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歌舞伎コラム

『ぴんとこな』をより楽しむための「ことば」「演目」「約束事(しきたり)」を“歌舞伎コラム”として紹介します。

花道

花道は、まさに歌舞伎独特の舞台機構です。歌舞伎の劇場に入ると、舞台向かって左側から、客席に向かって真っ直ぐ通路が伸びています。ここから劇中人物が登場し、退場していくわけです。
花道の向こう、客席奥には、役者が出を待つ「鳥屋(とや)」という小部屋があり、出の時は花道との間を仕切る「揚幕(あげまく)」を開けます。この時鈴がシャリンと音を立てて、観客に出を知らせるのです。
元々役者にハナ(祝儀)を贈るための道だったとか様々な説がありますが、はっきりしません。
歌舞伎はもともと能などの影響を色濃く受けていましたから、能舞台の通路「橋掛り」が次第に変型していったのですね。
利点は何より、演技をする場が本舞台だけではなく、客席の中をも通る形で広がったことで、立体的な芝居が可能になったこと。それと、客席の横を花形役者が通る、というワクワクとする昂揚感でしょう。
花道の揚幕から七分・舞台から三分の位置を「七三(しちさん)」といいます。登退場する役者は、ここで見得なり仕種をして、客席に演技を強調するのです。ここには、「スッポン」と呼ばれる小さなセリがあって、幽霊・妖怪・妖術遣いの登場に用いられます。
この花道と平行して、かつては反対側に「仮花道」(東の花道)が常設されていました。これがあると、例えば両花道は堤で、客席は川に見立てたり、大物役者が東西同時に登場するなど、より華やかな演出ができます。今は、臨時にしか設けられません。今月の歌舞伎座第一部「野崎村」も、本来は両花道で、仮花道を恋人が駕籠、本花道を恋敵が船で引っ込むのを、舞台で見送る健気な娘、という演出が出来るのですが、都合により本花道だけなのは、惜しいことです。

犬丸 治(いぬまる おさむ)

演劇評論家
著書「市川海老蔵」
(岩波現代文庫)など

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