御曹司(おんぞうし)
「御曹司」というのは、直訳してしまえば「坊ちゃん」です。
もともとは、宮廷や貴族の部屋のことで、それが「そこに住んでいる人」を指すようになりました。例えば源義経は「九郎御曹司」です。今ではオーナー企業や名門の子息のことを、ちょっぴり皮肉を込めて言いますね。
歌舞伎の場合、主役クラスは、一部の家柄の大幹部たちが勤めています。その大幹部たちの家に生まれ、将来、その家の役者の大きな名跡を継ぐことが約束されている若者を「御曹司」というのです。
よく、歌舞伎は世襲だ、といいますが、それは大幹部の御曹司や、ワキ役の名門のことで、それ以外の八割の役者は、幹部に弟子入りするか、国立劇場の歌舞伎研修養成制度を経て修業を重ねるのです。
御曹司たちは、六・七歳で芸名を貰って「初舞台」を踏みますが、それ以前に、物心つかない赤ん坊や幼児の時にお父さんに抱いてもらったりして、本名で「初お目見得」をしたりします。例えば中村勘九郎の長男・七緒八くん(2)は、今年四月の歌舞伎座柿落しに登場して客席を沸かせましたが、その前にも去年の五月平成中村座の千秋楽で、お父さんに抱かれて出てきているのです。御曹司たちは、こうやって舞台の空気を覚えるんです。
でも、大きな名跡を「継ぐことが出来る」というのは「継がなければならない」使命・宿命も同時に背負うことでもあるわけです。
その重圧に苦しんで、あるいは折れていった人たちを随分観てきました。
「歌舞伎の御曹司」といっても、華やかさの裏に、人知れぬ苦悩と努力があるのです。