「歌舞伎俳優研修」制度
主人公の一人澤山一弥は、門閥以外の歌舞伎研修生出身、という設定ですね。
昔、素人が歌舞伎役者になるには、直接幹部の門を叩いて入門し、その身の回りの世話から始めなければなりませんでした。いわゆる「雑巾がけ」、「芸は見て盗め」です。
しかし戦後歌舞伎が低迷してくると、もっと組織的に体系だてて役者を育てなければ、という声が高まり、昭和45年(1970)国立劇場が「歌舞伎俳優研修制度」をスタートさせました。
中学卒業以上、23歳までの男子なら経験不問。受講料無料。研修期間は二年間、歌舞伎の実技や立ち回りはもちろん、日本舞踊・三味線・長唄・義太夫・作法と、みっちり仕込まれたあと、希望の幹部役者の門弟として引き取られていきます。
無論、はじめはせりふの無い通行人や、立ち回りで主役を引き立てる「カラミ」と呼ばれる下積みのワキ役です。
しかしこの四十数年間で、現在95人の歌舞伎役者を送り出しました。これは、歌舞伎役者全体の3割を占める数字です。既に一期生、二期生クラスはベテランの域に達して、重要な役を任されていますし、市川猿翁(三代目猿之助)のように、研修生出身者たちを一座の若手として積極的に登用している人がいます。いまや、研修生出身者がいなければ、歌舞伎は幕が開かないのです。
さらに研修生OBたちは「稚魚の会」という勉強会を作っており、毎夏の勉強公演で若手たちが主役を演じ、幹部たちの目にとまることがあります。また、彼らの成長を楽しみに毎月の舞台を注目しているお客さまも少なくありません。
澤山一弥の夢は、決して不可能ではないのです。