隈取
怒りは頂点に達したとき、顔の血管が浮き出るのを「青筋立てて」といいますね。「隈取」は、そうした人間の顔面の筋肉・血管をデザインした、歌舞伎独特の化粧法なのです。不動明王や四天王などの仏像の、様式的な表情も影響しているかも知れませんね。
細かく分類すれば数え切れないぐらいの種類があります。そしてそれぞれが、その役柄の性格を象徴しているのです。
単純に分ければ、紅(赤)は、超人的な善人方、藍や茶は悪人や妖怪です。
紅の代表的なものは、スーパーマン「暫」の主人公の「筋隈」、藍は「暫」で対抗する「公卿悪」と呼ばれる天下を狙う謀反人です。この場合、「暫」の紅は、輝かしくのぼる太陽を示している、と言えます。
ほかにも、場面の展開によって、最初「一本隈」であった主人公の隈が「二本隈」に増えることで、怒りや感情の増幅を示す、ということも出来ます。
江戸随一の色男・助六が目の下に入れているのは「むきみ隈」。貝の剥き身に似ていることから来たそうですが、これがあると、力強さと同時に色気も加わります。
「猿隈」や「鯰隈」といって、ユーモラスな役の時に使う特殊なものもあり、これらは代々の名優たちの工夫がそのまま今に伝わっているのです。
舞台が終わると、隈取をした役者は布地を顔に押し当てて、隈を写したりします。これを「押し隈」といって、役者がサインしてファンに送る、ひとつのサービスですね。さまざまな意味で「隈取」は、歌舞伎の美しさを象徴的に示した技法と言えます。