなつかしいと思われている方も多いと思います。最高視聴率は30%を超えて、最初15回予定が30回に伸びて、第2、第3とシリーズ化されていく。いま、ゴールデンタイムのドラマで、30回も続くって、ないですよね。いかに人気がすごかったかがわかる。また、この「時間ですよ」で久世光彦の名前がクローズアップされます。
★この本にはおもしろい話がいっぱい出て来るんですが、例えば、「時間ですよ」はじつはリメイクだった。昭和40(1965)年に「日曜劇場」の枠で、単発で森光子と先代の中村勘三郎の夫婦で「時間ですよ」が橋田寿賀子脚本、石井ふく子プロデューサーという黄金コンビで作られている。久世演出の「時間ですよ」も、当初の数回は橋田寿賀子脚本でした。しかも配役は、トリオ・ザ・銭湯の堺正章、悠木千帆のところに、岡本信人、沢田雅美が決まっていたといいます。どちらも橋田寿賀子ドラマの常連で、岡本信人さんはいつも岡持ち提げているイメージの人。しかし、これでは僕らが知ってる「時間ですよ」にはならなかった。というのも、「時間ですよ」の凄さは、劇中のコントや、ギャグなどドラマからはみ出した部分にあったからです。著者はそれを「寄り道ドラマ」と名づけて、久世ドラマの特色としている。つまり、ドラマなんだけど、バラエティ番組だった。それはバラエティ全盛になるテレビ界の先駆けだった。例えば、第3シリーズで、困った場面になると、そうだウルトラマンを呼ぼうと堺と悠木が言って、本当に等身大のウルトラマンが出てくるギャグがありました。銭湯にウルトラマンが出てくるおかしさ。あれ、中に入っていたのは堺本人だった。「寺内貫太郎一家」でも、やはり樹木稀林さんのおばあちゃんが、壁のポスターに「ジュリー!」と叫ぶ名物のシーンがありましたが、あれもドラマにはまったく関係ない。でも、おかしかった。
★またこの本では、久世光彦が、自分からドリフターズの「8時だヨ! 全員集合」の演出をかって出たり、大ヒット作「寺内貫太郎一家」が始めるにあたって、周りから反発があって四面楚歌状態だった(主役の小林亜星が素人、商売が墓石屋で縁起悪い、足の悪い長女にクレームがつく)とか、知られざる話がたくさん出てきます。無理を通して、強引に自分の世界をドラマに作り上げて、それをヒットさせてしまう。久世光彦の才気が、テレビドラマでもっともうまく生かされたのだなあ、とこの本を読んで思いました。
★あと、久世光彦がペンネームで歌謡曲の作詞を300曲もしていた、というのも意外に知られていない。「時間ですよ」で人気が出た天地真理の「ひとりじゃないの」は久世の作詞なんです。ドラマはビデオで残るけど、それがどう作られたかという制作や演出の話は残りにくい。久世光彦が死んでしまったいま、この著者が生前によくちゃんと話を聞いていてくれたなあ、と感謝したいような本でした。 |
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北上次郎・編 『14歳の本棚~部活学園編~』 新潮文庫 540円 |
2007年03月22日 |
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今日の担当は本の雑誌社・顧問の目黒考二さん (=文芸評論家の北上次郎さん)です。
北上次郎・編 『14歳の本棚~部活学園編~』 新潮文庫 540円
★ちょっとめぼしい新刊がなかったので、今日は私のおすすめの短編&抜粋が詰まったアンソロジーを紹介したい。今回編んだのは中学生が登場する小説だけを集めた叢書。児童文学を繙けば、中学生はたくさん出てくるけれど、一般小説のなかにも意外と多い。そこにはさまざまな中学生がいて、さまざまな日々を送っている。ジャンルも時間も横断して、その中学生群像をまとめてみたい、と長年考えていたのは、そういう小説が好きだから。
★中学生を主人公にしたアンソロジーを編みたいと思ったきっかけになったの は、本書にも冒頭の1章が収録されている井上靖の「夏草冬濤」。読んだのは大学生の頃なのでずいぶん前になるが、小学生の日々を描く『しろばんば』と旧制高校の日々を描く『北の海』の間に位置する自伝的小説三部作の1篇。主人公の少年が神社で学生カバンを失くしてしまうエピソードが出てくる。カバンを失くすのはたしかに困るが、大人にとってはどうにでもなること。しかし中学生にとっては重大な問題。その息づかいが鮮やかに描かれる。こういう些細な積み重ねこそが、中学生の日々なのである。
★中学生というのは、子供でも大人でもない危うい時期。思い出すだけで、まだ無限にあった未来と漠とした不安が蘇ってきて、胸がキュンとしてくる。友人との些細な行き違いに悩み、隣町に行くことが冒険で、そしてまだ若い両親に囲まれていた日々。それが中学生だ。遙か昔に中学生だった者には遠い日々ではあるけれど、たとえようもなく懐かしい。いちばん危なっかしいその思春期をいったいどうやって乗り越えてきたのか、今となっては記憶も定かではないが、これらの中学生小説を繙くと、その日々が蘇ってくる。
