かけがえのない時間をありがとう
昔、名作『君の名は』が始まる時間には日本中の銭湯から人が消えたといわれました。ドラマづくりが始まり半世紀が経って、流行の職業や作り手側が決め付けた理想のライフスタイル、音楽を中心とした、浮薄なドラマが乱立し、視聴後も全く記憶に残らない作品が溢れていました。
多くの選択肢をもった視聴者は、テレビから離れていきました。そういう危機的な状況を迎えてこの仁の登場です。ドラマの雄、TBSの今回の開局記念ドラマは、私の勝手な見方ですが、人間の求める、時代が変わっても確固として揺るがない大切なテーマを、もう一度原点に立ち返って作られたことが、世界にまで展開する大成功をおさめた原因と思います。
多くのスタッフの方々の妥協しない職人技。手術シーンのリアルさに驚き、造形物も時間と労力の痕跡がありました。役者も名優から若手まで、ほんの一瞬の出演時間でも印象的な像を残す。素晴らしい。たとえば、こんなシーン。
前作の高岡早紀さんはあまりにおぞましい病魔におかされ、闇に葬り去られようとする姿と在りし日の花街一の豪華絢爛の花魁姿の落差からは、様々な事情で運命にもてあそばれる短い一生の悲しみが物言えぬ苦しい吐息から奏でられました。本来は美しい高岡さんのやつれた顔があまりに悲しかった。
田之助さんのいう「人の命は長さで評価するのか」というテーマには、尊厳死問題も抱える現代人にとっても、いったい誰が答えられるのでしょうか。彼もまた不幸な生い立ちを包み隠して、身を切り裂く想いで毎日舞台をつとめる姿は哀れみを誘います。骨太の役者さんたちがしっかりと脇を固め、また新しい才能も私たちは見つけることができました。
錯人もいない明け方の河原で若い命を絶った東という武士もいましたね。復讐という冷たい情熱と、次第に龍馬の人柄にひかれていく現実の自分との葛藤が死に行く背中に見事にあらわれていました。誰も彼の死と心の葛藤を知らない。余計に哀れです。
今後新たな役で皆さん成長されると想いますが、TBSも今回の壮大なチャレンジを力に変え、時代劇の新たなアプローチやテレビドラマの可能性を追及していってほしい。想いは必ず伝わります。うちは家族がリアルタイムでそろって見ました。何年ぶりのことか、普通の何気ない時間がかけがえのないものだと気付いたのもJINのおかげです。
Raymond/男性 (52) 2011.6.25 (Sat) 22:22