女形
歌舞伎の最大の特色は、男性のみの演劇であり、男性が女性に扮する「女形」でしょう。
出雲の阿国が歌舞伎踊を広めたあと、遊女たちが舞い踊る女歌舞伎、イケメン美少年を集めた若衆歌舞伎と続きます。しかし、これらはいずれも「風紀を乱してケシカラン」と禁止されてしまいます。
女歌舞伎も若衆歌舞伎も一種のレビューでしたが、若衆たちの前髪をそり落とし、ちゃんと筋のある芝居をせよ、ということになる。それには女役も必要なので、ここに女形の技術が生まれ、磨かれていくことになります。
元禄時代の名女形・芳澤あやめは、楽屋はもちろん日常も女のような生活をしなければ、女形ではない、と厳しく自分を律していました。
その一方で、女形とは男が女になりきる「ウソ」を演じるのだからと割り切って、素顔は全く普通の男性、という生き方もあります。むしろ、今は後者でしょうね。
女形は、若手の頃は娘役やお姫さまの役をこなしたあと、立派な武士の奥方や、品格のある老女へと、役が進んでいきます。
しかしそれが必ずしも実年齢と一致していないのが歌舞伎の面白さです。例えば、七十代八十代のおじいさんが、若い町娘に扮しても、水の滴る色っぽさを見せてくれることがあります。
歌舞伎の芸は「花」です。若さゆえに美しい「若木の花」「時分の花」もあれば、年齢・経験によってはじめて到達しうる「老木の花」の豊かさもある。それが、いつまでも歌舞伎を飽きさせない秘密なのでしょう。