★中学生小説を語るなら、スポーツに打ち込む少年たちの姿も欠かすわけにはいかない。そのラインから選んだのが、川西蘭「決戦は日曜日」(短編集『ひかる汗』の1篇)。主人公は街の柔道教室に通っている少年、健太。指導者は初老の頑固オヤジ。非科学的な練習法を奨励し、何かといえば精神だの気力だの努力だのという古くさい言葉を口にするので、健太は独自のトレーニングをしている。ある日、その頑固オヤジの娘の友里に投げられる。彼女はかわいくて強い。しかしそれは自分の油断だろうと彼は考える。すると指導者に呼ばれる。少女は柔道をやめると言っているというのだ。わが娘は才能があるのでやめてほしくないと考えた頑固親父は、健太に友里と試合をしてくれないかと言い出す。「お前にしてもらいたいのは、友里との試合だ。あいつと同年代で、あいつよりも強い奴がいることを知ってもらいたいんだ。そうすれば、負けず嫌いだから、これからも柔道を続けると思う」というわけで、金曜に戦うことになるという短編。この先は紹介できないが、学園内の様子も巧みに描かれ、着地もうまい。
★このほか、寄宿舎生活と性の目覚めを描いた森鴎外の「ヰタ・セクスアリス」、いじめ問題を正面から扱った角田光代「空のクロール」、吹奏楽部を描いた中沢けいの「ブラス! ブラス!! ブラス!!」少女小説の新たな幕開けを告げた氷室冴子「クララ白書」、ビートルズ日本公演をからめた松村雄策の「F列十二番」、大正末期の渋谷が詳細に描かれる大岡昇平「青山学院」を収録。
★もちろんこれは、あくまでも入り口。このアンソロジーで興味を持たれたら、その短編集に、あるいは長編に、そしてその作家の別の作品に、はたまた中学生を描いた他の作品に、どんどん手を伸ばしていただければ嬉しい。今後、第2巻「初恋・友情・故郷篇」、第3巻を「兄妹・家族篇」として刊行していく予定。 |
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吉岡忍 『ニッポンの心意気』 ちくまプリマ-新書 903円 |
2007年03月15日 |
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今日の担当は、書評家の岡崎武志さんです。
吉岡忍 『ニッポンの心意気』 ちくまプリマ-新書 903円
★桜の便りが聞かれるような季節になって、いよいよ四月が目前。今年もまた、
初々しいスーツ姿の新社会人が街にあふれ出します。しかし、せっかく就職が決まっても、大卒の新入社員の三割が、三年未満で辞めてしまう。再就職する「第二新卒」という言葉もあるぐらいだから、次に仕事が見つかれば、まあいいや、と簡単に辞めてしまうんでしょうか。辞めた理由として「入社してみると思っていた仕事とは違っていた」などが挙がるようですが、最初はどんな仕事でも大変だと思うのですが、職業や仕事に対する考え方が変わってきたのでしょうか。
★今日、御紹介する『ニッポンの心意気』は、企業に就職する、というのではなく、自分で仕事を見つけて、自分の力で人生を切り開いていった人たち78例を取材した本です。北は北海道から、南は沖縄まで、日本全国の人々が登場するのも特徴の一つ。読んでいくうちに、世の中には、まあいろんな仕事、いろんな生き方があるもんだ、と感心します。
★「巻き寿司一筋に四十年」は、広島市の下垣さかえさんという八十になるおばあさんが登場します。さかえさんは、もとは八百屋さんだったんですが、近所の人に
得意料理の巻寿司をふるまっているうち、それが評判になり、商売のかわたら売るようになった。七十七歳のとき八百屋を辞めて引退するつもりが、まわりの勧めで巻寿司専業になり、いまは一日300本が売れる大人気の店です。一日中立ちどおしですが「どんどん忙しくなって、楽しくなる人生もあるんだって、この年になってやっとわかりましたよ」と語っています。
★愛媛県内子町の中谷兄弟は、まだ二十代ですが、父親の仕事を引き継いで養鶏業を営んでいる。父親が五十羽で始めたのが、いまは八百五十羽に増えている。この養鶏所では徹底した自然農法による餌を使っている。いま養鶏は、鳥インフルエンザ騒動で打撃を受けていますが、この兄弟の養鶏所では「健康に飼う」ことを心掛けて、被害を防いでいる。
★その卵の殻の再利用を考えた人もいます。佐賀市の下幸志(しも・こうじ)さんは、
もとは木工職人だったんですが、日本中で年間、二十万?も処分される卵の殻をもったいないと思い、再利用の道を考えます。これを粉にして、運動場のライン引き、野球に使われるロジンバック、学校の黒板に使うチョーク、建築資材と次々アイデアを出し特許を取る。最初はガソリンスタンドの2階に間借りしていたのが、いまは会社も大きくなり、自社工場まで持っている。この下さんが言う。「これって、ほんとにコロンブスの卵ですね」。
