棒しばり
きょう登場した踊り「棒しばり」は、歌舞伎より以前、室町時代の「狂言」のひとつを、歌舞伎舞踊に直したものです。
幕末から、能や狂言を歌舞伎に直した演目が盛んに作られて行きます。「棒しばり」も、バックに能舞台のように立派な松が描かれていたでしょう?そこから、こうしたレパートリーを「松羽目物(まつばめもの)」といいます。弁慶が主君義経の窮地を救う「勧進帳」などはその代表格ですね。
さる大名の家来・太郎冠者と次郎冠者は、とかく酒癖が悪い。しかも次郎冠者は棒術という棒を使った武術の達人。そこで大名は太郎冠者に隙を見て次郎冠者を縛らせ、太郎冠者も後ろ手にしばって、外出してしまう。二人は何とか酒蔵に忍び込んで酒を飲もうとするが…というお話。
踊りは振りといって、身体と手を使って情景や気持ちを表現するわけですが、この「棒しばり」ではそれが使えないんですね。この踊りは九十年ほど前に出来た、比較的新しいものなのですが、その時はじめて演じたのが六代目尾上菊五郎と七代目坂東三津五郎という、三十代になるやならずのライバルであり、後の踊りの名人たちでした。作者は、この若手二人の「手」を封じて踊らせてみたら、どんなに面白いだろう、というイタズラ心を働かせたのです。
とてもわかりやすい踊りですから、海外へ持って行って上演した時、酒樽に「WINE」と書いておいたら、お客さんに大受けだったそうです。
とは言え、棒で両手を平行に縛られたままで扇を受け取ったり、棒術のあざやかな立ち回りといった見た目以上に、身体を束縛されての踊りは、それだけの腕がなければ、やはり勤まりません。
八月の歌舞伎座でも、今の三津五郎(十代目)・勘九郎と、初演した二人のそれぞれひ孫が踊って、汗を流します。