★そのほか、古時計を集めて甦らせる名古屋の時計屋さん、大豆と小麦で本物の醤油を仕込む醤油屋さんなど、手を使って仕事をして、その仕事に誇りを持って生きている人がたくさん登場します。大阪・通天閣の下にある商店街の老舗履物屋さんには、下駄や草履が置かれている店の奥にジャズのCDが売られている。四代目の沢野さんは、趣味が嵩じて、ヨーロッパのジャズをCD制作して販売している。沢野工房というレーベルで、ジャズファンのあいだでは有名です。ぼくも何枚か持ってます。
★著者の吉岡忍さんは「あとがき」で、「仕事はお金儲けとイコールではない。お金以上の価値をあたえてくれるものを仕事にする面白さを、若い読者には読み取ってただきたいと思う」と書いている。この本には、それぞれ登場する人たちの写真も掲載されていますが、やっぱり、みなさんいい顔してますね。いま新聞やテレビでニュースを見ていると、日本にいいところなんかないんじゃないかと思うけど、日本全国津々浦々で、こうしてがんばって生きている人がいることを知ると励まされます。
岡崎さんの新刊『読書の腕前』が来週発売されます。今回は岡崎さん流の読書術がテーマです。 |
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平安寿子 『あなたがパラダイス』 朝日新聞社 1680円 |
2007年03月08日 |
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今日の担当は本の雑誌社・顧問の目黒考二さん (=文芸評論家の北上次郎さん)です。
平安寿子 『あなたがパラダイス』 朝日新聞社 1680円
★『グッドラックララバイ』や、一昨年このコーナーでも紹介した『もっと、わたしを』など、今もっともうまい作家のひとりである平安寿子の新作は、更年期を迎えた三人の女性を描く作品集。これまで若い人を主人公にすることが多かった平安寿子だが、最近は自分の実年齢と近い50歳前後の女性を描くようになってきている。今回の作品もさすがにうまい。
★『あなたにパラダイス』は4篇の作品が収録されている。1~3まで、それぞれ別々の主人公のドラマが描かれ、4篇目でその全員が揃うという趣向になっているが、主人公3人は全員50歳前後の女性。いわゆる更年期の年齢で、そろそろ老いを意識せざるを得ない時期。しわは増えるし、目や耳、歯もだんだん悪くなってくるし、記憶力も衰えてくる。自分や友人が病に倒れたりするようになり、そのたびに重いものを突きつけられ激しく消耗する。年をとるのは嫌だなあと思うけれど、それだけじゃないと応援してくれるのが本書である。「歳をとるのは、ほんとにつらい。/でも、この歳まで生きてこなければ、会えなかった人がいる。立ち会えなかった時代の局面がある。だから、若さなんて羨ましくない」
★たとえば「ついに、その日が」の主人公は、53歳のまどか。両親は80歳すぎで、その介護に追われる日々。そのディテールがまず克明に語られる。これだけでも大変なのに、57歳の夫はいまから定年後の生活の心配をしている。サラリーマン一筋の夫は、定年後にすることがなにもないのだ。そんな面倒は見られない。自分で何とかしてくれとまどかは思う。長男は大学で始めた演劇に夢中になって、卒業しても就職はしないと言い出すし、OLの長女は食事も洗濯も母親任せの甘えん坊。
★それだけでも大変なのに、夫の舅の介護に疲れた義姉が家出したと義兄が訴えてくる。こちらは手いっぱいでどうにも出来ないのだが、仕方なく義姉に電話すると、義姉は韓流スターのパク・ヨンハのファンで、おっかけをやっているという。「1時間でも2時間でもずっとワクワクしてるのよ。ワクワクよ。そんな気持ち、ずっと忘れてた。あんなワクワク気分は、10代だけのものと思ってた。歳とると、若いときに持ってたものを全部失くすんだと思ってたのよ。でも、そうじゃなかった」これは義姉のセリフで、つまり現実はどれほど厳しく過酷でも、楽しいことは忘れてはいけないという中高年女性への応援メッセージになっている。
★その他、「おっとこどっこい」では妻をなくした企業戦士に恋をする敦子の姿が描かれ、「こんなはずでは」では不妊が引き金になり離婚し、更年期障害に悩む千里が前向きな生き方を取り戻す様子が描かれる。この3人のヒロインの共通項はジュリー(沢田研二)のファンだということ。今まで知らなかったが、ジュリーのコンサートには今でも往年のファンが集まり、ジュリーもまた中高年女性へのメッセージをこめた歌なども歌っているという。
実はこの作品は「ジュリー小説」でもあるのだ。(ちなみにタイトルはジュリーの曲名「おまえがパラダイス」のパロディ)
★心身の不調に加え、親・子供・夫の三重苦を抱えた中高年女性たちのユーモアたっぷりの“熟年恋心”小説。中高年女性の恋心が全開の作品集で、平安寿子は相変わらず快調だ。 |
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